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大太刀「烏丸」

 小烏造、と言われる太刀の造りがある。

 東方はヒノワの国。そこで多く使われる長細い片刃の曲刀。後に形や大きさを変え、ヒノワ刀やサムライソードと呼ばれる刀剣の源流となった太刀。

 その内、正式には鉾両刃造(きっさきもろはづくり)と呼ばれその名が示す通り切先部分が両刃となり刺突能力を高める工夫がなされいる。そうした造りの太刀の中、最も有名な小烏丸の名がいつしか造りの名となった。


 ジョーの所有する大太刀、烏丸もその内の一振りである。

 元々銘は無く由来も定かではないが、非常に頑強で切れ味鋭く、美しい名刀。

 小烏丸を始めとする一般的な小烏造の太刀より遥かに大振りな大太刀だったため手に入れた際にジョーが「小烏と言うには少々大柄だ。」と洒落も含めて銘を与えた。


 最早腰に佩く事もできず、背中に背負って持ち運ばなけばならないほど大きさのそれを。

『烏丸っ!』

 ずるりと、掌から取り出した。

『っかっ!』

 短い吐き捨てるような気合いの呼吸。大太刀烏丸を右片手に持ち、振り返り様に横一閃に叩きこむ。

「!?」

 左後方から飛びかかった野盗の胴体に刃が潜り込む。そのまま背骨に刀身を引っ掻け、真後ろから戦斧を振り下ろそうとしていたジャンに野盗の身体ごと叩きつける。

「この…っ!?」

 戦斧が魔法の道具だったのだろう。青白い魔力光を纏わせていた斧の軌道を無理やり変え、ぶつかってくる部下の屍とそのハラワタを食い破り迫る烏丸の白刃を防ぐ。

「おおっ!?」

 激しい魔力光が弾け、横一文字に切断された野盗の上半身がバラバラにはじけ飛び散らばる。

 ジャンはその閃光と血煙に紛れ、ギリギリで烏丸の両刃になっている切っ先を躱し転がりながら後退に成功する。

 そして最後に右後方から短槍を構え突っ込んできていた野盗が、その攻防で出来た隙を突く。

 狙いは大太刀を振り抜いて崩れた体勢、捻り無防備になった脇腹。

「…あ。」

 その鉾先が鎧の隙間を突こうと言うとき、がっしりと、ジョーの左手が短槍を掴んでいた。

『今のは惜しかったな』

 そのままパッと手を離すとつんのめった野盗の首を爪鎌が素早く刈り取った。


『厄介な二人が残っちまったか…だがまずは良し。』

 残ったサムとジャンが間合いを取り直す。数の優位が失われつつある事への焦りが隠し切れずその表情は苦々しく歪んでいる。

 対してジョーは愉快気に爪鎌と烏丸に乗った血脂を振り落とす。


『どうだ?不思議だろ?蛹櫃っていってな。蟲と宿主の力量にもよるが、なんでも取り込んで自らの力にできるし大きさと重さも無視して身体の中に入っていくんだ。』


『…蟲だけに…』というジョーの呟きが静寂の中に溶けて消える。場違いな洒落(ジョーク)が滑ったのでは断じてない。その能力のおぞましさにサムもジャンも硬直してしまっていた。

 別の空間から物体を離れた位置に呼び出す。別世界に物体を送り込む。そう言った魔法は非常に難易度が高いながらも存在する。

 だが、その場合も物体はこの世の何処か別の場所か一時的に開かれた別世界に存在している。

 断じて形や重量が変わりそして戻る訳ではない。

 ()()()()()()()()()()()()と言うのは現代の魔術師が血眼になって再現に取り組む古代魔法なのだ。

 創世の神話に語られ、理論上使える魔族が現存しているはず…そんなおとぎ話の親戚の様な不確かな理論と技術。

 そんなはずがない。はるか東方の蛮地に伝わる外法の甲冑に古代魔法が?それも同じような甲冑が多数存在すると?はったりだ、体内から巨大な刀を引き抜いて見せるだけなら、それこそ空間転移や次元移動を用いれば()()()()()事はできる。


 …だが。確かに東方の技術、魔法体系の情報は未だ少なく不正確な物も多い。もしもこいつが。威力偵察対象のこの男が。そんな能力をもっているのならば。あるいは本命であるノウムエバ以上に依頼主にとって価値のある情報かもしれない。

 サムはジョーを挟んで体面に立つジャンに目線を合わせる。

 ジャンは無言で、目を合わせながら軽く頷く。


『打ち合わせは終わったか?じゃあ死んでもらうぞ。』


 ジョーはサムを視界に収め、ジャンに背を向けたまま、ずるりと、不気味なまでにゆっくりと烏丸を構える。装甲骨蟲と烏丸の性能、そしてジョーと蟲の技量を持ってすれば自らを挟撃するこの手練れ二人を一息に仕留められる。そう確信して先ずは厄介な魔法の道具を使いこなす目の前のサムを一撃で。続いて振り返り後方のジャンを。飛びかかって来ていても逃げ出していても問題ない。最早如何なる魔法の道具を使われても結果は変わらない。


 俺の方がはるかに疾い。ジョーは決着をつけるべく深く踏み込むと、その姿は掻き消え疾風となってサムに迫る。


「ぬぅあああああああ!」

 ジャンの絶叫。戦斧に宿る魔力を全て解放している。

 構わない、何が起ころうとも先ずは眼前のサムを斬る。


「かかれっ!」

『おあっ!?なんだぁ!?』


 その状況を認識した時、ジョーは最初に無力化する対象を見誤った事を悟った。

 身を翻し、人食い森に転がり逃げたサムを飛び越え、複数の骸骨(スケルトン)兵がジョーに飛びかかる。


『こんのっ!雑魚共が!』


「丸一日城攻めの猶予があったのはこちらにとって僥倖だった。誘拐対象への暗示。戦車の配置。そして骸骨兵の仕込み。賊に気取られずこいつらを集結させて伏せておくのは少々手間だったぞ。」


 ジャンが戦斧を撫でると風化したかのようにボロボロと形を失い崩れていく。魔力の放出が特性の使い捨ての魔法の道具(マジックアイテム)だったのだろう。辛うじて残った木製の柄を放り投げ、森の中に退避したサムに並ぶ。


「戦斧に残った魔力は全て骨共に充填した。後は頼むぞ。」

「ああ、もうしばらくその性能を見せてもらうぞ。()()()()


 短剣を空手になったジャンに渡すとサムの義眼に魔力が集まり発光する。骸骨兵が一糸乱れぬ動きで連携し各々の武器を構えジョーに迫る。


『くそっ!便利過ぎるだろその義眼!』


 一気に形勢は逆転した。数十の骸骨兵がサムの義眼に操られ雪崩の様に押し寄せる。烏丸を一振りする度に複数の骸骨が両断されるが、上半身だけで、下半身だけで全身に纏わりついてくる。

 元より魔力で操られた死体だ。入力された魔法が単純な為、ある程度身体が破損してもすぐには止まらず、何より痛みや恐怖で怯まない。


『数日で随分森をうろついていると思っていたが…未熟っ!!』


 てっきりファータイルの戦線から流れてきたはぐれかと軽く考えていたが、サム達がばら撒いたものだったのか。或いはそこらをうろついていたから急遽計画に組み込んだのか。

 いずれにしても…

『不味い不味い不味い…!』

 凄まじい勢いで骸骨兵をなぎ倒しながら目に見えてジョーの動きが精彩を欠いていく。


「どうした?まだ奥の手を残しているのだろう?早く見せてくれ。それとも()()()()()()()?」


『…言ってくれる…』


 短く歯噛みした後、素早く後退し静かに構え直す。


『そこまで言うならご覧に入れよう…』


 覚悟を決めた様に半身になり総身に力を漲らせ。今まさに解放せんとした、その時。


「…っ!?」

「…なにっ!?」

『…は…?』


 ジョーの背後で城壁が派手に吹っ飛んだ。

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