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保護者会

「以上が事の顛末です。」

 ベンと護衛の兵士を作戦会議に使った食堂に招き入れると、ジョーがオリヴィア達が城に来てからの事、彼女達から聞いたそれ以前の事を本人に確認を取りながら説明した。


「重ね重ね…ありがとうございます。お話は粗方理解しました。裏で糸を引いている者、捕虜にした野盗…ジャスパー卿の判断を仰いだ方が良いでしょう。無論わたくしめからもお礼はお約束致します…」


「そして…」とベンは俯くカミラの方を見やる。


「先ずは礼から言わせて欲しい…オリヴィアを守ってくれてありがとう。」


 領主の立場でありながら、浮浪児であり、野盗の一味に組したカミラに丁寧に目礼するベン。その様子を見て、ジョーは少し安堵した表情でカミラを弁護する。


「彼女は一度、野盗に組し


 東方式に深く頭を下げるジョーに続きオリヴィアも身を乗り出して父に嘆願する。


「そう!そうですわ!お父様!カミラはもうわたくしの親友で恩人なのです!むしろ褒美があってしかるべきです!」


 懸命に、カミラの功績を強調するオリヴィアをやんわりと制し、ジョーにも頷いた後、ベンは身を屈め、俯きがちのカミラに目線を合わせると、穏やかにしかししっかりとした口調で告げる。


「しかし、無罪放免と言う訳にもいかない。私達の護衛にも死傷者が出ている。意味は分かるね?」


 領主の傍らに無言で控える兵士が微かな反応を示す。彼も仲間を失ったのかもしれない。

 少し表情を陰らせるジョーに対して、カミラの顔は血の気を失い、目を見開いたままガタガタと震える足を、同じく力の入らない手で懸命に抑え込む。


「い…いい如何なる…如何なるば罰も…」


 恐怖と罪の意識でマヒした口をパクパクとさせながら、何とか謝罪と償いの言葉を捻りだそうとするカミラを、ベンは勢いよく椅子から立ち上がり大声を出して遮った。


「いぃ良しっ!!」


「ひっ!?」と身体を硬直させながらつい後ずさりしようとして椅子から落ちてしまうカミラ。

 その鼻先にベンの手が差し出される。


「無罪とはいかない!しばらくは我が家の召使いとして奉公してもらうよ!それで君の罪は問わない。安心したまえ。衣食住は保証するとも!褒賞とその後の事の食い扶持は後で決めるとして…読み書きに興味はあるかね?」


 ひっひっと、恐怖で呼吸を乱しながらも、思ってもみない厚遇を受けようとしている事に徐々に気づくカミラ。その様子にベンは「少し脅し過ぎたね…」とバツが悪そうに護衛を見やる。

 護衛の男は、ふっと溜息で応じ、へたり込むカミラに跪き、その肩に手を置く。


「野盗に応戦して死んだ男は俺の部下だ…」

「…あ…」


「君の姿を見て…憤慨していたよ…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。…と、息を引き取るまでね。」

「…うぅ…うぅぅーーーーっ!!」


 護衛は唸る様に泣き出すカミラの肩を何度か力ずよく揺すり、赤らんだ眼を細めた。


 ホッとした様子で肩を竦めるジョーにベンはカミラの処遇について相談を始める。


「誓約書も羊皮紙にしっかり残す、カミラ君がどれほど読み書きできるかわからないが、立ち合いを頼めるかね?」

「かしこまりました。よろしくお願いします。おう!良かったなオリヴィア!先ずは一安心…オリヴィア?」


 笑いかけるジョーの視線の先で、黙って立ち尽くしていたオリヴィアが、かくん、と膝をおり音を立てて倒れ伏してしまった。



「駄目親父此処に極まれり…だな…」

 ジョーから受け取った紅茶を啜り、ベンが独り言ちる。

 倒れてしまったオリヴィアと精神的に消耗したカミラを寝室で休ませ、再び食堂に集まった一行。


 ジョーの音頭で、念には念を入れて寝室の窓には板材を打ち付け鳴子をこれでもかと仕掛け直していたのである。野盗からのカミラに対する奇妙な評価の高さはジョーに強い懸念を抱かせており、ベンとその護衛達の協力もあり手早く安全を確保できたのはせめてもの救いであった。

 率先して協力を申し出る姿からは領主一行のオリヴィアへの愛とカミラへの労りと同情を感じられ、新たな友に対する心配事が一つ減りつつある事に安堵したジョーは、数日でごっそり減った城の食料備蓄から軽食を作り護衛達も椅子に座らせ振舞いはじめた。


「私も全員無事で野盗を撃退できた事に舞い上がっておりました。年端もいかぬ少女達だ、この数日ろくに眠れなかった事でしょう。しかし、私も禊は必要であったと思います。」


 ジョーが着席した護衛の隊長に特性の濁り酒を注ぎ、「彼女がこの先、罪の意識に苛まれ続けない為にもね。」と続ける。

 隊長は注がれた酒の色味と匂いにぎょっと眉を上げると、不敵に笑い盃を揺らしてみせると豪快に飲み干す。「お見事!」とはにかみ茶化すジョーに応じつつ。


「罪は罪とは言え…最終的に加担したとは言えども…カミラは道義に照らし最善の行動をとったと感じます。…野盗が浮浪児を浚い片棒を担がせる手口はこの大陸で頻発している…」


「過酷な生活をおくる子供に野盗に捕まり脅されたらきっぱり断り自力で逃げ出しなさい…等とのたまうならば我々の方こそ道義を問われましょう…野盗団の乱立と浮浪児の増加は領主である私の不徳でもあります。」


 紅茶を飲み干し、苦々しく溜息を吐きながらベンが引き継ぐ。そのまま渋面を作りしばし黙った後、「失礼…やはりその強い酒精…私にも頂けるだろうか…」と、その強烈な匂いに一度は丁重に断った酒を要求した。

 ジョーは満足げに酒を振舞うと、軽食も改めて勧める。


「胃が荒れてはいけない、数日食事も喉を通らなかったのでは?…全てを救える領主などおりません。全てを失った領主が説教するのも赤面ものですが。少なくともロード。貴方は一人救いつつある。」


 その言葉にベンはやつれた笑みを返すと。盃を掲げ、ジョーのものと突き合わせると、危険を顧みず自らと愛娘に尽くしてくれた護衛達を労うように見回し掲げてみせる。

 その様をジョーは満足げに眺め笑みを深め。


「ジャスパー卿もこちらに向かっているとの事…もともと通常の商談の他に貴方たち魔人の城の一行についての打ち合わせ途中での魔族の攻勢と襲撃だった。立ち寄った拠点で受け取った伝令によると戦線は安定したと…ロード・ジョウ…?」


 ベンの言葉に笑みを凍り付かせていた。


「じゃ…ジャスパーの野郎が…?」

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