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無力

みちるを呼びとめたのは眼鏡をかけた、髪の毛はわからない程度にセットされた男性―まだ男の子といったほうがしっくりくる―だった。

「山田君」

「あの、急ぎの電話が入っていますけど」

「あら、どちらから」

「○×商事です」

そこはみちるが主に取引の営業をしている会社だが、最近先方のみちるを担当してくれている営業の女性がずっと休んでいるということで、仕事が滞っていた。

「わかったわ。すぐ出る」

電話に出ると、先方の係長という気の弱そうな男性からで、みちるとどこまで仕事の話が進んでいたか教えてほしいということと、それを踏まえた上で、営業の担当が変わるということだった。

「あの、営業の伊藤さんは…」

みちるが遠慮がちに聞くと

「ほら、あの、最近若い女性が行方不明になってるじゃないですか…あの一連のものかわからないんですけどね、伊藤も行方がわからなくなっているんですよ」

その係長はまるで事件には係わりたくないかのように、もともと小声だった声のトーンをさらに落として話した。

「まぁ、そうだったんですか」

一通り話をして、また詳しいことは先方がみちるの会社に来て打ち合わせるということで話が終わった。なんだか気持ち悪いわね―率直なみちるの感想だった。


夕方から雨が突然降り出して、悲鳴をあげているのがみちるの近くにもう一人いた。隆哉だ。

「あぁ、ちくしょう。午前中からのペースだったら今日の売り上げは今年最高になるかと思ったのになぁ。人生そううまくいかねぇか」

正社員ではないが、大学からずっと続けて働いているということで、アルバイトながらも特別待遇としてくれている。隆哉はぼやきながらオープンカフェスペースに雨が降りこまないように、開け放していたガラス戸をすべて閉めた。少しかがむとみちるのオフィスが入っている高層ビルが見える。

俺だって真剣に働いているんだけどな、今朝みちるからのんき呼ばわりされていたのでなんとなく腹の中で思った。すると、新たな客が入ってきたようだ。

「いらっしゃいませ…ってなんだ遅刻野郎か」

「野郎とは乱暴だな。おれはまだピチピチの高校生だよ」

隆哉のもとに来たのは翔太だった。少し雨に降られて濡れている。

「ちょっと待ってろ」

そう言って隆哉が奥に引っ込むと、タオルを翔太に渡した。

「タカ兄サンキュー。ついでにマンゴージュースももらえたらうれしいな」

「ほらよ」

もうわかっていたと言わんばかりに隆哉は翔太にジュースを渡す。

「暇そうね?」

「この雨じゃぁな。誰も来ないよ。こっちまで来るなんてめずらしいな」

「ちょっと気になってね。あの箱入り娘が」

「みちるか?また霊感かよ」

「今回はやばいんだよ。今まではみちるちゃんが気づかないうちに俺が追っ払ってたんだけどさ」

「俺にはそちらの世界はわからないわ」

隆哉は全くなにも感じないのである。だから肝試しといって心霊スポットなどに行っても怖くもないし、なにか連れて帰ってくるということもない。逆にそれは完全シャットアウトという能力なのかもしれない。

「今までのは軽かったんだけど、今回は凶悪で、根が深いんだよ。そんな感じ」

「へぇ。それがみちるに噛みつくかなんかしたらどうなるんだよ」

「それは俺にもわかんない。でも取り返しがつかなくなるかも」

「おいおい。冗談でもやめろよ。気持ち悪いな」

そう隆哉が言い切る前に突然雷鳴が鳴り響いた。ものすごい稲光の後に、2人がいる店内は真っ暗になった。

「くそっ。停電か」

隆哉が懐中電灯を取り出して店内を照らすと、翔太はみちるが働いているであろうビルを見るために、ガラス戸にへばりついていた。街中が停電してしまったようで、真っ暗だ。夕闇のほんのわずかな明かりを頼りにして歩くしかなさそうだった。

「翔太、どうした」

「みちるちゃんがやばいかも」

そう叫ぶと傘もささずに翔太はみちるの働く高層ビルへ走っていた。


街中が停電する少し前に時間を遡ると、みちるはすっかりさっきの電話の件で、置き傘のことを忘れていた。

「あ、そうそう。忘れないうちに…」

主婦みたいな独り言を言いながらまた倉庫へ向かう。冷たく銀色に光るドアノブを回して倉庫の電気を点ける。もうさっきの声のことは忘れていた。倉庫は雑然としていて、冬にロッカーとして機能している場所を通り抜けたところに傘を置いている。薄い紫の傘が見えた。あったわ、と安心して傘を手に取ろうとした時。誰かがみちるの肩を掴んで無理やり振り向かせた。本当に突然には対応できないわ、と今朝の同僚と話したことを思い出したところで、空に稲妻が走り、街が闇に沈んだ。

みちるが覚えているのは、強烈な稲光までで誰がみちるの肩を掴んだかはわからずじまいだった。

気づけば、病院のベッドにみちるは寝ていて、誰かが私の顔を覗き込んでいる。誰だっけ。見たことある。思い出した。

「翔太…?」

「みちるちゃん!気づいた?」

翔太の横にはもう一人いた。

「倉庫で倒れていたんだよ。びっくりした」

「氷室さん…」

みちるの顔が少し赤くなった気がした。もしかして気があるのか、と翔太は直感で思った。

「氷室さんはともかく、翔太はなんでいるの」

「俺はみちるちゃんが心配だったから、学校終わってタカ兄のとこで時間潰してたの。そしたら雷が光って、みちるちゃんがいるとこだけ真っ黒になったからやばいと思って」

翔太は立て板に水を流すとはまさにこのこと、といった感じで一気に話した。話を横で聞いていた氷室はポカンとしている。そんな氷室に気付いたみちるは

「なにわけわかんないこと言ってるのよ。この子は…すみません。オカルトおたくなんです、この子」

「お姉さん思いなんだね。関心するよ」

「いやぁ、それほどでも」

褒められた犬よろしく、しっぽを振るように喜ぶ翔太なのであった。そう笑いながらも翔太には色々とひっかかることがあった。翔太がみちるの会社へ駆けつけた時はまだ停電中で、さすがの翔太も携帯電話の明かりを頼りに、みちるの気配がする倉庫までたどり着いたのだが、鍵がかかっていたのかドアが開かなかった。翔太が苦戦していると、突然眼鏡をかけた少年が現れてまるで、何事もなかったかのようにドアノブを回して開けた。翔太はあんぐりと口を開けたまま眺めていたが、電気が普及したので、倉庫に入ってみると、倒れていたみちると、みちるに声をかける氷室がいた、という流れだった。

翔太の率直な感想としては、ドアは凍りついているように冷たく、何かの封印ではないか?ということと、いとも簡単に開けてしまった少年が…気に食わなかった。別に自慢げにするわけでもなく、ひょうひょうと対応していたのがなんだか悔しかった。


「あいつなんなんだ、一体」

つい独り言が出てしまった。

「変なこと言ってないでご飯食べてしまいなさい」

飛鳥に怒られて我に返る。

「あ、うん」

慌ててご飯をかきこんで、自分の茶碗を流しに持っていく。

「みちるちゃん…」

みちるが家族の茶碗を洗っていた。

「ほら、お茶碗そこに置いて」

「休んでろよ」

「だって何ともないんだもん。会社まで早退させてもらって申し訳ないわ」

「あ」

翔太がなにかに気付いた。

「え?」

「首に傷がついてる…」

傷は首に対して縦についていた。

「やだ…いつの間にかひっかいてたのかしら」

「今日倒れた時についたのかな」

翔太も気づかなかったが、それはペンダントのチェーンにもついていた、いや、ペンダントを狙っての傷だった。

「私…守られてばかりで嫌になっちゃう」

みちるがぽつりとつぶやいた。


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