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動き出した闇

みちるは地下鉄のガラスに映る自分を眺めながら考えていた。

確かにここ最近、いやもう2年になる。変だった。でも、気のせいかもしれないし、自分が働き出して環境が変わったから、《そう》なのかも。

実は前日はみちるの22歳の誕生日だった。20歳には、母から凪野家に代々伝わる石を受け継いでからそれは始まったような気がする。

いつもそれは夢の中だった。自分に助けを求める声が微かに聞こえた。聞こえたような気がしたというのが正しい表現だったのかもしれない。しかし、それはいつしかはっきり聞こえてくるようになったのだ。

最初は幼い子供が助けを求める声だったそれが、回数を重ねるごとにどんどんその助けを求める人物の声が成長しているのだ。実はその夢は昨夜も見ていて、声を聞くだけでは自分とそう歳が変わらないような感じだった。

みちるは少しずつ気づいていたのだが、この夢は新月の時に限って見る。やっぱりおばあちゃんに正直に話した方がいいのかしら、みちるが黙々と考えていると、突然肩を誰かがつついた。驚いて振り返ると、そこには爽やかな笑顔を連れた男がいた。漫画みたいな爽やかさだ。

「おはよう」

「おはようございます」

「凪野さんじゃないかなと思ったんだ。なんか考え事してた風だったから声かけようか迷ったんだ」

「あ、いえ。ボーっとしていただけです」

みちるが照れて顔を赤くして俯く。この場面を凪野家の兄弟が見たらそろって「ありえない!」と言うだろう。それくらいみちるはかわいらしく振舞っていた。みちるに話しかけてきたのは、みちるの5歳年上で(ちなみに長男の勇一郎と同じ歳)氷室といった。社内では女性社員の視線を独り占めするくらいのいわゆるイケメン男子だ。確かにかっこいいけど、この人にはどこか名前の通り、氷のような冷たさが漂うところがあるわ、とみちるは思うことがある。

「ペンダント、服に隠れちゃってるよ」

氷室がみちるのペンダントに触れようとしたその時、触ろうとしてペンダントから手を咄嗟に離した。氷室が少し顔をしかめた。

「静電気ですか。ごめんなさい」

「大丈夫だよ…。まだまだ乾燥しているもんな」

「これ、お守りなんです。あんまり人に見せるもんじゃないっておばあちゃんに言われていて…」

「お守りだったら大事にした方がいいよ」

氷室はいつもの笑顔に戻っていた。


会社に到着すると、なんだか騒然としていた。

課長や部長が深刻な顔をして集まって話をしたり、まだ営業時間前というのに電話がひっきりなしにかかってきて、皆が対応に追われている。

とりあえず手が空いている同僚に声をかける。

「おはよう。どうしたの、この騒ぎ」

「おはよう、みちる。大変なのよ」

「どうしたの」

「それがね…」

同僚が耳打ちで事態を教えてくれた。えっとみちるが驚いた声を出す。

「大変ね…」

眉間にしわを寄せてみちるも深刻な顔をした。この騒ぎは、おとといから連絡がついていない女性社員にとうとう捜索願が出たもので、情報を嗅ぎつけるのが早いマスコミからの取材の電話ということで、朝から電話が鳴っていたのだ。しかし、それだけではなく、この1ヵ月でみちるくらいの年齢の女性が謎の行方不明になっていたのだった。

「怖いわね…みんな犯人は同じなのかな」

同僚がつぶやく。

「今宴会シーズンだから遅い時間に帰るその途中で…ってところなのかしらね」

「でもみちるは大丈夫よね。後ろから襲われても、どんな大男でも投げちゃうでしょ」

「私だって急に襲われたらどうにもならないわよ」

頬を膨らませてみちるが抗議をする。みちるは合気道3段なのだから頬を膨らませたところで、指摘された内容に否定しにくいところがあるのだが…。


そんな騒ぎを横目に仕事をしつつも、電話を取ると、マスコミからの取材だったりもした。そんな電話は全部課長にまわしていた。

夕方になると急に空が暗くなり、みるみるうちに雨が降り出した。

「雨が降るなんて聞いてないわ!」

窓の外を見た女性社員たちが口々に悲鳴をあげている。確かに今日は1日晴れると天気予報では言っていた。今頃母は慌てて洗濯物を取り込んでいるに違いない、とみちるは母の姿を思い起こしていた。

「そうだ、自分の心配もしなくちゃ」

ふと、みちるは普段誰も入らない倉庫に置き傘をしていたのを思い出した。退社時には不届き者が置き傘を勝手に使っていることがあるので、盗られてしまう前に自分の傘を確保しておこうと、席を立った。

冬ならここの倉庫はロッカーにもなるので、なんとなくひと気があるものなのだが、厚手のコートが不要になってきた4月の中旬にもなると、必要な備品を取りに来る以外は誰も来ない。みちるがドアノブに手をかけたその時。

「…?」

誰かに呼ばれたようなそんな気がした。なんか深い底から響いたような、そんな微かな声が聞こえたような。

「誰か中にいるのかな」

独り言を言いながらドアを開けようとすると

「凪野さん!」

誰かがみちるを呼びとめた。

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