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疑惑

ちょっと改定したり、書き足したりしてます。

翔太は悶々としていた。

みちるに聞くと、あのドアを開けた人物は山田といった。会社ではみちるの1年後輩だという。

「あいつが怪しいかもな…」

ひとり自室で今日の出来事を考えていた。みちるは病院では軽い貧血だろうということで診断を受け、会社は早退した。みちるの首の傷も気になる。もしも、翔太が感じている、みちるに憑いている"何か"がみちるを本格的に狙っているのなら、凪野家代々の石gがまずは邪魔になるはずだ。

「ということは…!」

突然ベッドから跳ね起きて、部屋を飛び出たところで勇一郎とぶつかりそうになった。

「おい!最近落ち着きないぞ」

「勇兄ちゃんごめんごめん」

ドタドタと食卓へ翔太がやって来る。

「ちょっと!走らないの」

飛鳥に咎められる。でもそれはよそに

「みちるちゃんは?」

「みちるなら勇一郎のあとにお風呂行ったわよ」

お風呂へ向かってまた走る翔太。

「翔太!あんた投げ飛ばされるわよ!」

そんな母の忠告も耳に入っていないのか、風呂へ急ぐ。

「みちるちゃん!」

勢いよく脱衣所の引き戸を開ける。

「きゃっ!」

みちるはタンクトップを脱ごうとしていた。白く引き締まった腹筋があらわになっている。

「うわっ…ごめ…」

その後、弾けた音が家じゅうに響いたのは言うまでもない。


「だからあんた忠告したでしょう」

氷でくっきりと手の形がついた左の頬を冷やしながら、母の呆れた声を受け流す翔太。テレビを見ながらみちるがお風呂からあがるのを待っていた。祖母のユリはそんな状況がおかしいのかニコニコしている。そこへみちるがお風呂からあがってきた。

「もう。そんなに慌てる用事だったの?」

「だって俺気付いたんだよ…」

「何を?」

「さっきの首の傷をもう一回見せて欲しいんだけど」

「これね」

そう言って右の首筋をゆるいウェーブのかかった黒髪をかき上げて翔太の方向へ差し出す。

まじまじと見て、

「やっぱり」

「なんなのよ」

「母さん、わかる?これ」

「ただの傷じゃないの。さっきも言ってたのでしょ」

「よくよく見たら、途中で途切れてるんだよ。で、またここから傷が続いてる」

「あら、本当ね」

2人がジロジロと首筋を見るので、いい加減首が疲れた。

「1回休憩していいかな…」

「そりゃかまいたちかもしれないね」

今まで黙っていたユリが口を開いた。

「え?かまいたちって東北の妖怪だろ?」

翔太が素っ頓狂な声を出す。

「意外とすぐそばにいるもんだよ」

「へぇ。じゃぁそいつがみちるちゃんを狙うために、まずは石を狙ったってことかな」

「そう考えるのが自然だね」

「おばあちゃん、どうしよう。ペンダントが切れちゃったら…」

「満月の日を待つしかないね」

「「満月??」」

みちると翔太と飛鳥が揃って聞いた。

「飛鳥の時は何にもなかったからあんたには教えていなかったけどね、今度の満月の日に裏山の井戸水を汲んで、石を井戸水に浸して一晩満月の月光にさらすんだね。最後にお清めをしたのが飛鳥が生まれた頃だから…」

「ウン十年前か!」

「うるさい」

お盆で頭を叩かれる翔太…。

「でも裏山だったら男の俺は入れないから、みちるちゃんに何かあった時が困るよ。体から石を外すわけだろ」

「そうねぇ…体の結界を外すようなものだものね」

飛鳥は左手を頬に当てて考えこむ。

「晴れていれば月は道を照らしてくれるさ。光が当たるところに闇はないからね」

「じゃぁ、今度の満月が晴れだったら…」

「お清めをするんだ。でも晴れていないと意味はないし、なにかに付きまとわれているのなら、この家から出ない方がいいね」

「わかったわ」

みちるは力強くうなづいた。


翌日。会社に行くとみんなが心配してくれた。一通り礼を述べたあとは、昨日途中で帰った分を取り戻すために仕事へ集中した。氷室も心配して声をかけてくれた。

「昨日は大丈夫だった?」

「はい。弟も一緒について帰ってくれましたし」

ニッコリと笑顔で答える。

「あ…首」

氷室が首の傷に気付いて遠慮がちに言った。

「これ、弟が教えてくれたんですけど、昨日倒れた時に傷がついちゃったみたいで」

「女の子の肌はデリケートだからなぁ」

みちるはなんとなく氷室の左手を見ると、中指と人差し指の先にカットバンを貼っていた。

「指…怪我したんですか」

「あぁ、昨日模様替えしていたら指の上に物が落ちてきてね。爪が割れちゃったんだ」

痛そうに説明する。

「そうだったんですね」

みちるも合わせて痛そうに片目をつぶる。平日に模様替えなんて小まめな人なんだなとみちるは関心した。なんだかわけのわからない霊だの何だのと関係のない氷室と話をしていると落ち着くとみちるは思った。


お昼の休憩から帰ってきて、仕事を始めようと机の上の書類に目を通していると、山田が会議の資料を配っていた。資料を配る右手には痛々しい包帯が巻かれていた。なんだか怪我人が多いわね、とみちるは思った。山田より資料を受け取って

「右手、どうしたの?」

「これアイロンで火傷しちゃったんです。僕独り暮らしなもんで」

「そうだったの。ちゃんと冷やした?」

「冷やしました。アロエも塗りました」

「独り暮らしの家にアロエがあるの!?」

「ばあちゃんが持って行けってうるさかったんで持ってきたんですけど。まさか役に立つとは思いませんでした」

頭を掻いて苦笑いしながら山田が答えた。

「うちの庭にもアロエがたくさんあるから、なくなったら言ってね」

「そんなに何回も火傷したくないですよ」

それもそうね、とクスクス笑いながらみちるは答えた。


今日は何事もなく、仕事を終えて帰路についた。

「ただいま」

「おかえり」

ちょうど勇一郎が玄関で自分の革靴に手入れをしていた。

「勇兄ちゃんは革靴が好きね」

「あぁ。革靴があれば俺は女はいらんな」

「もう、勘違いされるから…」

みちるは苦笑いをしながら、食卓に一旦顔を出してから自室に引き上げて楽な格好に着替える。改めて母から受け継いだ、凪野家代々の石を眺める。ペンダントにしては長めで、服の中に入れると、ちょうど胸の谷間の入り口(!?)あたりに下がる。石は親指の第一関節くらいの大きさで、深い緋色―ガーネット色といったほうが馴染みあるだろうか―をしている。きれいな色をしているが、見方によっては血の色にも見える。形は宝石の方に形成はしておらず、天然石を枠にはめて枠にチェーンを通している形だ。

「この石がね…そんなに欲しいならあげるのに」

まだみちるは能力にも目覚めていないので、石の継承者としての自覚にも欠けていた。


家に帰ってからはいつものように、隆哉と翔太のおかず争いもあり、チャンネル争いもありで、何気なく時間が過ぎていった。

「それじゃ、おやすみなさい」

両親と祖母にあいさつをして、自室に引き上げる。最近色々ありすぎて気を張り詰めていたのか、一気に眠気が襲ってくる。

「もう寝よう」

1日くらいストレッチもさぼってもいいよね、そう自分に言い聞かせながら布団にもぐり、みちるの意識は急降下するように眠りに落ちていった。



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