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生徒会はヒーローであるというまことしやかな噂の話  作者: 南蛇井


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2/8

ああ~、抜け出せなくなる……

生徒会室に立ち尽くす、前副会長の**新井崎あらいざき**は、青ざめた顔で涼香を凝視していた。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ! なんで、なんで俺がクビなんだよ!?」

新井崎は二年男子で、真面目で書類仕事も完璧にこなす、至って優秀な生徒だった。しかし、今の生徒会室では、その優秀さは何の役にも立たない。

涼香は、新副会長の城ケ崎茜を隣に立たせ、冷淡な視線を新井崎に向けた。

「だって、あなた戦えないでしょ?」

その一言は、あまりにも簡潔で、そして残酷だった。

「戦えない人間は、生徒会にはいらないわ。この組織は、世界の平和を守る最前線なんですもの」

涼香はさらに追い打ちをかけた。

「それに、正直、男っていう所も気に入りませんわ」

「なんだと!!」新井崎は顔を真っ赤にした。「このジェンダーフリーの時代に、そんな理不尽な理由が通ると思ってんのか!」

しかし、涼香は既に彼に興味を失っている。

「ちくしょう!! 覚えてろ!」

新井崎はそう捨て台詞を吐き捨てると、怒りに任せてバタバタと音を立てながら生徒会室を走り去っていった。

その一連の流れを静かに見ていた浩介は、内心でひっそりと希望の光を見出した。

(戦えない人間は生徒会にいらない……)

浩介は、冷静を装って涼香に問いかけた。

「……だとすれば、俺もいらなくないですか?」

(よっし! これで生徒会から解放される! 書類仕事だけの平和な日々に戻れる!)

心の中でガッツポーズをする浩介。しかし、涼香の答えは、彼の淡い期待を粉々に打ち砕いた。

涼香は、不思議そうに首を傾げた。

「あなたは気にしなくていいわよ」

「なんでだよ!」

浩介は思わず絶叫した。戦力としては、どう考えても先ほどクビになった新井崎と同レベル、いや、むしろ役立たずなはずだ。

涼香は、何故そんな簡単なことが分からないのか、という顔で浩介を見た。

「だって、**戦士ヒーローには、戦いの後に後方支援をしてくれる文官サポート**が必要でしょう? あなたは、私たちを支える重要な駒だわ。安心して、その椅子に座っていなさい」

(駒……)

浩介の肩が、力なく落ちた。彼の、平和な日常への帰還は、まだ遠いようだった。

翌日。

湊川浩介は、昨日以上に重い足取りで生徒会室の前に立っていた。ノブを握る手には、もはや使命感ではなく、悲壮感しか込められていない。

「……ろくなことが無いと思って、歩みが遅くなってるんだよ」

心の中でブツブツと呟きながら、彼は恐る恐る扉を開けた。

生徒会室に入ると、いつものように優雅に紅茶を嗜む永海涼香と、エビ怪人の話以来、すっかり生き生きとしている城ケ崎茜の姿があった。

だが、今日いつもと違うのは、部屋の隅に置かれた大きなダンボール箱だ。浩介の背丈の半分ほどもあるその箱は、見るからに不穏なオーラを放っている。

「遅かったわね、湊川君」

涼香は浩介を一瞥し、いつものように**「世界の平和を守る生徒会長」**としての口調で出迎えた。

浩介は、無言で自分の机に向かおうとするが、その視線はダンボール箱から離れない。

と、その時、新副会長の茜が、まるで子犬のようにパッと顔を輝かせた。

「あ! 待ってたんだよ、湊川君!」

茜は興奮気味に立ち上がり、浩介の横に駆け寄る。

「今日はね、湊川君のために良いものを用意しておいたんだから!」

浩介の不安は一気に跳ね上がった。

(……良いもの……あの箱か?)

浩介は箱を凝視する。彼の頭の中には、**「怪人化したエビの残骸」「変身スーツの試作機」「生徒会専用の拘束具」**など、ロクでもないものが次々と浮かんでくる。

(うわぁ……開けたくないなぁ。絶対、ろくなことじゃなさそうだ)

しかし、生徒会室という密室で、この二人の天才かつヤバい女性から逃れる術はない。浩介

「さあ、湊川君! 早く開けて!」

茜はキラキラと目を輝かせ、浩介の背中を押した。その瞳には、新たな仲間を得る喜びと、早く自分のおもちゃ、いや、装備を見せたいという興奮が満ちている。

「早く開けなさい。もったいぶっている時間はありませんわよ」

涼香はティーカップを静かに置き、有無を言わせぬ絶対的な命令を下した。

「開ける、開ける、開けますよ……」

浩介は心底うんざりしつつ、観念して大きなダンボール箱の蓋に手をかけた。重々しい軋みを上げて箱が開く。中を覗き込むと、予想通りの光景が広がっていた。

「うわっ、やっぱり!」

箱の中には、折りたたまれたバトルスーツ一式が入っていた。涼香の白、茜のピンクと違い、それは鈍いメタリックブルーの色をしており、いかにも**『サポート要員』**といった無難なデザインだ。

「さあ、湊川君!」涼香は急かす。「さっさとスマホを登録なさい。マニュアルは昨日渡したでしょう?」

「湊川君! これで一緒に戦えるね!」茜は満面の笑顔だ。

浩介は、冷静な思考を取り戻し、真っ先に金銭的な問題を指摘した。

「いやいや待て待て! これ、どう見てもめちゃくちゃ高いですよね!? 装甲とか、多分、耐レーザー素材ですよね!? そんなお金、俺の財布にはないですよ!」

浩介は慌てて訴えた。自分がこれを弁償させられる可能性を考えると、胃がキリキリと痛み出す。

涼香は、まるで取るに足らない質問をされたかのように、鼻で笑った。

「安心なさい」

彼女は誇らしげに言った。

「これは生徒会の予算で購入したわ。安全対策費用ですわよ。これで校内で事件が起きても、生徒の安全は完璧に守られます」

「生徒会の予算で買えるようなものじゃ……」

浩介は、城ケ崎南高校の生徒会予算がどれほど潤沢なのかは知らないが、さすがに一国の軍隊並みの装備を賄えるとは思えなかった。

すると、隣で聞いていた茜が、**「そこは任せて!」**とばかりに胸を叩いた。

「そこは安心して! 私がパパに頼んで、格安で卸してもらってるから! もちろん、ほとんどタダみたいなものだよ!」

浩介は、全てを悟った。

(そうか……その為の城ケ崎さんか……)

(生徒会長は**『戦闘力』、副会長は『軍事費』。そして俺は、その戦闘力と軍事費に挟まれた書記**……)

こうして、湊川浩介は、強制的に『生徒会防衛隊』のサポート要員に組み込まれてしまったのだった。

「あの……ささやかな抵抗なんですが」

浩介は、なんとかこの理不尽な流れを食い止めようと、最後の手段に出た。

「新井崎先輩とかなら、こういうバトルスーツとか、大喜びで着ると思いますよ。そして喜んで生徒会に復帰すると思うんですが……どうです? 彼に連絡してみては?」

それは、合理的かつ、生徒会にとって有益な提案だったはずだ。しかし、この生徒会では合理性は最も低い優先順位に置かれる。

「駄目よ」

茜は、ほとんど鼻先が触れそうなほど距離を詰めてきた。ピンクのバトルスーツの熱意が、浩介に物理的に迫る。

「だって、これは湊川君のサイズで作ってるんだから。それに、私は湊川君に着て欲しいの!」

「ち、近い……」

茜の勢いに気圧され、浩介は顔を背けた。彼女の瞳には、**「一緒にヒーローごっこをしたい」**という純粋すぎる願望しか見えない。それが、浩介にとっては最も厄介だった。

「湊川君。もう御託はいいから、さっさとスマホを渡しなさい」

涼香は、両手を広げていた浩介の隙を逃さなかった。彼女は流れるような動作で浩介のポケットからスマホを取り上げると、無造作にメタリックブルーのバトルスーツの胸部に取り付けられた接続ポートに差し込んだ。

『ユーザー認証完了。サポートシステム起動』

甲高い電子音声が生徒会室に響き渡る。

「ああ~、抜け出せなくなる……」

浩介は、自分の魂がバトルスーツに吸い込まれていくような絶望感に襲われた。彼の**「家から近いから」というささやかな理由で始めた高校生活は、完全に『世界の平和を守る生徒会書記』**という、命懸けの道に固定されてしまったのだった。


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