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再会1

 マグナサーパス王国またの名を魔術師の王国とも言うだけあって、魔術師が幅を利かせている国だ。

 道具屋に並ぶマジックアイテムの数々。

 大半がこの国で製造されているので、送料の上乗せがない分、他の国より随分と安い。

 うぉ、エリクサーだ。この値段ならアリだな。一本買っておくか ――そのエリクサーを、ベッドで身を横たえている、綾香に飲ませてみた。

 ゴホゴホとむせ返す。

 マグナサーパスに到着したころから少しおかしいと思っていたら、案の定風邪だった。

 冒険者組合に行くより先に宿を確保することになったのだが、やむを得まい。


「どうだ。少しは楽になったか?」

「体力は戻った感じ、けど頭痛いし寒気がする」


 長い栗毛のほつれを摘まんで避ける。

 水で濡らしたタオルを額に置いた。

 もちろん絞ってある。


「まぁ風邪だろうな。暫くゆっくりすることだ」

「ごめん。奥さん探さなきゃいけないのに」

「病人は病気を治すことだけ考えろ、昔からの格言だ」

「はい」


 息苦しくないちゃんとした寝間着、かつベッドなどの調度品がちゃんとしていて尚かつ病人に配慮ができる宿、只の宿屋より値段が高めだが止むをえまい。まぁ若いから余裕を見ても三日ってところか。

 パチパチと暖炉が爆ぜる音を聞きながら、水が張った手桶を見た。

 ともに宿の女将さんの計らいだ。

 綾香が寝入ったことを確認すると部屋をそっと出た。

 階段を降りカウンターに向かう。

 丁度その女将さんと出くわした。


「アヤカちゃんの様子はどうだい」

「おかげさまでだいぶん楽そうです」

「それならよかった。って、アンタまさか出かけようって言うんじゃないだろうね」

「食い物の調達ですよ。ポーションってだけじゃ治るものも治りませんし」

「そこの窓から外見てみな」


 吹雪いていた。

 大分いい感じに。

 遭難になったら流石に洒落にならない。


「今日はもうどこも店じまいだね。アンタもさっさと部屋に戻りな。あとでポタージュ持って行ってやるから。後、はいこれ。うちの旦那のお古だけど持っていきな。アンタもちゃんと体を拭いて着替えるんだよ」


 一言礼を述べて部屋に戻ると、綾香は静かな寝息を立てていた。

 起こさないように装備を外し、着替えて、ソファーに身を沈めた。

 装備を完全に外したのはいつ以来ぶりだろうか。

 足の指をモサモサと動かす。

 この素足の解放感がたまらん。

 このままベッドに潜り込めば一瞬で寝てしまいそうだ。

 綾香の数メートル隣にあるもう一つのベッド、そのベッドがおいでおいでと誘惑している。

 おぉっとそうはいかない。

 綾香も本調子でない以上俺が気を抜くわけにはいかんのだ。

 綾香の額に掛けてあるタオルを、水に浸し、絞る。

 そしてまた額に掛けた。

 気付けもかねてクリスタルダガー位装備しておくかと、室内用コートの帯に取り付ける。

 睡眠と覚醒の間でウロチョロしていると、コンコンと扉を叩く音がする。

 女将さんだった。

 ジャガイモのポタージュスープを約束通り作ってきてくれたらしい。

 俺は先に頂いて、残りは綾香の分だ。

 暖炉で温めなおせばよかろう。

 スプーンですくって腹に流し込んだ。

 おぉ骨身に染みる――。

 

 夜が明けていた。一晩中うつらうつらと舟を漕いでいたらしい。

 窓を見れば雪も止んでいた。

 窓からの薄日が綾香の寝顔に落ちる。

 女将さんからもらった鍋を暖炉の火にかけた。

 もう少し温まったらかき混ぜよう。

 もぞりと綾香が布団の中で身じろぎする。

 

「ねぇ」


 再加熱したスープを器によそって手渡した。

 一晩おいた方がおいしいのだ。


「はいどうぞ」


 ぐぅ、彼女の腹の音が促したので彼女は一口食べた。

 何かを言いたげだったが、スープの味がキャンセルしたらしく、全部食べ終わるまで無口だった。


「まだお代わりあるぞ」

「頂きます」


 結局彼女は全部平らげた。

 食欲があるならもう大丈夫だろう。

 昨夜のうちに手入れしておいた装備に手を通す。


「俺はこれから出かけるから。綾香はもう少し寝てろ。あと女将さんが鍋を回収しに来るはずだからその時は挨拶をしておくように」

「あのね」

「なんだ」

「いつ着替えたんだっけ、私。下着も変わってるんだけど、私。体も拭かれた形跡があるんだ・け・れ・ど」

「安心しろ。その辺は女将さんに手配してもらった」


 頭を抱えて顔を真っ赤に染めている。


「なお女将さんは六〇歳超えたぐらいだ」

「ご配慮感謝いたします。これ以上はあり得ないぐらいの采配です」

「そうだろそうだろ。落としどころを探るの大変だったんだぞ」

「寝顔と寝起き姿見られただけでも十分よ!」

「何をいまさら。野営中に何度も見たぞ」

「ベッドの上とかのホテルの部屋とかシチュエーションを言ってるのよ! なんか事後みたいじゃない! も、もう! さっさと働きにいけーっ! このばかーーっ!」

「それは、ナイナイ」


 枕を投げつけられたのでさっさと外出することにした。

 屋外に出れば風もなく、只ひんやりとした空気があった。

 街の住人だろう人々が、雪かきや雪下ろしをしている。

 冬季が終わるまで居座るなら俺らも手伝わねばならないだろう。

 

「えーと、マグナサーパス魔法魔術学校はと」


 通りすがりの人に聞いたらすぐわかった。

 王城の北東側にあるらしい。

 暫く散策がてら向かうと大きな門があった。

 正門、南門だ。

 入ろうとしたら門番に止められた。

 無関係なものは入れないという。

 妻がここに居ると言ったら、組織的な意味での関係だ、と言い返された。

 ごもっともだとスゴスゴと引き下がる。

 さて、どうするかね。

 そこら辺をぶらついていたら劇的な再会とかにならないかね、とか馬鹿なことを考えた。


「えーと、冒険者組合〈ギルド〉は、」


 魔術立国の国なら肩身が狭いと思いきや、随分と大きい建物だった。

 依頼書の掲示板を覗けばなるほど、魔石や竜の牙や月光花を取ってくる素材採取系依頼が非常に多い。

 ギブアンドテイクのつり合いが取れているという事だろう。


 掲示板を続けてみていると“遅い!”と日本語で書かれた伝言があった。

 宛先は俺、差出人は香澄だった。

 同業者が読めるのかと聞いてきたので読めると答えた。

 そしたら俺が“遠野香澄”この名前に聞き覚えがあるかと聞いた。

 

「あぁ、この界隈で知らない奴はいねぇよ。稀代の天才と言われる魔術師よ。たった一ヶ月で大魔導士にまで上り詰めたって、語り草になってる」


 語り草とは大げさなと思ったが、前の世界で普通の魔術師だった奴が、魔力濃度二〇倍のこの世界にやって来たならどうなるか、ってことだな。

 俺の線香花火だったファイアボールが実用レベルにまでなってるなら、香澄が半端ない魔術を行使しても不思議じゃない。

 ちょっと眩暈がした。

 ギルドの受付嬢に頼み宿泊先を知らせるメッセージを依頼した。

 もちろん日本語で書いてある。

 読めるのは香澄だけと言う先入観があった。

 

「宿屋マタテラ?」

「あぁ。赤竜通りの、って君、読めるのか?」


 俺の隣に立っていたのは一人の少年だった。

 年の頃は十四から十六のころ、幼いというよりは童顔と言った方が適当だろう。旅人の服を着ていたが特注品なのかスーツもコートも黒色だ。何より目を引くのが背負う二振りの剣だ。片手剣の二刀流なんて初めて見た。


 ここでは何だと酒場に場所を変えた。

 酒はまだ出しておらず、朝食のメニューが並んでいた。

 彼は霧野雅人と名乗った。

 変な魔法陣に捕らわれて気が付いたらこの世界に居た、と言うパターンらしい。

 ただ転移される時間差があって雅人は半年ほど前だそうだ。

 綾香はまだ三週間そこそこ。

 異世界から人間の召喚は依然実行中という事だ。

 人体実験も気になる。

 錬金術師パレ=パラエタリムはいったい何を考えているのか。

 その辺も含めて香澄と相談したいのだが、なかなか捕まらない。

 

「風向きが悪いのかね。一度帰るわ」

「遠野香澄はどうするんだ。奥さんなんだろ」

「置手紙もしたしあとは時間の問題だ。それに弟子が風邪を引いててね、様子も見に行かないといけない。霧野雅人、君の本拠地はマグナサーパスか?」

「あぁ。そうだけど、なぜ?」

「ならまた直ぐ会う気がするよ。それじゃ」

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