地味なのは外見だけだったようで
体育館裏の3段ほどの低い階段部分。そこに、4人の男子生徒が集まっていた。
彼らは4人全員が髪を染め、各々ピアスやネックレスを身に着けている。良く言えばあか抜けている、悪く言えばチャラけている生徒達だった。
「でさ~この前の合コンで会った女子なんだけどさ~」
「ああ、あのお嬢様学校の?」
「そそ、いやぁあれはソートー遊んでるわ。ま、お嬢様学校のくせに合コンなんて参加してる時点でお察しだけどさぁ」
「な~んだ。じゃあ賭けになんねーな~」
「だな。本物のお嬢様じゃないとオトし甲斐がないわ」
軽い雰囲気で、なかなかに下世話な話をする4人。
彼らの言う“賭け”とは、1人の女子にターゲットを絞り、4人の誰が先にオトすかを競うという、かなりゲスいものだった。
この4人は全員自分が“イケてる男子”だと自覚して(あるいは自惚れて)おり、より多くの女子をオトすことでそのことを再確認し、自己肯定感を高めている人種だった。そんな彼らに泣かされた女子も少なからずおり、この学校の一部の女子からは“ヤリチン四天王”とか呼ばれて蛇蝎のごとく嫌われている。だが、彼らにとってその呼称は不名誉なものではない。むしろ、ある種の称号として誇ってすらいた。
「やっぱ他校の女子は難しいな~接点持つのが大変だし、接点持てる女子は大体肉食だし」
「でも、この学校の女子にはもうだいぶ警戒されてっからなぁ」
「だな~」
昼食の惣菜パンをかじりながらそんなことを言っていた4人だが、不意に1人の生徒が何かを思い付いた顔をした
「いや、待てよ? ぼっちの女子狙えば大丈夫じゃね?」
「ぼっちの? ああ、まあ女子のコミュニティーから外れてる奴なら、俺らのことも知らんかもしれんけど……」
「あ、それならうちのクラスにちょうどいいのがいるぜ?」
「マジで?」
「ああ、田沼……なんだっけ? まあ、下の名前は分かんないけど、これがまあ絵に描いたような地味子でさぁ。信じられるか? 今どきゴリゴリの三つ編み眼鏡だぜ?」
「マジかよ!」
「あ、オレもそれ見たことあるわ。あれだろ? 少し身長低めのもさっとした」
「たぶんそれ。もう見るからに陰キャって感じの」
この場にいない女子のことでひとしきり盛り上がる面々。やがて、全会一致で次のターゲットはその田沼という女生徒に決まった。
「んじゃあ、提案者の俺が一番手いかせてもらうぜ?」
「ああ、いいぜ?」
「それじゃ、明日以降の順番はじゃんけんで決めるか~」
「へっ、勝手にやってな。お前らに順番なんて回さんからよ。今日の放課後だけで、俺がバッチリ決めてやるぜ!」
「言ってろ」
「無理やり押し倒したりはすんなよ~?」
仲間達の声を受けながら、一番手に名乗りを上げた男子が、意気揚々とその場を後にする。
その頭には、もう次なる獲物をどう料理するかという考えしかなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「田沼さん、今日一緒に帰らない?」
爽やかな笑みを浮かべて声を掛けた俺は、近くで改めて見たその女の地味っぷりに内心顔をしかめる。
なんというか、見るからに俺ら陽キャとは別の人種だ。スカート丈は校則通り、化粧っ気もなければ飾りっ気もない。顔も体も全然パッとしないし、正直女としての魅力を欠片も感じない。
きっと、真面目さだけを売りにしてるタイプの人間なのだろう。“賭け”の対象としてはいいんだろうが、普段もっとレベルの高い女子を相手にしてる俺からすると、正直愛想よく振る舞うのも結構な苦痛だった。
「坂崎くん……急にどうしたの?」
「ああ、いや。実は、前から田沼さんとはもっと話をしてみたいと思っててね。どうかな?」
しかし、そんな内心は一切表に出さず、俺は無邪気っぽい笑みを浮かべて誘う。
視界の端で同じクラスの女子が少し険のある目をしているのが見えたが、そいつらも特に何も言わずに教室を出て行く。どうやらこいつがぼっちなのは確定のようだ。
「……まあ、いいけど」
「ホントに? やった!」
中途半端に頷く田沼に、俺は大袈裟に喜んでみせる。まったく、チョロいもんだ。同じクラスの女子から庇ってももらえない哀れな羊ちゃん。こりゃ、ホントに今日中に終わるかもしれないな。
「でも……」
「ん? なに?」
「わたし、今日はジム行ってそのままバイトだけど……それでもいい?」
「……あ、ああ、いいよ」
この地味子から“ジム”という単語が飛び出たことに一瞬面食らうも、俺はすぐに立ち直って頷く。
こんな奴でも体を鍛えたりはするらしい。だが、よく考えればこれは好都合だ。
幸い体力には自信がある。ジムでかっこいいところを見せて、バイト終わりを狙って差し入れでも持って行けば一発だろう。
「あと、わたしバイクだけど大丈夫?」
「!!? ……だ、大丈夫」
続けて飛び出した更に予想外の単語に、俺は若干頬を引き攣らせながらも頷いた。の、だが……
「……これ?」
「? うん」
「……」
いざ駐車場で田沼のバイクを目にして、俺は流石に絶句した。
艶のある漆黒のボディ。重厚感のある、流麗ながらも威圧的なフォルム。なぜか、自然と脳裏に“モンスターマシン”という単語が浮かんだ。
正直言おう。メチャクチャかっけぇ。クッッッッソカッケェ。
バイクに全然詳しくない俺でも、なんだかそそられるものがある。
というか、今更だがこれ明らかに原付じゃないよな? 大型……は、年齢的に無理だろうから、普通二輪か? にしてはゴツいが。
いや、うん。実は以前から噂では聞いてた。やたらとイカついバイクで登下校してる女生徒がいるっていうのは。
メットで顔が分からない上、駐車場がほとんど教師しか行かない位置にあるので、その正体は謎だったんだが……まさかのお前だったのかよ!!
「どうしたの? 乗りなよ」
シートの下から取り出したメットをこちらに差し出しながら、親指でくいっと後ろを指差す田沼。
……顔がフルフェイスのメットで隠れてるせいか、やたらとかっこよく見える。というか、男なら誰しも憧れるシチュエーションじゃないか? もちろん、やられる方ではなくやる方で。
「……おう」
なんだかプライドを傷付けられた気分になりながら、大人しく田沼の後ろにまたがる。周囲に生徒がいないのは幸いか。こんな姿、知り合いに見られたら間違いなく黒歴史だ。……いやまあ、見られたところでメットで顔は分からないだろうが。
「それじゃあ、行くよ?」
「……うん」
「危ないから、わたしの腰を掴んで」
「……分かった」
続く屈辱的な状況に、俺は心が軋むのを感じながら、田沼の腰に腕を回した。
いや、別にこの程度で照れるほどガキじゃない。ガキじゃない、が……いざやってみると、全く別の部分で俺は大いに動揺した。
(え? なんか硬くない? ……腹筋、ヤバくない?)
そう、手に触れる田沼の腹筋が……ちょっと、尋常じゃない硬さなのだ。
(あれ? ジムでかっこいいところ見せるって……無理くね?)
風切るバイクの速さに若干ビビりながらも、俺は自信というものが少しずつ削られていくのを感じていた。
……うん。感じていた。感じていたよ? でもさぁ、流石にこれはなくない!?
「はい、もうワンセットぉ!」
「シッ! フゥッ!」
ジム内に、野太い男の掛け声と田沼の鋭い呼吸音。そして、破裂音にも似た打撃音が響く。
うん……いや、まさかだよね。まさか、ジムはジムでも……キックボクシングジムだとは思わないよね!!
学校の不良連中が小さくなって逃げ出しそうな、なかなかに凶暴な顔と体をした男達の中で、物怖じした様子もなくスパーリングを行う田沼。
その様子を、俺は壁際にあるベンチに座って眺めていた。うん……もうね、いいところ見せるとか考えらんないよね。空気に徹するのが精一杯だよね。マジで。
「おう! にいちゃん、アンタぁやらんのか?」
「い、いえ! ボクはその、見学なので……」
言ってるそばから顔面凶器なおっさんに話し掛けられ、俺は愛想笑いを浮かべる。……我ながらダセェな、今の俺。
「ん? ……ああ、みかちゃんか。あの子ぁ筋がいいんだよなぁ」
俺の視線を追ったおっさんが、納得したように頷く。……ってか、あいつ“みか”って名前なのか。初めて知ったぞ。
「うちのボスも、本格的にそっちの道を考えたらどうかって言ってんだけどなぁ……まあ、夢があるってんならしょうがねぇよなぁ」
「は、はぁ……」
おっさんが、ただでさえ凶悪な顔を更に凶悪にゆがめながら顎を撫でるのを、俺は引き攣り笑いを浮かべながら受け流す。
そうこうしている内に、スパーリングを終えたらしい田沼が汗を拭きながらこちらにやって来た。
「お~う、みかちゃん。相変わらずいいパンチしてるねぇ」
「塚地のおじさん……ありがとう。見ててくれたの?」
「あぁいや、なんか見慣れんにいちゃんがいたんでなぁ。こん子は彼氏かなんかかね?」
「ううん、ただのクラスメート」
「ほ~う、そうか。まあみかちゃんの彼氏になるにゃ、だ~いぶ筋肉が足りんなぁ。ハッハッハ」
豪快に笑いながら、バンバンと俺の肩を叩くおっさん。なんかいきなり男としてのプライドを削られる評価を下された気がするが、おっさんの強面と田沼のみっちりと鍛えられた腹筋や二の腕を前にしては何も言えない。愛想笑いを浮かべながら身を縮めるしかない。
……なんか、さっきからホンットにダセェな、俺。
「それじゃあ、わたしはそろそろ」
「ん? もう行くんか?」
「うん、バイトあるから」
「そ~か。頑張って来ぃや!」
笑いながら去っていくおっさん。それを会釈をしながら見送ると、田沼はこちらを見た。
「えっと、その……ほったらかしにしちゃったけど、大丈夫だった?」
「あ、うーん。全然平気ー」
いい加減愛想笑いを維持するのもつらくなってきたが、ここで余裕のない姿を見せたら本当に負けを認めることになる気がしたので、なんとか気持ちを立て直して笑みを浮かべる。
「田沼さんすごいね。見ててほれぼれしちゃったよ」
「そう? ありがとう」
こいつをオトすという当初の目的を思い出し、精一杯のリップサービスをするも、反応は薄い。照れも喜びも見せないその態度に、俺のプライドが傷付けられる。
(くそっ、俺としたことが……まだ動揺してんのか? こんなもさい女1人オトせないとか、ありえないだろ!)
まだだ。まだ、大丈夫だ。この後行くバイト先で、俺のイケメンっぷりを披露してやる。俺が本気出せば、こんな女オトせないわけがない!
「それじゃあ、バイトに行くんだけど……坂崎くんも来るの?」
「よかったら一緒に行きたいな。田沼さんがどんな風に働いてるのか、見てみたいし」
「そう……」
ふんっ、そんな素っ気ない態度取ってられるのも今の内だぜ。見てろ、ここから本気を出してやるからよぉ……
と、意気込んだはいいものの、やっぱりそのバイト先に向かうにも田沼の後ろにタンデムする必要があるわけで……またしてもゴリゴリと自尊心が削られるのを感じながら、俺は田沼のバイト先に向かった。の、だが……
「ヒェーイ! みんなぁ、盛り上がってるかぁ~い!!」
「「「「「うわぁぁああぁぁぁ!!!」」」」」
「センキュー! 今日も最高のリズム、刻んでいくZE!!」
「「「「「M・I・K・A! M・I・K・A!」」」」」
いや、なんぞこれ。もう一回言う。なんぞこれ?
田沼に連れられてきたのは、繁華街の裏路地にある一軒のクラブだった。
最初はホールの手伝いのバイトか何かかと思ったのだが……バックヤードに引っ込んだ田沼が再び姿を現した時、その身に着けていたのは店員の制服ではなく、ジーンズとシャツ。頭にはキャップ。
そのままなんか音響機材が並んでいるステージ? みたいなところに上ると、それまでDJをしていた緑髪グラサンの男とハイタッチを交わし、その役を引き継いだのだ。
「まぁ~だまだまだまだ盛り上がっていくぜぇ~~!!」
いや、お前誰だよ。なにそのテンション。もういろんな感情が混ざり合って逆に真顔になるわ。
つーか、もう帰りたい。切実に。物凄く身の置き所がないんだよ。ついていけないよこのノリ。
実は、以前にもこの店には一度来たことがあった。
いつもの3人と一緒に、なんかクラブ経験者とかカッコイイ気がして。しかし、そんな軽い気持ちではこの場のノリと熱気に付いて行けず……まあ、認めるのは癪だが、しっぽ巻いて逃げ出したのだ。端的に言えば。
だが、今あいつはそんな狂熱に満たされた空間で、全く物怖じせず、それどころかその中心で熱を煽り立てている。その姿が、あまりにもかっこよ過ぎて……俺は、もうあいつのことを地味子なんて呼べなくなってしまっていた。
「あ、坂崎くん……どう? 楽しめてる?」
目立たないようひたすら隅の方で、熱狂する人々を他人事のように眺めていたら、いつの間にか近くに田沼が来ていた。見れば、先程まで田沼が立っていた場所には金髪を逆立てたピアスだらけの男が立っている。どうやら俺が現実逃避してる間にDJ役を交代したらしい。
「あ、おお……まあまあ?」
正直、異次元過ぎて楽しむも何もなかったが、なんとか半笑いでそう告げる。
「そう、よかった」
安心したように肩を竦める田沼。そこへ、縦にも横にもデカい金髪碧眼の外人が声を掛けてきた。
「Hey Mika! ××××,××××××××?」
何、語!? 最初の呼び掛け以外は全く意味不明な言語を話す外人に、俺は目を剥く。が……
「Kaiser! ×××××××!」
お前もかっ!!
俺でもちょっと引いてしまいそうな巨漢の外国人を相手に普通に会話をし始めた田沼に、俺はもう白目だった。
完全に他人のフリをしてやり過ごそうとする俺だったが、しかしその外国人は急にこっちを向いたかと思うと、俺の方を指差しながら田沼に何かを言う。それに田沼も何かを答え……なぜか、その外人は俺の顔を見て鼻で笑った。え、なんでいきなりバカにされた?
「××××! ××××××!」
しかし、田沼が少しむっとした様子で何かを言うと、その外人は少しバツが悪そうな顔をして去って行った。その背を見送り、田沼が俺に話し掛けてくる。
「なんかごめんね? 気を悪くした?」
「いや……それより、今の何語?」
「ん? ドイツ語。まあ片言だけど」
「な、なんでドイツ語なんかしゃべれんの?」
事も無げに言う田沼に、俺は頬を引き攣らせながらそう尋ねた。すると、田沼は少し照れくさそうに視線を逸らしながら言う。
「ああ……わたし、将来はアメリカやヨーロッパに渡って、本格的にプロのDJを目指したいと思ってるの。そのために、ね……」
「プロのDJ……」
まさかの夢に驚きつつ、しかしそれなら尚更その地味な格好はやめた方がいいのではないか……と、思いながらも口には出さなかった俺だが、田沼は見透かしたように苦笑いを浮かべる。
「似合わないと思う?」
「ああ、いや……」
「ううん、自分で分かってるから大丈夫。それに、この格好はインパクト狙いであえてやってることだから……わたしはどうしたって地味な容姿だし、そこを武器にしてギャップを出して行った方がいいかなって」
「……なるほど?」
たしかに、やぼったい三つ編み眼鏡の女子高生がクラブのDJをやるという絵面のインパクトは、なかなか凄まじいものがあった。
自らの容姿の地味さすら逆に武器にするその強かさ、自分の夢を真っ直ぐに語るその姿は……もはや敗北感すら湧かないほどにかっこよくて。俺は、なんだか無性に自分がみじめになった。
「えっと、それじゃあもう時間も時間だし……帰る?」
「……そうだね」
そんな俺の雰囲気に気付いたのか、田沼が気遣う素振りを見せる。それに対して、俺はもう取り繕うことも出来ずに頷いた。
「本当にいいの? 送ってくけど」
「いや、いいよ。ありがとう」
店の外に出ると、バイクに跨った田沼がそう訊いてくるが、俺は丁重に断る。流石にこの上タンデムで送ってもらうのは、俺の自尊心的に無理だった。
「そう? それじゃあ……また明日ね」
「うん」
「今日は楽しかったよ、ありがと」
そうリップサービスを残し、田沼はピッと右手を上げる。そして、そのまま颯爽と夜の街に消えていった。
「……かっけぇなぁ」
その背を見送り、自然と感嘆の声を漏らす。賑やかな夜の街に1人取り残された俺は、自分が酷くちっぽけな存在に感じた。
田沼と過ごした数時間は、いっそ革命的なまでのショックを俺にもたらした。この数時間で、俺は今まで自分が“かっこいい”と思っていたもの、その全てがまやかしだったと思うほどに、価値観が大きく塗り替えられていたのだ。
ふと近くの店の窓ガラスに映る自分を見てみれば、そこにはガワだけイキったダサい自分がいて。
「……帰るか」
物凄く身の置き所がない感覚に襲われた俺は、人目を避けるようにそそくさと家路に就くのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お、おい……お前、どうしたんだよ?」
翌日、いつもの体育館裏に現れた坂崎少年の姿に、“ヤリチン四天王”の他の3人は大いに戸惑った。なぜなら、つい昨日まで明るい金髪だった彼の髪の毛は黒一色に染められ、両耳に着けていたピアスも首から下げていたアクセサリーも全て取り外されていたからだ。
「ど、どうした? 親に叱られでもしたのか?」
「いや……」
ヤンキーが突然就活でも始めたのかと思うようなその変貌っぷりに、3人は驚愕と心配が半々の目を向ける。しかし、坂崎少年はいつになく落ち着いた様子で首を振ると、どこか達観した面持ちで階段に腰を下ろした。
「……ま、ちょっと心境の変化があったってとこだ」
「なんだそれ……あ、そう言えばあれはどうなったんだ? 賭けの話は?」
1人がそう言った瞬間、坂崎少年はピクリと体を揺らす。その反応を見て、3人は即座にピンと来た。
「え、なにお前。まさか、地味子の興味引くためにキャラ変したの?」
「おいお~い、マジかよぉ。女の側に合わすとか、ダッセェなぁ」
「だな。ありのままの自分でオトさなきゃ意味ないぜ?」
途端にいつものテンションに戻り、ここぞとばかりに坂崎少年を笑う3人。
「よ~っし、じゃあここは、俺がひとつ手本ってもんを見せてやろうかな~?」
「あ、ずりーぞ! 次はオレが行くつもりだったのに!」
「まあまあ、早い者勝ちってことで行けばいいだろ?」
自分達を見る坂崎少年の、どこか憐れむような目に気付かないまま、3人は誰がターゲットをオトすかで盛り上がる。そして、意気揚々と彼女の攻略に乗り出し……数日後、全員が坂崎少年と同じ道を辿るのだった。
「……なあ、俺らってなんであんなにイキってたんだろうな」
「やめろ、言うな」
「思い出させないでくれ頼むから」
「もはや完全に黒歴史だわ……」
そうして全員チャラけた格好をやめ、すっかり大人しくなった彼らは、女子達の間で“フニャチン四天王”と呼ばれることとなるのだった。