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生徒会はヒーローであるというまことしやかな噂の話  作者: 南蛇井


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3/8

 ――逃げ場はない。



 ――ウィ~ンウィ~ンウィ~ン!!!

 生徒会室にけたたましい警報音が響き渡った。

「茜さん、状況の確認を!」

 涼香が即座に指示を飛ばす。

「はい!」

 茜がタブレットを操作し、画面を覗き込む。

「……2-Bの高岩美羽が誘拐されました! すでに学校の外に連れ出されています!」

「学校の警備は何をしているのかしら。まったく頼りになりませんね」

 涼香は優雅に紅茶を置くと、目を細めた。

「やはり学園の治安を守るのは生徒会ですわ」

「いやいや、警察に通報ですよね!? 通報!」

 浩介が全力でツッコむ。

「警察なんて当てになりませんわ」

 涼香は即答した。

「そうよ、湊川君。学校のことは学校で解決! 生徒会の出番よ!」

 茜まで真剣な顔でうなずいている。

「城ヶ崎さんまでそんな……」

 浩介は頭を抱えた。

「さあ、湊川君」

 涼香がにやりと笑う。

「新しいバトルスーツを試す絶好のチャンスだわ」

「なんで俺ですか!?」

「私のスーツは今、新調中でここにはないの。だから行けるのはあなたしかいませんわ」

「えっ、このタイミングで!? でも、城ヶ崎さんが――」

「……今日、スマホ忘れてきちゃったんだよね」

 茜が照れくさそうに頭をかく。

「最悪だ……」

 浩介は膝から崩れ落ちた。

「さあ、現場に急行よ!」

 涼香が指をビシッと突き出す。

「……はぁ」

 浩介は肩を落としながらしぶしぶ聞き返した。

「で、現場ってどこですか?」

「横浜埠頭よ」

 涼香は当然といった顔で言い放つ。

「高岩さんを誘拐した犯人は、現在そこで人質を確保しているわ」

「……横浜?」

 浩介は固まった。

「いやいやいや、遠くないですか? ここ埼玉ですよ? しかもど真ん中ですよ? 横浜って……どう考えても通学圏じゃないですよね!? どうやって行くんですか!?」

「安心して!」

 茜が満面の笑みで拳を握る。

「ヒーローにふさわしい乗り物を用意しておいたの。外にあるから!」

「……余計なことを……」

 浩介は額を押さえる。

「ていうかそもそも、生徒会ってヒーローじゃないと思うんだけど……」

 校門前へと移動すると、そこに待っていたのは――。

 鋭角的なラインとギラついた装飾をまとった、まるでSF映画から抜け出してきたようなスーパーカーだった。

 周囲の空気すら押しのける存在感に、浩介は思わず息を呑む。

「さあ、湊川君! 変身して、これに乗ってみて!」

 茜が満面の笑みで手を叩く。

「湊川君、急いでくれるかしら?」

 隣で涼香が冷静に促す。

「あの……俺、免許とか持ってないんですけど……」

 浩介は恐る恐る手を挙げる。

「問題ないわ。ヒーローに免許は必要ないもの」

 涼香は真顔で即答。

(いや、俺そもそもヒーローじゃないんだけど……)

 心の中で突っ込みを入れるが、もちろん届かない。

「さあ浩介君、乗って! 運転はコンピューターがサポートするから大丈夫よ!」

 茜は勢いそのままに背中を押す。

「……全然大丈夫な気がしないんだが。どう考えても後で免許の件で怒られる未来しか見えないよ……」

 浩介は泣き笑いで抗議する。

「いいから。今は誘拐された生徒が心配なの!」

 涼香の一言に押し切られ、結局しぶしぶスマホを取り出す。

 アプリを起動し、気の抜けたような姿勢のまま――。

 青い光が走り、バトルスーツが浩介の体を包み込んでいく。

 派手な決めポーズもなく、うなだれ気味に変身完了。

「……変身しましたけど、テンション低くてすみません」

 自虐気味につぶやく声が、夜の校門前にむなしく響いた。

 青いバトルスーツを身にまとった浩介を見た瞬間、涼香の眉間に皺が寄った。

「やり直しですわ!」

 鋭い声が夜気を裂く。

「えっ……な、なにがですか?」

「変身ポーズもないし、振る舞いもブルーらしくありませんわ。仮にも《ブルー》のバトルスーツを着る以上、そのキャラクターをしっかり演じていただかないと!」

「い、いやいや、俺ブルー希望してないんですけど……。そういうタイプでもないですし……。頑張ってもグリーン。どちらかといえば無色透明の方なんですが……」

 浩介のぼやきは風に消える。

「ごちゃごちゃ言わずに早くしなさい!」

 涼香が容赦なく切り捨てる。

「あなたは誘拐された生徒が心配じゃないんですか?」

「だとすれば……こんなことしてないで警察――」

「何か言いました?」

 涼香の氷のような眼差しに、浩介の言葉が喉で止まる。

「ほらほら、早く急いでマシーンに乗って! 湊川君!」

 茜が明るく背中を押す。

 ――逃げ場はない。

「……はぁ、仕方ない」

 浩介は観念したようにスマホを掲げ、今度は無理やりキザなポーズを決める。

 青い閃光が舞い、スーツが彼を包み込む。

 先ほどとは違い、颯爽としたヒーロー然とした姿に。

「……こうですか?」

 自分で自分にツッコミを入れつつも、浩介はスーパーマシーンの運転席に飛び乗った。

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