3.民草の顔を見て安堵するシャノン伯爵令嬢
3.民草の顔を見て安堵するシャノン伯爵令嬢
数日、馬車に揺られて、私とメイドのアンは、ロベルタ公爵様が治める、グランハイム領までやって来た。
まだ領地に入ったばかりだというのに、農地は豊かで街道は整備されている。商業の馬車がたくさん行き来していて、衛兵も士気高く巡回していて、警備もしっかりしているように見えた。
自分が暮らしていたスフィア伯爵領とは雲泥の差だ。
「すごいですね。産業も農業もすごく発展しています。私たちのいた領地とは……、あっ、し、失礼しました! メイドのわたしごときが出過ぎたことを!」
「いいのよ」
私は優しく微笑む。
実家ではそういった批判の言葉を口にすることは、妹と両親は許さなかったみたいだけど、私は違う。
寛容というよりかは、誰であろうと、しっかりと他の人間の意見も耳に入れるべきだと思うからだ。そのうえで、取捨選択すればいい。何も、批判がすべて悪いわけではないのだ。
「アン。私あなたには感謝しているの。だから、お友達みたいな感じで、何でも話して欲しいわ」
「う、嬉しいです! あっ、でも、申し訳ありません。私はあくまでメイドです。シャノンお嬢様に仕えることこそ誇りです。なので、えっと、やっぱりメイドとして接してくださいませ」
「ま、そうね。私は貴族ですもの」
それはしょうがない。貴族には義務がある。
それは目の前の少女や、民草を労るという義務が。
実家の人たちのように、威張ることが仕事ではないのだけど……。
「でも、今言った通り、思ったことは言って欲しいの。それはひいては私のためになるのですから」
「お嬢様……。やっぱりあなたこそが聖女だと私には……。いえ、分かりました! 私の忠誠とともに世間話をさせて頂きます!」
「何それ!」
言いまわしが面白くて笑ってしまった。
「ところで、さきほどあなたは農業や産業が発展していると言ったけど……」
「あ、はい。違いましたか?」
「いいえ、正しいわ。でも一番大事なものを見落としている」
私は馬車の窓から外を見渡しながら言った。アンは首を傾げている。
「人々の表情よ。みんな柔らかい顔をしているわ」
「あっ、ほんとだ」
「人々が笑って暮らせるところなのね、ここは」
「さすがお嬢様です。私たちのような下々の者のことを真っ先に見て下さるなんて」
「だから、そんなことは当たり前……」
でもなかったか。
はぁ。もう戻ることは無いとは思うけど、スフィア伯爵領の領民たちに少しでもリンディや両親の温情が向きますように。
私は知らずのうちに目をつむり、祈りを捧げる。
そんな私の姿にアンはなぜか感動したように何も言わず、共に祈りを捧げてくれたのだった。
「これはすごい」
「は、はい。お嬢様」
まさにお城が目の前にあった。噂には聞いていたがこれほどとは思わなかった。
グランハイム領の中心に位置する城は余りに美しく、そして荘厳な建造物であった。
馬車がつくと、一人の執事が出迎えてくれた。
「ようこそ、おいでくださいました。シャロン=スフィア伯爵令嬢様。このたびは、我が主、ロベルタ=グランハイム公爵様の元へ嫁いで来ていただくことをご了承頂き、誠にありたく存じます。おっと申し遅れましたな、わたくしはこのグランハイム公爵家の家令をつとめるルーダと申します。気軽にルーダとお呼びください」
「ありがとう、ルーダさん。わざわざ出迎えて下さり、ありがとうございます」
「長旅でお疲れでしょう。本日はロベルタ公爵と少しの時間、お顔合わせをして頂き、そのあとはごゆっくりして頂くのが良いかと思うのですが、いかがでしょうか?」
「お心遣い感謝します。何分、公爵様のもとへ嫁いできたばかりで、右も左も分かりません。色々とご教示くださいませ」
私の言葉に、家令のルーダさんはなぜか、
「ほう……」
と、なぜか小さくつぶやかれて、
「ルーダ、で結構ですよ。奥様。奥様の方が身分が高いのですから。そのようにして頂いた方が周りにしめしもつきましょう」
「そうでしょうか? 長く家令をつとめられているルーダ様をそのように呼ぶのは、あまりよくないことのように思いますが」
「ほほう……。それは、周囲に対して印象が悪いということですかな?」
「え? いえいえ」
私はパタパタと手を振る。そんな大層なことを言っている訳じゃない。それに私はそんな大層な人間でもない。
「身分の違いより、領民にいかに貢献されているか、が大事だと思います。その点、私はまだ何も出来ていませんので……」
だから、
「本当はルーダ様、とお呼びすべきところです。……が、さすがにそれでは周囲に示しがつきませんので、ルーダさん、で妥協しようかと思ったのですが。どうですか?」
するとルーダさんは、目を柔らかく緩められて、
「ほっほっほ、これは参りましたな。儂が言ったことをそのまま言われては言い返せない。分かりました。しかし、ゆくゆくは呼び捨てにして頂けるよう、奥様には精進してもらいましょう」
「ふふふ、そうですね。精進しますね。ああ、でも私なんかが公爵様のお相手が務まることはないでしょう。たくさんの優れた御令嬢が務まらなかったと聞いておりますし」
「いやぁ、爺は、そんなことはないと思いますなぁ、今回は」
「へ? 今、なんと……」
「おっと、立ち話もなんですな。長旅を労わるつもりが長々と失礼しました。どうぞお部屋へご案内致しましょう」
「は、はぁ」
こうして、なぜか上機嫌の家令のルーダさんに連れられて、私は自分のために用意された部屋へと通されたのでした。
でも、その部屋を見たとたん、メイドのアンが、
「シャノンお嬢様! いくらなんでもこんな部屋では!」
そう叫び声じみた大声を上げたのでした。
なぜなら、その部屋はほこりにまみれ、泥がこびりつき、何年も使われていないことが分かるほど荒れ果てていたからです。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「シャノンはこの後一体どうなるのっ……!?」
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