第八話 王宮の知らせ
俺は今、冒険者ギルドにいる。なぜここにいるかというと、旅館経営をするにあたって、冒険者ギルドに開業の申請を出さなければいけないからだ。その手続きをする為、アイルの元へやってきていた。
「では、申請手続きを行いますので、こちらの用紙に記入お願いします」
アイルから手続きの書類を受け取り、俺はそれに記入し始めた。記入内容は、何をするのか、その目的、売上に関する物だった。俺はなるべく丁寧に詳しく記入をしたが、最後の売上の部分で手が止まってしまった。そこに記載されていた文に疑問を感じたからだ。
売上金は三十日に一度、冒険者ギルドに報告をすること。1億ダンデル以上の売上金に関しては、処罰の対象になる為、商売・取引を即刻中止すること。中止しない場合は、ギルドカードの剥奪もしくは国外追放の対象になりますので、ご注意下さいと記されていた。
「最後の文だが…… これはどういう意味なんだ? 」
「これは、三十日に一度、この冒険者ギルドに売上金の報告をしていただきます。通常は報告が済んでいれば、何もお咎めは無いのですが、1億ダンデル以上の売上になると、国に報告をしなければいけないという決まりなのです。もし、国に報告をしても、商売や取引をすぐに中止し、罰則金を収めれば、なんの問題もありませんので」
「なんで1億ダンデル以上は罰則なんだ? 」
「これはオレイン王子がお決めになった事なのです。 恐らく、これ以上貴族を増やさないようにするためかと思われます」
「今まで、罰則を受けたものはいるのか? 」
「商売をされている方のほとんどは、仕事量を調節されているので、繁盛しているところでも、1億を超えないようにしているようですね。 ですので、私の知る限りでは今の所罰則を受けたものはいませんね」
「そうなのか…… まぁ、おれがそんなに稼げるわけないしな」
「他に聞きたいことはございますか? 」
「いや、大丈夫だ」
「では、最後に拇印を頂いて終了となります」
俺は手続き用紙に拇印を押した。これで、手続きは全て終了した。これからはやっと仕事が始められるのだ。あとは、旅館が完成するのを待つのみだ。しかし、先程のアイルの話にもあったが、この国の王子様には目を付けられないよう、気をつけなくてはいけない存在であると感じた。俺もこの国の一人ではあるが、できれば関わりたくないと思ってしまった。会ったこともない、顔も知らない王子の話をするのは失礼かもしれないが……。
冒険者ギルドで手続きを終えた後は、寄るところがあった。それは、アルバさんのお店だ。奥さん(エミル・スコット)にも直接会って、旅館経営の申請、工事が順調に進んでいる事を報告しようと思ったからだ。
お店に到着すると、エミルさんが俺に気づいて近寄ってきた。しかし、俺はどこか違和感を覚えた。この前会ったときより元気がないように思えたからだ。
「おいでやす。 今日はどうなされたのかしら? 」
「エミルさんに報告しようと思いまして、寄っただけなんですが……。 その…… 唐突で、失礼かもしれないですが、なにかありましたか? 顔色も良くないように思えたので」
「その…… 」
エミルさんは何かを言いかけて止めた。余程、何かに悩んでいるのだろう。
「その…… 言いにくいことであれば、無理にとは言わないので! おれに出来ることがあれば、協力したいと思っただけなので…… 」
「ごめんなさい。 こんなこと言っていいのか分からなくて……。 主人と息子とは話をしているのだけれど、どうにもならなくて…… 」
「おれで良ければ! 聞かせて下さい」
「昨日、王宮から知らせの文書が届いていたの。 見た方が早いと思うわ」
エミルさんが一通の文書を俺に見せてくれた。それは正しく、王宮の刻印がされていた。
【アルバ・スコット並びにその家族に申し渡す。
収益を不当に報告し、またその利益を我が物にしようと企んでいるとの密告があった。その情報が正しければ、直ちに全ての取引は中止し、王宮にて罰則金(5億ダンデル)を支払うこと。期日は10日以内とする。また、この約束が果たされない場合、アルバ・スコット並びにその家族は査問会議にかけられる。罪を公にし、償わなければ、国外追放も検討する事とする】
俺はこの内容に悪意しか感じ取れなかった。5億ダンデルもの大金が10日で払えるわけが無いのだ。しかも、貴族でもない普通の人が! こんなの密告だなんておかしな話だ。嘘に決まっている。いや、嘘だと思いたい。あのアルバさんが! 俺の支払いだって、断った男だぞ。こんな文書、送ってくるやつどこのどいつだ? いや、危ない。危ない。冷静になろう。部外者の俺がこんなに熱くなってどうする。
「大丈夫かしら? こんな文書…… 他人に見せるべきではなかったわね」
「大丈夫です! ちょっと考え事をしていたので。 気になさらず」
「本当は主人から止められていたの。 この文書を他の誰にも見せるなって! おれが何とかするからって、でも、あなたなら何かを変えてくれる気がしたの。 ただの勘だけどね」
俺は何も分かっていなかった。アルバさんが悩んでいたことも……。 少しは俺の事頼ってくれてもいいのに。これは、アルバさん一人で解決できる問題ではなさそうだ。
「それで、これからどうするつもりだったんですか? 」
「主人は何も話さないけど、たぶん…… 一人で王宮に乗り込むつもりでいるかもしれないわ」
「そんな…… 」
「主人…… いや、私達家族をどうか助けてはくれませんか? この店はどうなっても構いません。 主人と長年この店をやってきましたが、店のことよりも家族がいれば私は十分ですから」
「分かりました。 おれに任せて下さい」
エミルさんと一旦お別れをし、俺はアルバさんの元へ急いだ。
ご覧頂き、ありがとうございます!
良ければ、ブックマーク・評価・レビューお願い致します。