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逃げろヒロイン

成り上がりの男爵令嬢は魅了魔法を使っている

作者: 笛伊豆

定番の王子&高位貴族家子息と平民上がりの男爵令嬢の逆ハーレムにも色々ありそうな。

 マリアはハイツ男爵息女だ。

 ハイツ家はいわゆる大商人で、数年前に国家に対して多大な貢献があったということで叙爵した。

 世襲貴族としては最下位ではあるが、それでも王国法に基づく正規の貴族である。

 故に男爵令嬢であるマリアも王立貴族学園に入学してきた。


 フロンハイト王国は標準的な封建国家だが衰退気味な王家や貴族家より商人の力が強い。

 近年の技術的発展によって平民の中からいわゆる「紳士階級(ジェントル)」が勃興し、今や王国の経済を担うまでになっている。

 それに伴って平民の発言力も増大していて、古くからの貴族との間で軋轢が高まっていた。

 本来は歴史と伝統がある貴族の子弟しか存在しないはずの学園にも、いわゆる「成り上がり」の下位貴族の子弟が増えてきている。

 とはいえ封建国家としての身分制度は健在であり、学園においても高位貴族身分の子弟と下位貴族や平民の子弟との間には厳然たる壁が存在していた。

 故に、同じ学生とは言いながらお互いに交遊するどころか話したり顔を合わせたりすることすら希だ。

 希だったはずなのだが。


「ハリム伯爵令息がマリア・ハイツ様と親しげなご様子」

「人気の無い場所で二人きりでおられたと」


「サレンド侯爵令息はマリア様とお二人で宝飾店にいるところが目撃されたそうよ」

「何だかこそこそしていたって」

「しかも、サレンド様がやたらに気を遣っておられたような」


「第二王子殿下とクレイ公爵令息が」

「お二人でマリア様を囲んでお茶しておられた」

「周りに護衛騎士や侍従もいたのに堂々と」


 噂が学園を駆け巡る。

 いや噂どころかご本人たちが一緒に居る姿が頻繁に目撃されるようになった。

 しかも、どうみても令息たちの方がマリアに下手にでているというか、ちやほやしていると評判だった。


「……事実でございました」

 侍女の報告に第二王子の婚約者であるマリ公爵令嬢ミラルダはため息をついた。

 その後ろに並んだ令嬢方が憤懣やるかたない表情を見せる。

 話題に出た高位貴族の令息たちの婚約者である。


「どうなさいます?」

「……(わたくし)が直接確かめて参ります」


 いよいよミラルダ様の出陣か。

 これでマリア嬢もオシマイだ。

 令嬢たちは期待して待ったのだが。


「ミラルダ様が?」

「マリア様と親しげに」

「それどころか第二王子殿下がマリア様をエスコートするのを笑顔でお見送りなさったと?」


 予想外の事態だった。

 どうなっているのか。

 これは、ひょっとしたらアレか?

 物語に出てくる有名な。


 一部の学生が騒いだことで学園当局の知る所となり、王家の者が関わっているだけに王宮を巻き込んで調査が行われた。

 結果は「黒」。


 極秘に関係者が集められ、陛下立ち会いの元に調査官が報告する。


「まさしく、魅了魔法と言えましょう」

「それは罪になるのか」

「難しいでしょう。少なくとも現行法の下では裁けるような罪ではございません」


「しかし悪影響がないとは言えまい」

「ですが、この魅了魔法の使い手はそれによって利益を得ておりません。いえ、間接的には得ていると言えますが、むしろ被害者の方が多大な利益を得ている状況で」

「禁止には出来んのか」

「くり返しますが、使い手は何の要求もしておりません。むしろ被害者の方が」

「ううむ」


 どうしようもなかった。

 結論として、監視はしつつ放置することに決まった。


 マリアに何の沙汰もないことを訝しんだ令嬢たちがミラルダを問い詰めた。

「魅了魔法の存在が確認されたと聞きました」

「なぜ禁止されないのです」

「そんな危険な存在を放置など」


 ミラルダはため息をついて曖昧に笑う。

 最近手に入れたお気に入りのブレスレットを撫でながら「危険はないわ」と。


「でも魅了魔法なのでしょう?」

「そんな怪しげなものが野放しなんて」


「いえ? その魔法は大昔から存在したわ。そしてそれなりに使われてきているのよ」

「あり得ません!」

「何なのです、その魔法って?」


 ミラルダは沈黙する。




 まさか言えないわよね。


 賄賂(お金)だなんて。

世の中「金」だよ。


もちろんマリアさんは王子や高位貴族家子女たちに実家の商売の顧客を紹介して貰うために色々と賄賂……贈り物をしていただけで。

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― 新着の感想 ―
やはり金…。金はすべてを解決する…。 地獄の沙汰も金次第と言いますが、ジェントリが台頭し、王家や貴族たちが相対的に衰退しつつある中、高位貴族もプライドよりお金だと切実に感じているのかも知れませんね。
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