2.一人きりの出発……のはずが
2.一人きりの出発……のはずが
突然、横暴領主の元へ嫁ぐように言われた私は、すぐに支度を整えた。
普通、こういうのは使用人のメイドがやってくれるものかもしれないが、追い出される私を手伝ってくれるようなメイドはいなかった。
でも、そのことを恨んだりするつもりはない。
私を手伝えば、そのメイドは妹や両親から目を付けられるかもしれない。
そんな子を生むくらいなら、私を手伝ってもらってほしくなんかなかった。
私の居場所を奪った彼女たちだったかもしれないけれど、そう仕向けたのは私の家族なのだ。
そう思えば、メイドたちを恨む気に、私はなれなかったのである。
あれだけのことをされてきて、ちょっとお人よし過ぎるかもしれないが、そんな気になれないのだから仕方ない。
「やっぱり誰も見送りにも来てくれないか」
昨日、独りで泣いて既に涙は枯れはてていて、今更涙を流したりはしない。
ただ、乾ききったと思った心が、まだギュッと痛いような気がした。
妹や両親がいくら私を嫌っていても、私は完全に彼らを嫌いになれないのだ。
「そのことが自分を苦しめるのにね」
自嘲するけれども、それも仕方ないことだと割り切る。
どんな仕打ちをされても、やっぱりあの人たちは家族だった。
彼らがそう思ってなくても、私が彼らを嫌う理由にはならない。
そんな私の心の柔らかい部分が、少し痛かったのだろう。でも、
「いつまでもこうしてはいられないわね」
私は用意された馬車へ乗り込んだ。
誰も見送る者がいない旅路へと向かおうとする。
だけどその時。
「お嬢様!」
一人のメイドが息を切らせて駆けつけてきた。
私は驚く。いや、怒ったかもしれない。
「馬鹿ね、どうして来たの? アン」
第一声にそう言う。
そして、
「今ならまだ間に合うわ。周りのメイドに見られないうちに。私の妹や両親に見つからないうちに戻りなさい。じゃないとあなたの居場所すらなくなってしまうわ」
私と同じように。
でも、そんな言葉に、そのメイドは言う。
「お嬢様! お嬢様にお礼を言いたくて」
「お礼?」
私は首をかしげる。
なんのことかと思って。
「私は平民の出身です。なのにお嬢様は分け隔てなく接してくださった。他の方々が私たちを顎でお使いになる中、お嬢様だけが私たちを人として見て下さいました。それだけじゃなくて、私がミスしても怒るどころか、かばってくれたりもしました! そんなお優しいお嬢様が、こんなひどい仕打ちを受けるなんておかしいです!」
「アン、ありがとう」
私はお礼を言う。
でも、彼女のためを思って、すぐに話を切り替えた。
私がどれだけ彼女の気持ちが嬉しいかを伝えるよりも、アンの今後のほうが大事だから。
「でも、本当に戻りなさい。出て行く私なんかに構って、あなたの立場が悪くなってはいけないわ。そんなことになったら、私が向こうでずっとあなたのことを心配するはめになるでしょう?」
それは心から出た言葉だった。
私のために、他人が傷つくなんて耐えられない。
それに、アンは唯一、私を慕ってくれたメイドだった。
表立っては他のメイドと同じ態度だったかもしれないが、それを私は責める気にはなれなかった。
時々、かけてくれる優しい言葉や、真冬の日に冷たい水しか持ってきてくれないメイドたちに隠れて、そっと温かいお湯をもってきてくれたりした。
それだけで十分、私は癒されたのだ。だから、
「さあ、早く戻りなさい、アン。私なんか放っておきなさい。それよりも、リンディや父や母に尽くしてあげて。決して悪い人たちではないのよ」
「こんな時でもお嬢様はお優しい。いえ、お優しすぎる」
「そんなことはないわ。家族の幸せを祈るのは普通のことでしょう」
「そうです。でもお嬢様にこそ、その幸せが下りるべき方のはずです!」
「アン……」
「だから付いて行きます!!」
「え?」
今、この子はなんと?
「気持ちは嬉しいけど、絶対にやめておいたほうがいいわ。だって……」
「もう辞表も出してきました!」
「え?」
私は絶句してから、
「ええええええええええええええええええええ!?」
久しぶりに大きな声を出してしまう。
「ちょ! なんでそんな馬鹿なことを!?」
「お嬢様に尽くしたいからです! いえ、むしろお嬢様以外に仕えるなんて考えられません。妹様がいかに癒しの力を持つ聖女であろうと、お嬢様はそれ以上の癒しを私に与えてくれたんです!」
「わ、私が癒しを?」
「そうです! 真の聖女はシャノン様です! 間違いないです!」
変に言い切られてしまった。
というか、私に聖女だなんて大層な肩書きは全然いらない。普通に暮らしたかっただけだ。
だが、それはともかく、目の前の少女が私を慕ってついてきたいという気持ちが本物であることはよく分かった。
これからどんな所に行くのか。
それがどれだけ無謀なことなのか。
辞表も既に出したという。
経緯はどうあれ、私の行動が彼女にそうさせたのだ。
「ある意味、私のせい、よね……」
「! お嬢様、そういうつもりではっ……。お嬢様の優しさにつけこむようなつもりは決して」
「分かっているわ。そんな風に思うわけないでしょう?」
「あっ、そうですね。だってシャノンお嬢様ですもんね」
「なに、それ」
プッ、と私の唇がほころんだ。
今からこの子を屋敷に帰すことはできなくはない。でもそれはきっと、この子の幸福にはならないだろう。
なら、私がなんとかしてあげよう。
そう思う。
こういう中途半端な優しさが一番いけないのだと分かりつつも、見捨てることなんてできない。
私はきっと、公爵様にひどい目にあわされるけど、メイドの一人くらいなら、私が死ぬ気で頼めば、他の仕事を斡旋してくださるだろう。
それに、
「正直、私に付いて来てくれる人が一人でもいてくれて嬉しいのよ。ありがとう、アン」
「そんな! 私が絶対に付いて行きたかったんです! お嬢様! ああ、ありがとうございます!」
何だかお礼の言い合いになってしまった。
大丈夫、あなた一人くらいなら、私がなんとかしてみせるからね。
「? お嬢様?」
「何でもないわ。じゃあ乗って、アン。公爵家へ参りましょう」
「はい、お嬢様!」
用意された馬車へアンが乗り込む。
こうして、思わぬ同行者が増えた私は、馬車に揺られて公爵家へと向かったのでした。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「シャノンとアンはこの後一体どうなるのっ……!?」
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