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火を噴く七輪 醤油タレと廃城から始まる領地運営

「ふぅん…これは意外と…」

 ジャスパーが来訪した翌日の昼、廃城の荒れた庭園でジョー達が火を囲っていた。

 パチパチと破裂音を立てる、東方の道具だろうか。ブレイジャーやファイヤーピットに似た器具で魔物の肉を焼き、黒く光るソースに浸し食している。


 東方の調味料を奇妙と評していたジャスパーであるが実際に口に入れた感想はそこそこ好意的であった。


「見た目は如何ともし難いが、悪くないな…大陸でも流行る余地があるかもしれませんな。どうです?チャップマン卿?」


「確かに…東方の品や調味料は未だ珍品ですから…商人あがりの貴族としてはこの器具も気になります。東方趣味はまだまだ盛り上がる…とはジャスパー卿の弟君の言でしたな。」


 まるで商談の席の様に盛り上がる貴族二人にジョーは得意げに「だから言っただろうが!旨いってよ!」とふんぞり返る。

 ハインツが次々に焼いた肉をそれぞれの皿に盛りつけていく。目の前に山盛りになる肉に苦笑しつつも、ジャスパーは城の二階に目を向ける。


「ジョー…貴様が漁港のヒノワ人達と交流が深いのは是非活かすべきだ。エバ嬢の体調の面もあるから昨日は簡単な説明に留めたが…改めてエバ嬢のトレス家当主としての地位の復権。それはここでお約束する。暫定的に私の、そして当家が任命した小領主であるチャップマン家の管轄になっていたこの城と領地も、それに伴い返還される扱いになる。」


「これがこの先、この城とエバ嬢の書類上の扱いになる」そこまで一息に話したジャスパーは、盛られ過ぎて皿から落ちそうになっている肉を何枚か一度に醤油に付けて頬張る。


「エバに代わって礼を言うぞ。この城と森はやはり彼女を支える思い出の場所のようだ…」

 ジョーは昨夜の事を思い出し、少し真面目な声で礼を述べ、「ハインツ!加減しろ!こんな一気に食えるか!もー!焼き過ぎて脂で白煙出てるじゃん!」と、獲り付かれた様に黙々と肉を焼いては盛り付けるハインツに抗議する。


 とりあえず盛り付けられる肉の量が減りつつあるのを認めたジャスパーは安堵しつつ続ける。


「その思い出の城を乗っ取ろうとしている男の言い草とは思えんが…まあそこはお前らの関係でもある。好きにするがいいさ。お前とエバ嬢が共にいるのは我々にも利する。」


「この城を修復し、森を開き、魔族に対する防衛拠点として整備してもらう。」ジャスパーの言葉で皆は破壊され吹き曝しになった城門の向こうに広がる森を流し見やる。

「そのためには領民は領主一人と傭兵が二人です。では困る。我々の領民を引き抜き、他からも引っ張ってくる必要もあるだろう。先ずは防衛能力の復旧と土地の開墾…田園の方はどうだ?」


「動ける様になってからハインツと森の中を見て回ったが…未確認の物を複数見つけた、集落跡もな。地図にまとめたものを用意している、確認してくれ。ただ、使える様にするには人手がいるものが多い。」


 ジョーの答えにジャスパーは「うん…」と重々しく頷き。


「使えそうなものはなるべく再利用してだ…やはり人手だ。再生が終わり次第エバ嬢には社交界に乗り込んでもらう。いきなり目立つのは本意ではないだろうが…悪いが吸血鬼にされ孤独に森を守りぬいた悲劇の姫君…そう言う台本を読んでもらうぞ。今後彼女が人の間で生きていくのにも必要な事だ。」


「仕方ないだろうな…少しエバにも苦労してもらうか。」


 ジョーの目配せに「我々も付いている。やってみよう。」とハインツも応じる。


「この森と城は元々私の領地に組み込まれていながら、危険性から放置せざるをえなかった。エバ殿やジョー達が収めてくださるなら言う事もない。漁港との関係もある。此処を開拓拠点とし、いずれ増えるであろう開拓民や領民達と、我々の領地との通商や人の流入を速やかに確立したいのです。」


 ベンが引き継ぎ、語ったそれはまだ皮算用ではあるがそれだけこの城の有用性を認め、また期待が寄せられているという事を感じさせる真摯な物だった。

 魔族との戦線とは離れているがそれだけに手つかずの廃城が放置されているのは問題だった。

 特に目と鼻の先と言っていい距離に屋敷を構えるチャップマン家にとっては死活問題と言っていい。


「またぞろ強力な吸血鬼やらがやってきて今度こそエバ嬢が捕らえられでもしたら目も当てられん。」

 疲れ気味に眉間をもみほぐすジャスパーにジョーが控えめに尋ねる。


「エバ狙いと言えば…例の逃がした二人だが…。」


「ん…時間的に森を抜けたか潜伏しているか…捜索は続けるが…雇い主がいる以上報告に戻っただろう。まさか都合よく野垂れ死にと言うほど粗忽者ではないのだろう?」


「トレス家の…瀉血教団の息がかかっていると思うか?」

 ジョーの問いにジャスパーはピタリと動きを止め、「断定はできない…と言うほかないな…」と珍しく歯切れの悪い答えを返した。



「以上がノウムエバに関する偵察結果です。」

 締め切った小屋の中、ジャンはサムに向けて報告している。

 正確には宙を眺め微かな燐光を漏らすサムの義眼に向けてである。


「ご苦労!義眼からの視覚もこちらに届いていたよ!」


 何者かがサムの口を借りて答える。義眼を介した魔法による遠隔通話の様だ。


「やはりいい出来栄えに仕上がっていた様だね!()()()()()()()()()()()プラン・ヴァンパイア。ノウムエバ!あの辺りの教団を取り仕切っていたトレス家が壊滅したのは惜しかった!おかげで旧世代型のヴァンパイア共に貴重な試作品を奪われる所だったとは。」


 興奮気味に語る、サムを介する何者か。明らかにサムの物とは違う陽気な口調が無表情のサムの口から発せられる様は、日の入らない部屋の中と言う事もあり、ひたすら不気味であった。


「特にあの美しい肌が良い!太陽に照らされた褐色の肌!」


「はい…裸体であったためハッキリと確認できました。日焼け跡…ヴァンパイアがしない筈の日焼けをしています。」


「そうだとも!肌が太陽光に対して代謝し対応している!魔力による抵抗でもなく!再生力による耐久でもない!元から褐色の者が吸血鬼化したケースとも違う!毒であるはずの太陽による浄化を受け入れ生物として順応しているのだよ!」


 太陽光の元での活動は高位のヴァンパイアなら難しくない。太陽光を魔法で遮断するか、焼かれながらもとの肌に再生するか。いずれも日焼けと言う現象は起こさない。褐色の肌を持つものが後天的に吸血鬼化した場合その肌の色で固定されてしまう。

 エバの場合はくっきりと普段着ている服の跡が残っており、切断され再生中と思わしき腹の周りは特に色白だった。

 生物として状況にその都度適応し、体質を変化させる。

 命なき不死者(アンデット)としては考え難い能力だった。


「素晴らしい成果だよ!おっかない護衛達の情報も手に入った!報酬も補給も手筈通りに!期待してくれたまえ!それでは肉を持って神の身元に召されるために。」


 サムはそう捲し立てるとふらつき、負荷が強かったのか義眼の目元をもみほぐす。

 通話が切れたのを確認してジャンはサムに話しかける。

「肉を持って神の身元に…か。新人類とは…宗教狂いは始末に負えんな。」


「それでも我々は尻尾を振るべきだ。奴らは何度も粛清されながらも貴族階級の中にしぶとくのさばってる。我々の様な汚れ仕事専門の集団など、特権階級に法の支配が浸透したら居場所がなくなる。」


「ご主人様として最適か?」


「そうだ。まあしばし休暇を楽しもう。魔法の道具の大半と同僚も失った。補給と増員なしでは動けん。」


「了解したリーダー。肉を持って神の身元に召されるために?」


 おどけながら応じるジャンにサムは「言うなよ。」と苦笑し、痕跡を消しながら小屋を後にした。

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