遠慮と怪異と裂け具合
僕たちの街には"ご遠慮さん"と呼ばれる都市伝説が存在する。
ご遠慮さんとは、すれ違い様に『ご遠慮なく貰ってください』と何かを手渡され受け取ってしまったら呪われて死んでしまうと言うもの。
対処法としては『ご遠慮さんご遠慮さんご遠慮致します』と確実に五回断ること。
なぜ確実にかというと断っている最中もご遠慮さんは繰り返し『ご遠慮なく貰ってください』と言われるからだ。
目撃した人からは『若い男だった』『三十代くらいの女性でした』『おばちゃんだったよ』など外見がバラバラだったことから『ただの物をあげたい人間だろう』と言ってる人もいる。
だが共通するのは『ご遠慮なく受け取ってください』と言われ何かを手渡される点だ。
ネットで「友達が知らない人から何か貰った後に衰弱してから死んでしまってこれって呪いの類なのでしょうか? ちなみに友達は通りすがりの人に突然『ご遠慮なく受け取ってください』と言われて受け取ってしまったらしいです」と言うスレが立てられたのが始まりだ。
そうすると他には同じく通りすがりの人に『ご遠慮なく受け取ってください』と言われた人が七人程いて受け取ってしまった人が四人、そしてその四人全員が亡くなった。
その時のスレがネットで広まり始めた結果その『ご遠慮受け取ってください』と言って"何か"渡してくる人のことを"ご遠慮さん"と呼ばれるようになった。
僕はこのご遠慮さんを探している。
理由は……幼馴染であり友達のエリカがご遠慮さんに会って死んだからだ。
そう……あのスレは僕が立てたのだ、何か情報が手に入ればと思って。
なぜかというと僕はきさらぎ駅やくねくね、八尺様などインターネットから生まれた怪談は存在することを思い出したからだ。
そういえばタツヤが情報を手に入れたとか言ってたな
プルルルルプルルルル
カチャ
「あっもしもしタツヤ学校で言ってたご遠慮さんの情報って何か教えてくんない?」
「いいけど、明日学食のメロンパン奢りなリョウスケ」
「分かったそれぐらいなら」
「それじゃ今回分かったのはご遠慮さんが昨日リョウスケん家の近くの和泉書店に目撃された。ここ最近目撃情報が増えているな……勝手に行くなよ、行くなら俺も連れて行けよ危ないからな」
「了解了解……せめて買い物ならいいだろ」
「それはいいが、まさか和泉書店に行く気か?」
「そうだけど何?」
「何じゃないだろ!! さっきの話聞いてただろなに考えてんだ!!」
「しっ仕方ないだろ新刊の発売日なんだから」
「うんそりゃあ行ってこい」
「じゃあ行ってくるタツヤいつもありがとな」
そして僕は電話を切った。
新刊の発売日ってのは嘘じゃないが、本当はご遠慮さんを見つけることが目的だ。
そして僕が家を出てすぐの曲がり角を曲がった時背後から「ねえ私綺麗?」と話しかけられた。
これは口裂け女の常套句だなと思いながら振り向くと
シャララララン
僕は口裂け女を一眼見た瞬間あまりの美しさに
「……綺麗」と呟いてしまい口裂け女が
「ならあなたもこうしてあげる!!」と鎌を振り下ろそうとして僕は
「殺るならせめて麻酔をしてから!!」と変なことを口走った。
すると口裂け女が笑い始めた
「ぷっはははそんなこと言われたの初めてだよ、面白いねあんた。私は好きな物は最後に食べる派だから他の連中に食べられたら困るからその間は護ってあげる。私の名前は三嶋絵奈だからね。絶対口裂け女とは呼ばないでね口裂け女は種族名だから分かった?」
「はい」
「なんか子供っぽくて可愛いわね」
僕は絵奈さんに「絵奈さんちょっとこの鎌貸してもらえませんか?」と尋ねた。
「いいけど何に使うの? まあいいけどはい」
「どうってこう使うんだよ」
僕はそういい自分の口を裂いた
「なっなななな何してんの!?」
「こっこうすれば他の連中から狙われにくいと思って」
こうすれば絵奈さんが裂くはずだった口はなくなって、怒って僕を殺すだろう。
この身体ではご遠慮さんを見つけることは出来なくなるけどこんなに美しい人に殺されるのなら本望だ。
「いやぁほんと驚いたよ私と同じことする人がいるなんてさぁ」
「えっなんて?」
「私って元々人間だったんだけど、口裂け女に遭っちゃって『誰かに裂かれるくらいなら自分で裂いてやる!!』って思って何かされる前に裂いたらあの人驚いて『私はお前みたいな狂ったやつよりちゃんと怖がってくれる人を狙いたいんだ!! じゃあな!!』と言って走っていっちゃって、その日から私は口裂け女になったの」
そこから絵奈さんは口裂け女になった日からの暮らしなどを話し始めた。僕は殺されなかったことなど驚きながらも絵奈さんの話を十分ほど聞いた。
「…………とまあこんな感じで過ごしてきた訳……だからって君まで私みたいに過ごさなくていいからね」
そして僕は絵奈さんに目的を話した
「そう……あの子がまた」
「また? もしかして何か知ってるんですか!?」
「知ってるも何もあの子と私たちは"深淵の恐怖"という人間が恐怖している存在たちが作った組織に所属している。あの子は元々"呪いの手紙"だったんだけどね最後に書いた人が『せめて呪いの手紙とお話出来たら楽しそうだったのに』って言って死んだんだけど、その人の霊があの子を取り込んでその後ごちゃまぜになっちゃってあの子は人間の姿になれるようになったんだよ」
だから受け取ったら呪われて死ぬってことか、誰かから貰ったものって必要ないものだったら捨てるか売るかそのまま放置って人も多いからなぁ。
僕がそう考えていると背後から『そこの男の子これ……ご遠慮なく受け取ってください』と聞こえ声の方向に振り返った。
その姿は僕には人間には見えなかった。
怨みがこの世を視ている……まるでそう語りかけているかのような"様々な形の目"があった。
僕は受け取らないように五回断った。
「そうですか、いらないですか。そこまで断られては仕方ありません。今更かもしれませんが絵奈先輩その男の子には気をつけた方がいいですよ」
「大丈夫この子も"候補"だから」
「そう言うことならわかりました」
候補とは何のことだろうか? 僕がそう考えていると視界に入った"僕"と目があった。
すると"僕"は倒れた。
なぜかは知っている……僕はドッペルゲンガーだからだ。
そして僕はどんな姿にもなれる。
そしてその姿の人間を探し目を合わせれば誰でも殺すことが出来る。
僕の能力はそういうのだ。
僕は元々はマネキンだった。
マネキンに『並行世界の自分に会いたい!!』と願って死んだ霊が混ざった結果生まれた。
「そういえば君の名前聞いてなかったね。教えてもらってもいい?」
「僕の名前……ですか? 僕の名前は江川薫種族はドッペルゲンガーです」
そして僕は絵奈さんに候補について聞くと"深淵の恐怖"に入れる怪異の候補ということらしく『入ってくれれば君の願いを叶えてもらえる』と言われたので単純な理由だけど入ることにした。
僕の願いは全ての怪異や恐怖を取り込み力をつけることそしてその力で人間が楽しく笑える世界にすること。
ドッペルゲンガーっぽくないことは分かっている。
一年後
「薫くん最近どう?」
「どうって言われましても……まだまだ弱いままですよ」
「そうじゃなくて……口の裂け具合だよ。口裂け男になれそう? もし口裂け男になれれば一応私と同じ力は手に入るはずだから、強くなれると思うよ」
「裂け具合はいい感じですよ最近は足が少し早くなりましたね」
「そっかその調子だね」
「……で文香ちゃんはどうして隠れてるの?」
「いえいえ私のことは気にせずご遠慮なく」
「もしかして薫くん狙い?」
「なっ何を言ってる……んですか絵奈先輩!?(私はこんな男より絵奈先輩狙いですよ)」
「まあどっちでもいいけど、ほら二人とも早く任務に行くよ」
「「了解です」」
これは僕たち三人が恐怖の世界をぶち壊す物語
どうかご遠慮なく、見守ってください
おしまい
見つけて読んでいただきありがとうございます!!
今日口裂け女の夢を見たので書きました