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第二十三話 町で同じ歳くらいの子に会う

 シルベルク氏とお父様が二度目の話し合いをしたのは、それから三日後のことだった。


 今度はわたしも同席を許された。隣室ではなく、正式に応接室に呼ばれた。


 シルベルク氏は前回と同じ、日焼けした穏やかな顔をしていた。わたしを見て、少し目を細めた。


「これがフィア様ですか」


「はい、フィアでしゅ」


「……ご挨拶が上手ですね」


「ありがとうでしゅ」


 お父様がシルベルク氏を見た。


「娘が、ティナさんと話したいと言っています。ただし、まずはシルベルクさんの判断を聞いてから決めたい」


「私は構いません。ティナも、同じような子と話せる機会があれば、と言っていました」


「ティナさんは、今の状況を理解していますか」


「ある程度は。魔力が強いこと、それを外に知られるとよくないこと。詳しくは話していませんが、なんとなく分かっているようです」


 お父様がわたしを見た。


「フィア、どう思う」


「会ってみたいでしゅ」


「理由は」


「おなじ境遇の子と話したことが、一度もないでしゅ。どうやって自分の状況と向き合っているか、聞いてみたいでしゅ」


 お父様がシルベルク氏を見た。


「では、来週にでも、ここで顔合わせをしませんか」


「ありがたいです」


 話が決まった。


 (初めての同年代の接触になりましゅ)


 前世でいえば、同じ業務を担当している他部署の人間と初めて話す機会だ。共通の課題があれば、情報交換ができる。



 約束の日の前日、わたしは落ち着かなかった。


 魔力の練習をしながら、ジルに言った。


「ジル、友達って、どうやって作るんでしゅか」


 ジルが少し驚いた顔をした。


「……それは、フィア様にしては珍しい質問ですね」


「前世では、職場の関係しかなかったでしゅ。友達の作り方を考えたことがなかったでしゅ」


「そうですか」


「ティナしゃんと、うまく話せるか、少し心配でしゅ」


 ジルが穏やかに言った。


「フィア様、一つだけ」


「うん」


「友達は、作るものではなく、なるものだと思います」


「どういう意味でしゅか」


「意図して作ろうとしなくていいです。ただ、正直に話せばいい。ティナさんも、同じことを心配しているかもしれません」


 わたしは少し考えた。


「正直に話す、でしゅか」


「はい。情報交換の相手として考えるより、ただ話してみるだけで十分だと思います」


「……そうでしゅね」


 (前世では、全部を仕事として捉えてしまっていた。今もその癖が出ていた)


「ありがとうでしゅ、ジル」


「どういたしまして」


 ジルがため息をついた。今日一回目だ。


「……ため息は、心配のため息ですか」


「いいえ。フィア様が少し可愛いと思っただけです」


「……それはため息をつく理由でしゅか」


「さあ、どうでしょう」



 翌日、シルベルク氏がティナを連れてきた。


 応接室に入ってきたティナは、わたしより頭一つ分背が高かった。九歳だから当然だ。黒い髪を後ろで束ねていて、お父さんに似た穏やかな目をしていた。でも少し緊張している。


 わたしも緊張していた。


 (おたがいに緊張しているでしゅ)


「フィアでしゅ。よろしくでしゅ」


 ティナが少し目を丸くした。


「……えっと、ティナです。よろしくお願いします」


 しばらく沈黙があった。


 お父様とシルベルク氏が隣で見ていた。


 わたしは少し考えてから、正直に言った。


「どう話せばいいか、わからないでしゅ。友達と話したことがないので」


 ティナがまた目を丸くした。


「……わたしも、友達少ないです。魔力のことを知ってる子が周りにいなくて」


「そうでしゅか」


「フィアちゃんは、魔力、いつから分かってたの」


「うまれた頃かららしいでしゅ。でも自覚したのは最近でしゅ。ティナしゃんは?」


「五歳のとき。うっかり花を枯らしてしまって」


「わたしは逆でしゅ。うっかり庭を森にしましゅた」


 ティナが少し固まった。


「……森に?」


「お花を綺麗だと思ったら、庭全体が大きくなりましゅた」


「え、ええ……」


「お父様の胃に悪かったでしゅ」


 ティナがぷっと吹き出した。


 笑い声が応接室に響いた。


 わたしは少し驚いた。そして、不思議と気が楽になった。


「ごめん、笑っちゃって。でも、お父様の胃って」


「毎回しんぱいになりましゅ。最近は顔色で胃の状態がわかるようになりましゅた」


 ティナがまた笑った。


「うちのお父さんも同じです。わたしが魔力を暴走させるたびに、眉間に深い皺が」


「わかりましゅ。眉間の皺で案件の深刻度がわかりましゅよね」


「案件って言い方、面白い」


「前世の……えっと、昔のくせでしゅ」


 ティナが少し首を傾けた。


「前世って?」


「……少し事情があるでしゅ。今はうまく説明できないでしゅが、いつか話しましゅ」


「うん、いいよ」


 ティナはあっさり受け入れた。


 (いい子でしゅ)



 二人で話しているうちに、共通点がいくつか出てきた。


 魔力が感情に連動して出てしまうこと。周りに同じ境遇の子がいなくて孤独だったこと。家族が必死に守ってくれていること。


「ティナしゃん、制御の練習はしていましゅか」


「してるけど、難しくて。特に怒ったときが制御できなくて」


「わたしは猫が難しいでしゅ」


「猫?」


「猫を見ると、魔力が漏れやすいでしゅ。特別カテゴリでしゅ」


 ティナがまた笑った。


「猫が特別カテゴリ。可愛い」


「可愛くないでしゅ、問題でしゅ」


「でも、ちゃんと笑って話せるんですね」


「そうでしゅか」


「なんか……フィアちゃんって、三歳なのに落ち着いてるよね」


「そうでしゅか」


「うん。わたしが三歳のとき、もっとわちゃわちゃしてたと思う」


「……事情があるでしゅ」


「また事情か」


「はい。でも、悪いことではないでしゅ」


「そっか」


 ティナはわたしを見てから、少し笑った。


「なんか、いい子だね、フィアちゃん」


「ティナしゃんも、いい人でしゅ」


「人って言うんだ」


「三歳にしては大人の語彙でしゅ」


「そうだね」


 二人でくすくすと笑った。


 隣でお父様とシルベルク氏が話しているのが見えた。二人とも、少し安堵した顔をしていた。



 帰り際、ティナが言った。


「また会えますか」


「お父様次第でしゅ」


「そっか。……わたし、友達があんまりいなかったから、また話したいな」


「わたしもでしゅ」


「じゃあ、また」


「また」


 ティナが父と一緒に帰っていった。


 お父様がわたしの隣に来た。


「どうだった」


「いい子でしゅ。話が早くて」


「それがまず気になるのか」


「一番大事でしゅ」


 お父様が少し笑った。


「……また会わせてやろう」


「ありがとうでしゅ」


「シルベルクも、信用できそうな人間だ」


「うん。情報もしっかり持っていましゅ」


「……お前は友達として見ているのか、情報源として見ているのか」


 わたしは少し考えた。


「両方でしゅ。でも今日は、友達として話しましゅた」


「そうか」


「ジルが、友達は作るものじゃなく、なるものだと言っていましゅた。なってみましゅた」


 お父様がまた笑った。


「……ジルはうまいことを言うな」


 その夜、わたしはノートを開いた。


 今日の記録。ティナ・シルベルク(九歳)と初対面。共通点多数。感情連動の魔力、彼女も同様。制御の練習も継続中。父シルベルク氏、信頼できそうとお父様が判断。


 最後に一行足した。


 友達、できたかもしれないでしゅ。


 書いてから少し照れた。


 でも消さなかった。


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