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2.

ほのぼのBL小説です!






俺は日向にキスをする。好きなのかは、正直、判らない。

日向も俺にキスをする。そして日向は俺を好きだと云う。






俺らの関係が微妙に変化してきたのは、ごくごく最近のこと。正確には去年末のクリスマスイヴのことだった。

「『恋人いない者同士』、クリパやろうぜ!」って俺の提案に乗った日向と、ふたりでパーティを催した。場所こそ俺の部屋だけど、ちゃんと飾りつけて、ドレスコードもしいた、本格的なクリパ。

前日にふたりで俺の部屋を飾りつけた。クリスマスツリーとクリスマスリースは勿論だけど、ちなみにクリスマスリースは俺のお手製だ、色とりどりの風船を大量に買ってきて部屋に浮かべてみた。風船たちは、天井付近でふわふわと漂い、なかなかメルヘンな世界観の部屋になった。

昨夜俺は当然、この飾りつけの中で眠ったわけだが、眠りにつくまでカラフルな風船をぼーっと眺めていたせいか、よくは覚えていないがなにやら外国の遊園地に迷いこむと云うなんともファンシーな夢を視てしまった。







それはともかく、パーティの時間になって、プレゼントや料理やケーキの箱を抱えてやってきた日向を見た俺は、思わず絶句した。ドレスコードの解釈を間違えたとしか、俺には思えない、奇妙な盛装をしていたからだ。

日向は、紺のブレザーを着ていた。そこまでは善いのだが、それに何故か赤地にピンクのドットの蝶ネクタイを合わせていた! 蝶ネクタイ! たしかに、パーティっぽくはある。けれども、なんだか、珍妙な印象だ。

おまけに、あろうことか、真ん丸の伊達眼鏡までかけている。

これは……!

俺にはもうそのイメージしか、浮かばなかった。

……江戸川コナン!

俺は噴き出しそうになるのを懸命に堪えた。ポーカーフェイスを必死で保ち、『コナンくんのコスプレ』にしか、見えない日向に声をかけた。

「やあ、日向。どうしたの? キマってるぢゃん?」

俺が云うと、日向はかおをほころばせた。そして応じる。

「そう? ありがとう。選ぶのに、母さんと二週間も街中歩き回ったんだ」

『総合プロデューサー』・蔦子さんを混じえて二週間かかって、この仕上がり! 俺に云わせれば、『黒川家は笑いのセンスの塊か?』と云ったところだ!

ドレスコードを提案したのは、日向からだった。









部屋の飾りつけ方相談したタイミングだったと思う。おもむろに日向が云いはじめたのだった。

「ねえ、拓ちゃん」

この頃はまだ、日向は俺を『拓ちゃん』とマトモに呼んでいたし、俺らはしごくありきたりの幼馴染同士でしか、なかった。

「ん?」

スケッチブックに向かって、クリスマスリースのデザイン画を描いていた俺は、手は休めず、生返事だけをした。

「あー、拓ちゃん、聞いてないるぅ」

「聞いているるぅ。なんだるぅ?」

日向に合わせて、『るぅ』を語尾につける。ただし、デザイン画を描くのはやめていない。

日向はそれが不満らしく、付け加えた。拗ねたひとりごとめいた調子で。

「こっちも、見ないしるぅ……」

仕方ないから手を止めて、俺はかおを上げ、日向を見た。

俺は日向を見た途端、ぎょっとした。

日向は俺をねめつけていた。

「吃驚したるぅ! そんなに、睨むことはないるぅ! ぶっちゃいくだるぅ」

俺が云うと、日向は途端に情けない表情かおになってしまった。

あ、やば……! 云いすぎたか?

これは盛大に来るぞ。

身構えていたのだけど、案に反して、日向は唇を噛んだ。

俯いている。

「るぅ……。ぶちゃいく……」

ショックを受けたように、日向がちいさな声で呟くので、オレの心はキリリと痛んだ。心なしか、日向の声が震えている気がして、俺は動揺した。

「日向? だいじょうぶ?」

俺は、動揺を抑え、できるだけなんでもない調子で訊いてみた。

「拓ちゃん……ほんとうに?」

日向は消え入りそうな声で云う。

「なにが?」

ほんとうに判らなくて、面食らいながら訊き返す。

「俺、ぶちゃいく?」

日向は仔猫のようなひとみで俺を見て、そう訊いた。

とりあえず、泣いては居ないようだ。

しかし、そんなに気にするほどの冗談だろうか? 日向だってひと並に、自分が綺麗な容姿をしている自覚くらい、あるだろうに。

不思議に思い、俺は云う。

「冗談だよ。気にしてんの?」

日向は吐息を洩らす。

「冗談? ほんとうに?」

「うん」

「なんだ、やめようよ! めちゃくちゃ、落ち込みかけたぢゃん!」

日向が抗議する。調子が戻り、俺は内心安堵しつつ謝る。

「ごめん、ごめんだるぅ。でも、そんなに気にするような冗談ぢゃないるぅ……」

それは俺の本心だった。

「赦するぅ。だけど、気になるるぅ。ほかならぬ、拓ちゃんが云えば」

「え、俺だったら気になるるぅ? なんで?」

何気なく訊くと、途端に日向はに見えて狼狽えた。

「な、なんでもないるぅ!」

そのビビットな反応に俺は吃驚した。

「なんだるぅ?」

「なんでもないって云ってるるぅ」

日向はあきらかに狼狽えているにも関わらず、なんでもないと云い張る。余りにも無理があり、追求したいのは山々だったが、先刻さっきの二の舞は避けなければならないので、俺は追求を控えた。





「それで先刻さっきは何を云いかけたるぅ?」

話題を変えると、日向はホッとした様子。判りやすい! 揶揄いたくなるが、我慢する。

「そうだるぅ! 思いついたんだるぅ、クリパの日、せっかくだから目一杯お洒落するルールにしないかるぅ?」

日向がを耀かせて云う。

「お洒落するるぅ?」

俺は訊き返す。

日向はくびを傷めるんぢゃないかと不安になるほどに首肯いた。

「そうだるぅ! 盛装だるぅ! えーと、ああ云うの、なんて云うっけ? ドレスなんちゃらるぅ」

「ドレスコード?」

俺は云う。日向はうれしそうにかおをほころばせた。

「そうるぅ、ドレスコードるぅ!」

「なるほどるぅ。ドレスコードかるぅ……善いかもら」

俺は『るぅ』語尾に飽きて、ことば遣いを変えてみた。

「そうら? 善いと思うら?」

日向はさすがのものだ。さっそく、『ら』語尾に対応してきた。

こう云うところ、俺らはほんとうに仲が善いと思わずには居られない。

「思うら。善いアイディアだら」

俺が云うと日向は微笑んだ。

先刻さっきまでのはいったい何だったんだろう?と思わずには居られないくらい、鮮やかに。

ちょっと見惚れてしまう類の鮮やかさ。

それを誤魔化すために、俺は云った。

「ぢゃあ、クリパはドレスコードをしくってことにするら!」





あのとき、あんなに張り切ってドレスコードを提案した日向。その、張本人である日向の盛装、日向の表現を借りるなら『目一杯のお洒落』をした結果が、江戸川コナンなのだ!

吃驚したどころではない。それこそ、俺は我がを疑いかけたし、内心では三度見くらいしてしまった!

しかも、蔦子さんまで巻き込んでこれとは。蔦子さんはいったい何を考えて、日向にこんな恰好をさせたのだろう。蔦子さんのことだから、どう見えるかは承知していた筈である。

一瞬俺は、『蔦子さんに試されているのか?』とさえ疑った。どう考えても、蔦子さんがお気に入りの自慢の息子に意地悪をする理由が思いつかなかったからだ。

悩んでいる俺を他所よそにに、日向は上機嫌で、料理を卓子テーブルに広げはじめた。

「母さんが、ローストチキンだけ焼いてくれたんだけど、あとは俺が頑張ったんだよ! ケーキは昨日、徹夜した」

日向が云う。真ん丸の伊達眼鏡が光ったような気がして、俺は思わず噴き出しかけた。意識を逸らすため、日向のかおから視線を外すと、そこにはなんと蝶ネクタイ!

蔦子さんよ、俺にどうしろと?

「おお、豪華だな。ケーキも見せてよ」

必死の努力で俺は平静を保った。

日向は俺が手を伸ばしかけたケーキの箱をすばやく持ち上げた。

「だーめ、あと。拓ちゃん、冷蔵庫借りるね?」

云うやいなや、俺の返事も待たず、日向はケーキの箱を持ったまま、立ち上がる。

「えー! いわい! 見たいわい!」

俺は、階下の冷蔵庫にケーキを入れに行こうと部屋を出て行きかけた日向に文句を云う。

「だめだわい」

振り返りもせず、云い残して日向は出て行った。







日向が階下したに行っている隙に俺は蔦子さんにLINEした。

『コナン、わざと?』

すぐに既読がついた。

『なんのこと?』

返信が来ると、俺は急いでスマホに打った。

『紺ブレに真ん丸眼鏡。おまけに蝶ネクタイ!』

今度も返信は即座に届く。

『日向に似合うでしょう?』

『だから、コナンでしょう、あれ』

『拓ちゃんへの銭別よ』

『どう云うこと?』

やりとりがテンポよく続いたが、そこまでで時間切れ。

階下したに行っていた日向が戻ってきた。

そうして、俺らは、クリパをはじめた。

乾杯の刹那、俺のスマホが震えていた。ちらりとをやると、蔦子さんからのLINEみたいだったが、かなりの長文なのか、待受画面に一瞬よぎる通知だけでは、把握できなかった。










日向が腕をふるったと云う料理は、蔦子さんが焼いたと云うローストチキンは除いたとしても、なかなかのものだった。

「美味しいにゅ! 日向、やるにゅ」

それで俺は、素直に日向を賞賛した。

「ありがとうにゅ!」

日向はうれしそうに微笑み、それから畏った礼をした。

そして、云う。

「拓ちゃんのリースもかなりのものにゅ。デザイン画のまんまにゅ」

俺が何かを作るのは、そう珍しいことではない。日向もそれはよく知っているはずで、いまさら目新しくもない筈だ。だから俺にはその褒め言葉は大して新鮮でもなかった。

だが……。日向の恰好が恰好なので、なんとなく面白く感じられた。

それはともかくとしても、日向にここまでの料理スキルが備わっているとは、思っても見なかったので、それは新鮮な発見だった。

実は、ちょっとだけ危惧していた部分もあったのだ。クリパの準備の分担を決めたのだが、すこし日向にばかり負担が行ってしまったような気が俺にはしていた。事前の色とりどりの風船を使った飾りつけはふたりで行う。クリスマスツリーは、俺のうちにもともとあるものを使う。俺が部屋を提供したからと云って、日向は、自分が料理全般とケーキを用意すると云い出した。比べて俺が担当したものは、デザイン画から製作までをやったとは云え、クリスマスリースのみ。

だけど、料理のクォリティーを見る限り、日向にはそう負担でもなかったかなと思えたため、俺はとりあえず安堵した。

とりわけ、チーズの効いたシーザーサラダが絶品で、俺は殆どひとりで食べていた。

「日向、シーザーサラダもうないのかにゅ?」

シーザーサラダはかなり大きめのサラダボウルにてんこ盛りだったのだが、余りに好みの味だったのであっという間に食べ尽くしてしまい、俺は日向に尋ねた。

「ないにゅ。て云うか、もうじゅうぶん食べたにゅ!」

日向は若干呆れた様子。

仕方なく俺は、蔦子さんが焼いたと云うローストチキンに手を伸ばした。





食事のあと、俺らはケーキの前に音楽を聴くことにした。曲のセレクトは日向にまかせることにする。

俺のうちには、音楽鑑賞室がある。もともとうちの両親と蔦子さんは音楽大学出身なのだ。蔦子さんはピアノ科で、俺の母親は声楽科、父親は指揮科だった。今でも、3人は音楽好きで、よくうちの音楽鑑賞室に集まっては、音楽演奏や鑑賞を愉しんでいる。噂では音楽鑑賞室を作るにあたっては、蔦子さんも出資したらしい。

俺らは、音楽鑑賞室に移動した。日向は俺の作ったクリスマスリースを気に入ったと見え、音楽鑑賞室に持ってきていた。音楽鑑賞室には、CDやLPが大量にあり、日向の選択にはかなり時間がかかった。

結局、日向が選びだしたのはクリスマスらしく、Aled Jonesだった。Aled Jonesは、20世紀に『100年にひとりのボーイソプラノ』ともてはやされた少年で、俺らの生まれるずっと前、1980年代後半くらいに活躍した歌手だ。有名なところでは、『SNOWMAN』のテーマソング『a walking in the air』を歌っている。今聴いても鳥肌モノの歌声で、大人たちの影響で、俺らもちいさな頃から訊いてきた。

Aled Jonesのベスト盤をステレオにセットし、再生する。大人たち自慢の壁に埋め込まれた巨大なスピーカーから豊かな音が溢れ出す。

日向がちいさく口ずさんでいる。俺も知らず声を合わせていた。日向と此処で過ごすのは、なんだか久しぶりだ。前はよく此処で過ごしていたものだが、いかんせん今は俺らは受験生なので、勉強することのほうが多くなっていた。久しぶりに、俺は寛いでいた。変声期前の3つの歌声が重なる。

しばらくそうしていた。ベスト盤が2巡目の半ばに差し掛かった辺りで、不意に日向が口を開いた。

「あのさ、拓ちゃん、」

「ん?」

「俺、拓ちゃんに話があるんだけど」


「俺も日向に話がある」

日向の真似をして真剣に云うと、日向は何故かかおを赤らめた。俺は怪訝に思い、日向の仔猫のようなひとみを覗き込む。

「な、に?」

「コナンくんだろ? それ」

「……コナンくん?」

「『江戸川コナン、探偵さ』。ほら、『名探偵コナン』の」

「うそ……!?」

呟いて絶句する日向。

本気で気づいていなかったのか!

可笑しくなりながら、俺は云う。

「ほんと」

いまや、可哀想な日向は耳まで朱に染めている。

「だって、母さん、『日向に似合ってる』って云ったよ!?」

「蔦子さんにはめられたんだよ」

「嘘だ、母さん、『告白だってうまく行く』って」

「告白って?」

何気なく訊き返した俺だったが、日向の過剰反応には度肝を抜かれた。

日向はまず、盛大に赤くなった。それから、ふうっと深呼吸をした。

「あのね、拓ちゃん、日向は拓ちゃんのことが好きなのです」

「え、」

「日向は拓ちゃんのことが好きなのです」

日向はまったく同じ口調でくり返す。

俺は混乱した!

「えっと、好き……? 幼なじみとして?」

「ちがうよ。幼なじみとして好きなのは勿論もちろんだけれど、それ以上に、俺は男として拓ちゃんのことを好きなのです!」

日向がしずかに、けれども奇妙にきっぱりと云う。

俺は吃驚しすぎて、ちょっとの間、フリーズした。

「日向は拓ちゃんとキスだってしたいし、拓ちゃんを抱くことも躊躇わない!」

どきりとした。

そりゃあ、多様性にダイバーシティな世の中である。男が男を抱くこともあると云うことくらいは、認識している。

だけど……、

拓ちゃんを抱くことも躊躇わない!

……!

内心でリフレインする。かああっと、頬が熱くなった。

「吃驚した?」

沈黙を破って日向が云い、俺は一瞬、すべてたちの悪いジョークなんぢゃないか、と訝しんだ。

「吃驚したよ、莫迦ばか。冗談なら」

「ぢゃない。冗談なんかぢゃない。ひとの一世一代の告白をなかったことにしないでよ、お願いだから」

悲鳴みたいな声で日向は云う。

どきり。心臓を鷲掴みにされたみたいに感じた。

俺は日向のふしぎな色合いの眸を覗き込んだ。そうして、このちいさな美しい少年を守りたいと思った。少なくとも泣かせたくないと。

それで俺はこう云った。

「俺、いま、お前を恋愛対象としてはみていないし、これからだって、好きになるかは判らない。それでも、介意かまわないなら、付き合ってもいいよ?」

日向はぱああっとかおを耀かせた。

「ありがとう、拓ちゃん! 大好き?」



日向が帰ってから、蔦子さんからのLINEを読んだ。


蔦子さんの独白


日向からの告白はどうだった? びっくりしたでしょう? あの子はずっと拓のことが好きだったのよ。

どう答えたかしら? 拒絶した? それとも受け入れた?


いずれにせよ、あなたに言っておくことがある。

日向は私のものよ。

今も昔もこれからもずっと永遠に私のものよ。

私のものよ。

日向をあんなに素直ないい子に育てあげたのは私だし。日向がどんなふうに感じるのか、どんなふうに喘ぐのか知ってるのは、私よ。私だけよ。

あなたは日向に告白されて、有頂天かもしれない。だけど、日向はとっくの昔から私のものよ。

もう一度言っておくわ。

日向は私のものよ。

日向は私のものよ。


動画も届いていた。

再生する。

日向が蔦子さんを抱いている動画。

「……!」

動転した俺は危うくiPhoneを取り落としそうになった。

どういうことだ、日向と蔦子さんが……?

どういうことだ……?



ほのぼのBL小説です!


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