――逃げ場はない。
――ウィ~ンウィ~ンウィ~ン!!!
生徒会室にけたたましい警報音が響き渡った。
「茜さん、状況の確認を!」
涼香が即座に指示を飛ばす。
「はい!」
茜がタブレットを操作し、画面を覗き込む。
「……2-Bの高岩美羽が誘拐されました! すでに学校の外に連れ出されています!」
「学校の警備は何をしているのかしら。まったく頼りになりませんね」
涼香は優雅に紅茶を置くと、目を細めた。
「やはり学園の治安を守るのは生徒会ですわ」
「いやいや、警察に通報ですよね!? 通報!」
浩介が全力でツッコむ。
「警察なんて当てになりませんわ」
涼香は即答した。
「そうよ、湊川君。学校のことは学校で解決! 生徒会の出番よ!」
茜まで真剣な顔でうなずいている。
「城ヶ崎さんまでそんな……」
浩介は頭を抱えた。
「さあ、湊川君」
涼香がにやりと笑う。
「新しいバトルスーツを試す絶好のチャンスだわ」
「なんで俺ですか!?」
「私のスーツは今、新調中でここにはないの。だから行けるのはあなたしかいませんわ」
「えっ、このタイミングで!? でも、城ヶ崎さんが――」
「……今日、スマホ忘れてきちゃったんだよね」
茜が照れくさそうに頭をかく。
「最悪だ……」
浩介は膝から崩れ落ちた。
「さあ、現場に急行よ!」
涼香が指をビシッと突き出す。
「……はぁ」
浩介は肩を落としながらしぶしぶ聞き返した。
「で、現場ってどこですか?」
「横浜埠頭よ」
涼香は当然といった顔で言い放つ。
「高岩さんを誘拐した犯人は、現在そこで人質を確保しているわ」
「……横浜?」
浩介は固まった。
「いやいやいや、遠くないですか? ここ埼玉ですよ? しかもど真ん中ですよ? 横浜って……どう考えても通学圏じゃないですよね!? どうやって行くんですか!?」
「安心して!」
茜が満面の笑みで拳を握る。
「ヒーローにふさわしい乗り物を用意しておいたの。外にあるから!」
「……余計なことを……」
浩介は額を押さえる。
「ていうかそもそも、生徒会ってヒーローじゃないと思うんだけど……」
校門前へと移動すると、そこに待っていたのは――。
鋭角的なラインとギラついた装飾をまとった、まるでSF映画から抜け出してきたようなスーパーカーだった。
周囲の空気すら押しのける存在感に、浩介は思わず息を呑む。
「さあ、湊川君! 変身して、これに乗ってみて!」
茜が満面の笑みで手を叩く。
「湊川君、急いでくれるかしら?」
隣で涼香が冷静に促す。
「あの……俺、免許とか持ってないんですけど……」
浩介は恐る恐る手を挙げる。
「問題ないわ。ヒーローに免許は必要ないもの」
涼香は真顔で即答。
(いや、俺そもそもヒーローじゃないんだけど……)
心の中で突っ込みを入れるが、もちろん届かない。
「さあ浩介君、乗って! 運転はコンピューターがサポートするから大丈夫よ!」
茜は勢いそのままに背中を押す。
「……全然大丈夫な気がしないんだが。どう考えても後で免許の件で怒られる未来しか見えないよ……」
浩介は泣き笑いで抗議する。
「いいから。今は誘拐された生徒が心配なの!」
涼香の一言に押し切られ、結局しぶしぶスマホを取り出す。
アプリを起動し、気の抜けたような姿勢のまま――。
青い光が走り、バトルスーツが浩介の体を包み込んでいく。
派手な決めポーズもなく、うなだれ気味に変身完了。
「……変身しましたけど、テンション低くてすみません」
自虐気味につぶやく声が、夜の校門前にむなしく響いた。
青いバトルスーツを身にまとった浩介を見た瞬間、涼香の眉間に皺が寄った。
「やり直しですわ!」
鋭い声が夜気を裂く。
「えっ……な、なにがですか?」
「変身ポーズもないし、振る舞いもブルーらしくありませんわ。仮にも《ブルー》のバトルスーツを着る以上、そのキャラクターをしっかり演じていただかないと!」
「い、いやいや、俺ブルー希望してないんですけど……。そういうタイプでもないですし……。頑張ってもグリーン。どちらかといえば無色透明の方なんですが……」
浩介のぼやきは風に消える。
「ごちゃごちゃ言わずに早くしなさい!」
涼香が容赦なく切り捨てる。
「あなたは誘拐された生徒が心配じゃないんですか?」
「だとすれば……こんなことしてないで警察――」
「何か言いました?」
涼香の氷のような眼差しに、浩介の言葉が喉で止まる。
「ほらほら、早く急いでマシーンに乗って! 湊川君!」
茜が明るく背中を押す。
――逃げ場はない。
「……はぁ、仕方ない」
浩介は観念したようにスマホを掲げ、今度は無理やりキザなポーズを決める。
青い閃光が舞い、スーツが彼を包み込む。
先ほどとは違い、颯爽としたヒーロー然とした姿に。
「……こうですか?」
自分で自分にツッコミを入れつつも、浩介はスーパーマシーンの運転席に飛び乗った。




