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決戦準備と大人からのお説教

「それじゃあそっち頼むぜカミラ。」


 夜が明け、茹で戻した干し肉のスープで簡単な朝食を済ませたカミラとジョーは、城内の罠を整備していた。

 結局鳴子は作動せず、動物、魔物も含めて罠にかかった形跡もない。

 とは言え、日が昇り強力な魔物の活動が鈍くなった今、何時賊が攻めて来てもおかしくはない状況だ。

 その際、攻め込んだ賊が罠の存在に気づいていたとしても決して無駄にはならない。

 虎挟みを足に食い込ませて景気良く跳ね飛び回られる者はいないのだ。侵入方向を限定し他の罠の存在を警戒させるだけで十分。


 実際、見つけてくださいと言わんばかりに中途半端な位置に仕掛けたものもあった。無論これは殺傷力よりも心理的な効果を期待したものである。


「しかしお前さんがいて助かったよ。カミラ。」


 ジョーの言葉に背を向けて作業していたカミラの肩が微かに震える。


「別に…やらなきゃ死ぬから…出来るだけの事をやってるだけだ…。」


 強張った声で返すカミラに。「なんでぇまだそんなに不安か?」と能天気な声色で鳴子が切れていないか確認していく。


「言ったろ。何やら手練れが混じっているが賊は大体三十人前後、ケチな野盗にしちゃまずまずの規模だが俺とハインツ相手するにゃ人数も装備もまるで足りん。」


 城の二階、ちょうど城主の間の窓を見上げ、日光に目を細めながら。


「なんならあんな状態だがエバも農奴あがりのチンピラなんぞ一息でかみ殺すだろうよ。あぁ、窓の下には近づくな。今仕掛けをセットするからな。石降ってくるぞ。」


 と大きく危険地帯を指さしながら警告する。


「なにも皆殺しにする必要すら無い。頭と混ざってる()()()をやれば後は散り散りに逃げ出すよ。後はチャップマン卿の一行と合流だ。オリヴィアにはああ言ったが、襲撃は受けてる訳で心配ではあるんだよなぁ。」


 良く見ると薄く土を被せた板からロープが城に向け伸びている。板を踏みぬくと仕掛けが作動し窓から落下物を降らせる仕掛けのようだ。ジョーは慎重にロープに土をかけ隠蔽するとカミラに向き直る。


「お前さんのカミラって名前…名付けたのは…両親か?」


 少し控えめな声色のジョーの質問にカミラは「わからない…」とかぶりを振る。


「物心付いた時にはもう名乗ってたと思うから…多分そう…」


 沈んだ声で答えるカミラ。その様子に怖気る事無くジョーが「新しい友人には名前の謂れを聞く事にしてんだ。」と続ける。


「なんだよそれ…変な趣味だな…聞かれても学も親もねぇから答えられねぇよ。」

「だと思ったんでハインツとエバに聞いておいた。流石に名前の由来や意味は調べなきゃわからんってんで書庫から本引っ張って来てくれたんだけどよ。この城、書庫もあるんだぜ!」


 どんどん話が脱線するジョーに「いや結局なにが言いてーんだよ。」と若干の苛立ちを含んだ声で先を促す。


「カミラって名前の意味な。ざっくり気高いとか、高潔とか。あと自由だとさ。」

「なんだそれ一つもかすってない…」


 カミラの声からいよいよ隠し切れない不機嫌さが滲み出る。人の気も知らずに良く言う。

 人様の金や飯を奪って生きてきた。命令してくる大人はいなかったがそれをもって自由とは言えまい。

 現に人生で何一つ自分で選び取ったものなどない。


「ぴったりだろ。お前さん許せない相手には絶対従わない質の人間だ。だからオリヴィアとこの城にいる。」


 カミラの苛立ちもどこ吹く風と、ジョーは軽い口調で話し続ける。


「だからな自分の人生を信じてみろよ、今すぐは無理だろうけどな。お前さんはもう十分気高い。後は

 自由を手に入れるだけだ。それもすぐに手に入る。みてな。お前さん、もう幸せに成る事を自分で選んでるんだよ。」


「…意味が…意味がわからない…あんた大人なのに…なんでそんな夢みたいなこと…」


「甘い事言うなってか?それとも都合の良い事ばかり吹き込んでお前さんを騙そうとしてると?大人だからだよ。それを言ったらそっちこそ、その歳で人生悟った様な態度はやめなよ。どんどん老いちまうぞ。」


 ジョーは「よしよし…そろそろ切り上げよう」と罠の最終調整を終え。バキバキと音を立て背伸びをして見せると力強くカミラの肩を抱き共に城内に引き上げる様に促す。


「こらー!ちょっとオリヴィア達に渡す道具の準備手伝ってよー!こっちは脚がねーんだぞ!」

「お二人供お戻りになって!私こんなの触った事無いし…その…申し訳ないのですけど!エバ様が腸と背骨をクネクネ器用に動かして…その…キモイですわー!戻ってきてー!」


 二階から響く非難の声に苦笑いしつつも。

「これからわかる…俺達が証明する。自分も他人も信用できない人生は今日で終わりだ。なにも心配するな。」


 そう言ってジョーはカミラの肩を叩くと。騒がしい城に入っていった。かつて路地裏で蹲って聞いていた、民家から聞こえてくる忌まわしい団欒によく似た声が響く廊下へ。自分を誘って消えていく。


 しばし立ち竦んでから。

「信用…出来るかよ…。」

 カミラはそう呟き、ジョーの後を追った。

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