巻きつく鎖
「起きているな。」
「動くな…お前が魔人共を呼ぶより俺がオリヴィアの首を掻き切る方が早い。」
「一言でも発すればオリヴィアは死に俺も魔人共に殺される。それはそれでかまわんが。」
「不思議そうな顔をしているな。殺してしまえばオリヴィアを浚う意味が無いと?」
「そうか。そうだろうな。だが、薄々感づいていたんだろ?唯の盗賊ではないと。」
「オリヴィアの誘拐は任務の内ではあるが、更に重要だったのはこの城の調査と威力偵察。」
「それになオリヴィアは領主の娘だ。死体になった後もある程度の価値があるのさ。」
「ー嫌な話だろ?俺たちみたいな生きてても死んでても誰も気にしない日陰者とは偉い違いだー」
「…その視線は吸血鬼の部屋の方を気にしているのか?残念だが完全に休眠状態だ。怪人二人がいなければ心臓を突いて灰にしておきたいところだがな…俺も命が惜しくないわけじゃない。」
「やつは想像以上のヴァンパイアだ。底知れないと言っても良い。数時間前に森中を撫でた音と魔力の波。その出力だけで怖気がはしる。だがまあこちらも専門分野なのでね。」
「吸血鬼としての性能は絶大だが、イマイチ使いこなせていない。現に専用装備で城の付近に潜んでいた俺をサーチできなかった。」
「どう思う?こんな奴をみすみす再生させて良いのか?必ず我々人類の敵になるぞ?」
「…情でも移ったか?魔人に?吸血鬼に?それともこのお嬢さんに?」
「違うよな?お前の頭にあるのは保身だけ。明日を生きる強い意志だけで今の今まで身体を動かしてきた。」
「そんな目をしていたからお前をさらって誘拐を手伝わせた。結果としては当初の予定とは違ったが馬鹿な野盗共を廃城にけしかける手間が省けた。少々回りくどかった計画が良くも悪くも二段三段飛ばしで進行した訳だ。」
「俺はお前の度胸を評価している。」
「今も俺が脱出したらすぐさま助けを呼んで洗いざらいこの事を話す気だろう?」
「だが良いのか?言ったろ?唯の野盗じゃないとスポンサーがいるのさ。チャップマンよりもキャンベルよりも高貴な身分の方々がそろいもそろって野盗共に俺達を潜り込ませて支援もしている。」
「なにが言いたいかわかってくれるよな?このまま俺達を手伝ってくれ。報酬は弾もう。見た事もない大金を前にお前がどんな顔をするか楽しみだ。」
「オリヴィアには出頭して罪を償えと言われたそうじゃないか?口利きしてくれると?いい娘じゃないか。きっと本当だぜ?魔人達は優しくしてくれたか?お前はまだ善人だと?むしろギリギリで人助けをしたと?」
「良いのか本当について行って。罪を償えって言われたんだぞ?オリヴィアがいくら庇っても実際に判断を下すのはチャップマン卿だぞ?刑吏に突き出されるかもしれないし、そもそもその場で殺されるかもな…」
「貧しい暮らしを強いられていたお前がこの地でもっとも贅沢な暮らしをしている奴に断罪されるんだ。娘に情けをかけてやったってのにな。」
「魔人達だってそうだ。まともな兵隊や開拓者の様に見えるか?吸血鬼は?我々人間とは違う生き物だと感じなかったか?」
「勘違いするな。罪人はお前じゃない。あいつ等だ!我々はチャップマンよりキャンベルより上の奴らに命令されているんだ!始末しろとな!」
「どうだ?最初っからお前は悪い事などなにもしていない…うん」
「良い顔だな。色んな感情がぐちゃまぜだ。やっぱりお前は我々の側がふさわしい。仕事が上手く行ったら是が非でも仲間に加わってもらう。」
「さて…なんでここまで時間を取らせたかと言うとな。」
「そろそろ効いて来たんじゃないか…暗示が。」
「しっかり目を合わせてくれていたものな。礼儀正しい子供は好きだ。心配はいらない。そこまで強力なモノじゃないし放っておいてもいずれ解ける。」
「ただ俺の事も今の話も奴らには喋れない。あらゆる手段で伝える事が出来なくなる。そう言う考えが浮かばなくなる。」
「では俺は行くよ。上々な成果だ。手伝いに関しては心配するな。俺達の合図で勝手に暗示が身体を動かす。」
「それと勧誘は本気だ。俺はお前をハメたが話した事に嘘偽りは無い。お前は俺の仲間からも評価が高い。是非ヘッドハンティングをと俺が差し向けられた。」
「お前は強制的に今までの惨めな人生におさらばする。ある意味更に惨めな畜生に堕ちてお偉いさんの命と庇護の下に高貴な身分の連中を消してまわる。」
「きっと辛いし楽しいぞ鍛え上げた腕っぷしで自分より立場が上の奴らの命を理不尽に奪うのは。」
「うん…効いた様だな!良かった!お前の心を縛るのは俺の暗示でも、甘言でも、ましては報酬でもない。」
「お前の今までの惨めな人生が。鎖となってお前の心を締め上げる。」
「またな。おやすみカミラ。」