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一応の幕切れ ようやく静かな昼下がり

 凄まじい轟音と共に吹き飛んだ城壁の破片が重苦しい音を立てて辺りに散らばる。

 血煙を含んだ粉塵が辺り一帯を覆いその衝撃の大きさを物語る。

 粉塵を裂いて人体が飛ぶ、ベチャリと水音を立てて、肉と血の塊と化した野盗が地面に()()()()

 それを追うようにゆらりと煙に影を映しながら魔圧駆動甲冑が、ハインツの巨体が歩み出る。


 輝くような銀色の装甲を蒼と白の優美な装飾で飾り立てた美しい鎧は、魔法の道具によって強化された攻撃によるものか、所々が痛々しく歪みへこんでいる。

 一族に代々伝わるその名の通り白い燕(ヴァイスシュバルベ)の如き美しい鎧を粉砕した野盗の返り血で真っ赤に汚しつつも、ハインツは一切気に留める素振りもない。


 群がる骸骨兵を烏丸で薙ぎ払いながら奮戦するジョーの姿を素早く認めると、その先のサムとジャンを面頬の覗き穴から睨む。魔力探知機能がハインツの昂る精神に呼応し最大稼働し覗き穴から眼光の様な青白い魔力光が溢れ出す。それを合図にハインツは弾かれたように駆けだした。


『ジョー!まだ生きているな!!』


 ジョーは息を切らしながらも骸骨兵を両断していく。時折、烏丸の長い刀身を敵の肋骨に引っ掛け、他の骸骨に向かってぶん投げる。何体も折り重なり倒れたところを乱暴に串刺しにしてまとめて行動不能に追い込んだ。


『応よぉ!!だが見ての通りキリがねぇ…!!手を貸してもらうぞ!!』

『言うに及ばず!!!』


 全力で地面を踏み抜き、その巨体をぐんぐんと加速させるハインツが、渾身の力で跳躍する。


『ぬぅぅぅああああ!!!受けよ!断頭台(リヒトブロック)!!』


 雄たけびと共に空中で勢いよく身体を捻り、骸骨兵に向けて全重量に落下速度を上乗せした踵落としを見舞う。

 ぼっ!っと落石でもあったような鈍い音がして周囲の何体かをも巻き込み骸骨兵は粉砕されながらハインツの踵と共に地面にめり込んだ。


『助かったぜ!さて…さっさと逃げなかったのを後悔してもらおうか…』

 ジョーとハインツ、恐らくいずれも最上位の魔導甲冑に身を包んだ武者が並び立ち、サムとジャンに対し構えをとる。


 残った骸骨兵が庇うように立ちはだかるがその数は大分目減りし、また無傷の者も少ない。

 焦りの色を隠せなくなったサム達にジョーは勝利を確信する。


『雑魚共は頼むぜハインツ。俺は烏丸の能力を稼働させる。一撃で…片を付ける!』

『…』

『…?おいハインツ!?どうした!』

『すまんジョー…無理そうだ…』


『…は?』とハインツを二度見して間抜けな声を漏らすジョーに、ハインツは息苦しそうな声で答える。


『どうやら何処からかエーテルが漏れているようだ…駆動システムの魔圧が下がり続けている…』

 構えた両腕が呼吸に合わせて微妙にではあるが下りつつある。


『お…お前さん!?エーテル抜けたらその甲冑!唯の頑丈な重りじゃねぇか!?お前さんまで甲冑不調起こしてどうすんだよ!?』

『やかましいいいいい!!我輩だって貴様と共に吸血鬼共を薙ぎ払ったのを忘れるな!!連戦に次ぐ連戦で消耗しているのだ!飯を食えば再生する貴様の鎧と一緒にするな!』

『ならば尚更日々の整備が大事だろうが!お前さんともあろう者が武具の手入れを怠るとは何たる事か!』


 遂にサム達をほっぽり、お互いに向かい身振り手振りで喧嘩を始めてしまう。


『これは魔法の道具だぞ!修理にも保守点検にもいくらかかると思っているのだ!!そもそもだな!一番修理に金と時間がかかったのは貴様にやられた時だぞ!フォーゲルスバウムの至宝たるこの鎧があそこまで破壊されたのは我が家始まって以来の事態なのだぞ!ああ!あー!そう言えば貴様は関節駆動部を執拗に狙ったのだったな!その時の損傷で不具合が残ったのではないかぁ!?』


『だーーーーっつたら修理した魔導技師が悪いか料金をケチったお前さんが悪いだろうがぁ!!?そもそも!病み上がりの俺に対してだな!』


 ぎゃんぎゃんと子供の様に兜を突き合わせるジョーとハインツに呆れつつサムの義眼がぼうと輝きを強め。

 さっと影に隠される。

「っ!?」

 弾かれた様に空を見上げるサムの眼に太陽を背に日食の様な禍々しい影が広がる。


 逆光を受けながら巨大な黒い翼が羽ばたく、千切れた下半身からどす黒い血を降らしながら、照り付ける太陽の光に祝福されたかの様に悠然と青空を舞う蝙蝠のシルエット。


「…やはりかっ!」

 サムが鋭く呟き、義眼の瞳孔が何度も収縮し魔力光を発しながら影を追う。


「まったく君達は!大の大人が雁首そろえて情けない!!」

 エバが叫びながら翼を捻りながら急降下し、流れ出る血液を鞭のようにしならせ、ジョー達に静かに忍び寄っていた骸骨兵達を薙ぎ払う。


 触手の様に操られた血液の鞭が倒れ伏した骸骨兵の中に滑り込み青白い魔力光を吸い取っていく。


「自爆攻撃だよ!一体何をしている!これだからウチの男共は!」

『お前さんが飛んで来たのに気付いたからそうしてたんだよ。』

『うむ!こちらも満身創痍故に、合流を気取られたくなかったのだ!』


 漫才を見せれれている間もサムはエバの姿を燐光を漏らす義眼で捉え続けていた。

「サム…ここまでだ。これ以上は撤退が不可能になる。」

「わかっているよ先生。本命まで偵察できたんだ、これ以上は欲張らんよ。」

 サムとジャンはゆったりと踵を返し森の中に入っていく。

 わざとらしく足元に張られた糸を大げさな動作で踏み越える。

 その姿を魔人の三人は構えを解かず、何時でも飛びかかれる姿勢を維持したまま見送った。


「そうだ…カミラ。君を勧誘したのは本心だ。任務の成果は上々だったが、リクルートに失敗したのは痛かったな…」


 そう木の陰にジッと隠れていたカミラの方に声をかけ、今度こそ野盗になりすましていた得体のしれない間諜二人は森の中に消えていった。


「ジョー、ハインツ。君達追える?」

『勘弁していただきたい。パワーアシストを失った魔圧駆動甲冑で森林行軍など。』

『加えてご丁寧に罠をたくさん用意してましたって警告してくれてんだ。オリヴィアとカミラは守り切った。お飾りの首領も生け捕りだ。痛み分けって無理やり納得するのが賢いって。」

「わたしも無理だー。この身体で罠のある森はねー…腸とか枝にひっかけたら嫌だし…」


 オリヴィアとカミラが恐る恐る満身創痍の魔人三人組の元に歩み寄る。


「えっと…終わった…んですの?」


 そう震えながら訪ねるオリヴィアに三人は顔を見合わせると、ジョーが代表して答えた。


『あー…うん。その、お疲れ様でした…』


 そう言うやいなや。三人は同時に地面に突っ伏した。

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