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ちから

「少し話をしましょうか」

せつながそう言うと、ここではなんだからと、みちるが先ほど石の浄化を行った社まで案内された。


「ここは…俺達も入っていいのか?」

勇一郎がせつなに聞いた。

「大丈夫です。なぜならあなた方も選ばれた者ですから」

「それって、タカ兄も?何にも見えないのに??」

翔太が間髪入れずに聞く。

「そうですね。…このままでは隆哉様が不便でしょう。翔太様のお札を拝借できますか」

「うん」

翔太が一枚取り出し、せつなに渡す。せつなは受け取ったお札に念を込め、翔太に渡した。

「これを隆哉様の目の前にかざせば、わたくしの姿が見えるでしょう」

「兄ちゃん、見える?」

翔太は突然隆哉の目の前にお札をかざす。

「わぁ!?人がいる??」

さすがの隆哉も驚いているようだ。

「隆哉様、初めまして。わたくしは凪野家守護霊のせつなと申します」

「あ…どうも…」

今まで全く何も感じない生活をしてきたので、なんだか不思議な感覚を覚えた隆哉であった。目からお札を外したりかざしたりして遊んでいる。

「話がすすまんだろう」

そう言って勇一郎が軽く隆哉の頭を叩いた。


「さて…ではこれでみなさまとお話ができるようになったことですし…何から話をしましょうか」

「せつなさん」

みちるが口を開く。

「なんでしょうか」

「私…お母さんやおばあちゃんみたいに『ちから』がないみたいで…私、正当な後継者じゃないんでしょうか」

不安そうにみちるは訴えた。せつなはそれを聞いてしばらく空を見つめて考えていたが

「いいえ、そんなことはないはずです。おそらく個人差でしょう。ユリ様はもう5歳の頃にはわたくしとお話ができておりましたし、飛鳥様は15歳で色々と見えてきたようですから…」

「やっぱばあちゃんすげぇな」

隆哉は他人事のように呟いた。

「でも、もう2度もこんな事になっているのに、自分で何にもできないんじゃぁ…」

「そのために勇一郎様をはじめ、ご兄弟がいるのですよ」

せつなは微笑んでみちるに答えた。

「じゃぁ俺たちはみちるちゃんの護衛係ってこと!?」

「平たく言えばそういうことになります。そして、御3人方はそれぞれ能力をお持ちなのです。役割を知っていただいた上でこれからの戦いに備えて頂かないとなりません」


「最初に翔太が見えたりするようになった時は、俺は正直ありえないと思ってた。この化学が進んだ時代に」

勇一郎が口を開いた。

「兄ちゃんは特に現実の世界を生きる医者だもんな」

翔太が合いの手を入れる。

「無理もありません。この世界では何も見えない方が大半なのですから」

「でもタカ兄も見えないよ?」

「隆哉様はまた特別なのです」

「俺が!?」

自分を指差して目を丸くする。

「順番に話していきましょう。まずは勇一郎様ですが…この山に入ってから迷わずに山門までたどり着けましたね?」

「あぁ…」

勇一郎はみちるの後姿が自分の目に映ったり消えたりしたのを思い出した。

「そうだ。兄ちゃんどうして?」

翔太も迷わずに進んだ兄の後姿を思い出す。

「あれは…最初は見間違いだと思ったんだが…みちるの歩く後姿が見えた」

「えっ…私が??」

「ただ、はっきりとじゃない。見えたり見えなかったりするんだ」

「それは、記憶投影…現代の言葉で言えばサイコメトリーとでも言いましょうか」

「なんだそりゃ?」

隆哉が思わず声を裏返した。

「物や人の記憶を読み取ることができるのです。草木に触れることによって、みちる様の後姿が見えたのでしょう。今回はこのような場所なので読み取ることは容易でしたが、街中や人であれば数え切れない記憶があるので、最初のうちは知りたい記憶だけを読み取ることは難しいでしょう」

「じゃぁ俺が攻撃できたのは…」

「勇一郎様の能力は手から波動を出すことによって発動するものなのです。念じ方ひとつで武器にもなり得ます」

「じいさんの刀を使ったからというわけではないんだな」

「それは難しい質問ですね…」

せつなは少し困ったような顔をして笑った。

「もちろん、龍之介様のお力添えもあったかもしれません。しかし、そうなると…」

「おじいちゃんも何か能力のことで関係があったんですか?」

考えているせつなにみちるが聞く。

「…このことはまた後で話します。次に隆哉様です」


「俺か」

「隆哉様は何もお感じにはならなかったでしょうが、全てのものを完璧に遮断してしまう能力なのです」

「それじゃぁ気づかないわけだ」

合点がいったように翔太が頷く。

「じゃぁ、さっき私を助けに来たときも…?」

「そうです。おそらく、隆哉様にはみちる様のお姿しか見えなかったのでは」

「まったくせつなさんの言うとおりだぜ。山門に入った時も、翔太に『危ない』って言われたけどなんのことやら…」

「そうです。まさに触れられない絶対領域なのです。しかし時にそれは諸刃の剣にもなり得ることを覚えておいてください」

「どういうことだ?」

「隆哉様の能力はあくまでも防御専門。攻撃はできません。そして今のように、わたくしと話ができるということは…」

せつなは突然隆哉の前に行くと、肩に触れた。

「こちらの世界と繋がっているということです。つまり、隆哉様の絶対領域は使えないことになります」

「なるほどな」

隆哉は頷いた。せつなはまた微笑み元の位置に戻る。


「そして、お待たせしました。翔太様」

「俺はもうわかってるけど…」

「そうですね。この中で一番早く覚醒されていましたもんね」

「うん。やっぱ俺は攻撃専門?」

「はい。御3方の中では一番攻撃力に優れていると言えます。今までしてきたように、攻撃や封印が可能です」

「じゃぁ俺がエースってわけか!」

ニヤニヤしながら得意げに言う。

「もう、調子に乗らないの」

みちるが恥ずかしそうに翔太を小突いた。

「翔太様は力のコントロールに関しては、もう何度も力を使っていらっしゃるので問題ありませんが、勇一郎様と隆哉様は鍛錬を積まれた方がよろしいかと思います。いつまた先ほどの者が襲ってくるともわかりませんから」

「そうだな…」

「うん…」


「みちる様…」

「はい」

「そんな悲しい顔をしないでください。あなたの周りにはいつも味方がいるのですよ」

「えぇ…でも、どうして浄化をしたのに…私はまた襲われたんですか?」

「それは…右手をご覧いただけますか」

「えっ」

みちるは夢の中で拾ってきた砂で負傷した右手の存在を忘れていた。

「これは…!」

以前よりもまた黒いシミが少しだけだが、広がった気がした。

「おそらくこの程度の浄化では消すことができないもの…わたくしの経験からすると強度の呪いですね」

「元を断つしかないのか」

勇一郎がみちるの手の平を見つめながら言った。

「現在考えられる手段は…残念ながらそれしかありません」

「でも誰がこんなことをしたのか見当はついてるのか?」

今度は隆哉が聞く。

「申し訳ございません。見当は全くといっていいほど…呪いをかけたのはおそらく先ほどの者でしょう」

「私、どうしたら…」

「焦ることはありません。今はまだその時がきていないのです。きっと来るべき時に、全てわかり、そしてみちる様の真の力も分かるときが来ますから。どうぞご安心を」

せつなも気持ちはわかるのだろう。力強くみちるを説得する。みちるも全て納得はいっていないようだが、せつなの目を見て頷いた。

「俺の能力が突然目覚めたのは…このためだったのか…」

勇一郎が誰に言うでもなく呟く。

「なにか強いきっかけと出来事があれば潜在能力は目覚めます…もちろん、みちる様もこれが第一歩だと考えてください」

「えぇ、わかったわ」

先ほどよりはほぐれた感じでみちるは笑った。


「さぁ、そろそろユリ様たちも心配されているでしょう。今から家の前まで転移でお送りいたしますので…」

「ちょっと待って!」

翔太が反射的に叫ぶ。

「どうしました?」

「俺たち、まだじいちゃんの話を聞いてないよ」

「龍之介様、ですか…翔太様はおじい様のことはどのように聞いてますか?」

「じいちゃんは…ただ、母さんが小さいときに事故で死んだって…」

「事故、ですか…確かにある意味事故だったかもしれません」

「どういう意味だ?」

勇一郎がすかさず質問した。

「それは…龍之介様はユリ様と飛鳥様を守ったのです。身を呈して。しかし…龍之介様のご遺体はどこにも見つかりませんでした」

「なんだよそれ」

隆哉はまばたきするのも忘れていた。

「まだ、生きている可能性も…?」

みちるがおずおずと聞く。

「それはわたくしには何とも言えません。ですが、勇一郎様のその刀…わずかですが、龍之介様の波動が感じられるのは事実です」

「じいさんは生きてるってことか」

「可能性としては考えられなくもありません。しかし、生きていたとしても…この世界での記憶が全くなくなっていることも考えられます」

「なんだかややこしくなってきたな。もう、ばあちゃんに聞くよ」

「なりません、翔太様!」

今までの穏やかなせつなからは想像もできないほど厳しい声が飛んだ。4人とも驚いてポカンとしている。

「…失礼しました。飛鳥様は覚えておいででないでしょうが、ユリ様は…まだそのことで後悔の念に駆られていらっしゃいます。追い討ちをかけるようなことは決して…」

「わかったよ。ま、もしかしたらじいちゃんのことも、これから真実がわかるにつれて、何か調べられるかもしれないしね」

「お前、珍しく大人な発言だな…」

隆哉が普段とのあまりのギャップに驚いている。

「うるせぇなー。俺は大人ですよー」

またいつものやり取りが始まって、みちるも勇一郎もほっとして自然と笑顔がこぼれた。

「では、お宅までお送りしましょう」

せつながいつもの笑顔に戻り、言った。


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