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現場不在証明―アリバイ

週一で書けたら…と思っていたのですが、引越しやらでなかなか…orz

夏川ちはるは夕暮れの中を自宅へ向かって歩いていた。

バーベキューを行った場所からは徒歩で帰れる距離だ。みちると氷室さん、いい感じだったな。とひとりで考えてニヤニヤと笑いながら歩く。どうやってくっつけようかしら、なんてあれこれと考えて歩いていると、もう目の前の角を曲がると自宅へ着くというところだった。

時折強く吹き付ける風には段々湿り気を帯びてきた。空の半分が紫色に染まる頃。突然ちはるの肩を誰かが叩く。振り向いたちはるは短く悲鳴をあげたが、次の瞬間にはそこにはなにもなかったかのように静けさが戻っていた。


みちるは氷室と家路を辿っていた。バーベキューの話から、会社の話、休日の過ごし方などとにかく話が尽きなかった。みちるは腕時計をチラっと見ると

「もう6時前なのに、こんなにまだ明るいんですね」

「梅雨がもうすぐ来て、蒸し暑い夏がまた来るんだな」

「夏は嫌いですか?」

「得意ではないな。ジメジメしていて、寝苦しいし」

「そうですね…でも私は、短くてあっという間だから思いっきり楽しんで、いっつも最後は夏風邪引くんです」

みちるは苦笑いした。

「へぇ、意外だな」

「海に行ってはスイカ食べて、かき氷食べて、焼きそば食べて…あとはお祭りでも食べるし、花火大会でも…」

「よく食べるんだな」

みちるは恥ずかしそうに笑った。

「兄弟っているの?」

「います。兄が二人と弟が一人」

「4人兄妹か。めずらしいな」

「これがもう…個性がバラバラで面白いんですよ」

「楽しそうでいいな」

「氷室さん兄弟は?」

「俺は…実は施設で育ったんだ」

「えっ…」

「あ、そんなに深刻な顔しないで。気づいた時には施設にいたし、一緒に育ったみんなが兄弟だよ」

「ひとりじゃないって気づけることは、幸せなことですね」

「そうだよ…でも時々恐くなるんだ」

「恐い…?」

みちるは氷室の顔を下から覗き込むようにして聞いた。

「自分は誰の子供で、どんな風にして生まれたのかも知らないし、この名前だって本当に自分のものかもわからないんだ。だから・・・」

と言いかけてみちるの顔を見ると、悲痛な表情を浮かべていた。

「もうよそう。せっかく楽しんだ後だったのにな」

「いえ、いいんです。あっ、あそこが家です。もう大丈夫です」

みちるが指を差したのは立派な平屋建ての日本家屋。金持ちの家か、もしくはちょっと恐い人の家か。どっちかの印象を持つ家だ。

「すごく立派な家なんだね・・・」

氷室は呆然として凪野家を見つめた。

「古いだけですよ。代々うちはこの家に住んでいるんです」

「温かさに包まれている家だね」

「なんだかんだで喧嘩したりもするんですけど、申し訳ないくらいきっと幸せなんでしょうね」

「いいんだよ。幸せの形は人それぞれだから。自分を基準にしたらなんでも申し訳なくなっちゃうさ」

「氷室さんは優しいんですね」

振り向いてみちるは笑う。氷室にはその笑顔が眩しかった。

「凪野さん…!」

突然氷室がみちるの両肩を掴んだ。

「氷室さん!?」

「僕は…」

と言いかけたところで

「みちるー」

とやる気のない聞きなれた声が前方から聞こえた。声に反応して2人は離れる。

「タカ兄…」

「今帰り?こちらは…」

「氷室と申します」

「会社の先輩よ」

「このわがまま娘がいつもお世話になっております」

うやうやしく頭を下げる。

「一歳年上の兄です」

「どうも…」

「今日晩飯すき焼きだってさー」

「もうわかった。すぐ行くから」

隆哉を追い払うと氷室に向き直って

「すみません、お話の途中だったのに」

「いいんだ。また改めて。それじゃ」

「お気をつけて」

手を振って氷室はくるりと向きを変えると、振り返ることなく帰っていった。

みちるは後姿を少し見送ってから門戸をくぐった。


翌朝。いつものドタバタをする朝がやってきた。そしていつも通りの時間にみちるは家を出る。いつもの時間の地下鉄に乗り、いつもの歩幅で会社へ向かう。ICチップの入った社員証を電子ロックにかざしてオフィスに入ると、いつもの光景ではなかった。ざわついていて、みんな落ち着きがない。みちるが席に着くと

「凪野さん、ちょっと」

みちるたちの直属の課長が手招きする。

「なんでしょうか」

「実はね…夏川さんが昨夜から行方不明なんだよ」

「えっ…」

「それで昨日のうちに連絡がなかったかみんなに聞いてるんだよ」

「そうだったんですか…でも、昨日は昼から夕方にかけてバーベキューをして、解散した後は彼女と連絡は取っていないんです」

「やっぱりみんなと同じか。ありがとう」

席に戻るとみんながみちるに寄ってくる。同僚のひとりが口を開く。

「なんて聞かれたの?」

「ちはると昨日連絡したかって」

「それでみちるは?」

「バーベキューを解散してからは特に連絡取ってないわ。まさかこんな事になるなんて…」

先日の女性社員が行方不明になってちはるで2人目だ。男女問わずみんな不安そうな顔をしている。

「みちるも気をつけなよ?」

「うん、ありがとう…」


世間で騒がれている女性連続行方不明事件はちはるで10人目となった。同じ会社で2人も行方不明者が出たとなれば、マスコミも放って置かないだろう。会社の朝礼ではマスコミ対応のレクチャーが行われた。

午前中にはちはるの捜索願が警察へ提出された旨をみちるは聞いた。

ちはる…いつも明るくて、同期の中では一番仲がいい子。そんな彼女が突然いなくなってしまうなんて。今どこにいるんだろう。苦しんでいないか、痛い目には合ってないだろうか。両手を固く結んで目を閉じると涙が一筋流れた。

「大丈夫?」

突然声をかけられてハッと目を開けた。左目から涙を流したまま振り向くと、氷室がいた。

みちるは昼食からの帰りでエレベーターホールでエレベーターを待っていたのだった。いつもはちはると行く昼食も今日はひとりだった。

「すみません、考え事していて」

「夏川さんのことか…きっといい方向にいくよ。信じよう。そういえば…」

氷室が声を潜めた。

「山田君が警察に任意同行で連行されたそうだよ」

「えっ?」

「夏川さんの家の近所で昨日の夕方に彼の目撃証言があるんだって」

「そうですか…なにかわかるといいですね」

みちるは山田が任意とはいえ、警察に連行されたことに驚いた。いつもひたむきに仕事をこなしていた、一生懸命という言葉が似合う彼が…。

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