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第七話  おにぎり

 木に釘を打ち付ける音、そして、威勢の良い男達の声が響いている。


 「お前らはあっちの方から進めてくれ! 」


 「「あいよ~! 」」


 家を建てる相談をしてから数日が経過し、ようやくこの日がきた。今日から建築工事が始まったのだ。アルバさんがこの日の為に、人員を集めておいてくれたのだ。アルバさんがこっちの仕事をしている間は、息子のフランクと奥さんのエミルが店を切り盛りしてくれているらしい。


 俺もこの数日間は忙しく、荒れた森を開拓し、邪魔な石や雑草を取り除く作業をしていた。そして、伐採した樹木を俺の風魔法で建築に使用する木材に加工した。それもあってか、工事に取り掛かる準備を短期間で行うことができた。俺にも何か出来ることを手伝いたかったのだ。


 「アルバさん! 工事は順調ですか? 」


 「おう! 順調だとも! 大規模な工事だが、これならすぐに完成できそうだ」


 「期待しています」


 家に関しては、俺達が十分に暮らせる広さ、住みやすい空間、それぞれの個人部屋を造る予定でいる。それに加え、旅館とその隣にスタッフの住み込み用住宅を建設予定である。仕事をするにあたり、人手は必要だ。今後のために、スタッフ用住宅もこの際に建築することになったのだ。


 「ここにリョカン…… なるものを建てると言ったときはどうなることかと思いましたが、無事に工事が始まって良かったですね」


 イチが俺に話しかけてきた。

 最初は、イチを含め、エルフやドワーフ達でさえ、旅館の存在を知らなかった。俺の知識をフル活用して、なんとかみんなに説明をしたのだ。最初はそんな物が存在するのかと言うくらいみんな驚いていたが、やりたくないという奴は一人もいなかった。むしろ、みんな目を輝かせ、俺の話を真剣に聞き、やる気に満ちていた。


 「こんな俺に付いてきてくれてありがとうな」


 「何を今更おっしゃるのですか! 皆、レイジ様が好きなのですよ」


 「なんか、照れるな」


 「あにき~ 何の話をしてたんすか? 」


 「…… 」


 そこに、サンとゴーが加わってきた。


 「みんなに感謝しているっていう話だよ」


 「なんの事かさっぱりっすね」

 

 「…… 」


 「気にするな」


 思えば、こっちの世界に来てから約一ヶ月ほど経ったが、いろんな奴と出会い、今はみんな家族だと思っている。あいつらはそうは思って無くても、この空間が好きだし、居心地がよくなっている。元いた世界よりも、結構楽しんでいるし、離れたくないとも思っていた。


 


 山小屋では、スーとゼルダ、ヒルダがおにぎりを握ってくれていた。

 なぜだか分からないが、この数日間でスライムのスーは自分の体を変形させることが出来るようになっており、一度食べた物なら、スーが料理をして作れるようになるという、チートじみた力を手に入れていた。なぜ、急に成長したのかは謎だが、うまい飯を作ってくれるなら、有り難いことだ。今じゃ、スーに料理で勝てる者はいないだろう。


 「頑張っている皆さんの為にいっぱい作りましょう」


 「そうだな。 我らも頑張ろう」


 ボヨン ボヨン ボヨン


 スーも、スライムの体を揺らしながら、二本の手のような物を生やし、おにぎりを握っている。


 「そろそろ、休憩にしよう」


 俺は、皆に指示を伝える。


 「そうだな! 一旦休憩だ」


 それを聞いたアルバが作業中の男達に声をかけた。作業を終えた男達が続々と山小屋の前に集まってくる。


 その声を聞いたエルフ姉妹は、お互いに目配せをさせながら合図を出し、山小屋から外に出てきた。そして、握っておいたおにぎりを一人ひとりに配り始めたのだった。


 「ありがとう。 助かるよ」


 「美味いな」


 男達の声が聞こえてくる。やはり、仕事の後は美味しいご飯に限るようだ。そんなことを考えていると、ヒルダが俺の前にやって来ていた。


 「レイジ様お疲れ様です。 どうぞ召し上がってください」


 おにぎり2個とお茶を手渡してくれた。俺はそれを口いっぱいに頬張った。

 

 「昔もこんなことあったな…… 」


 食べながらふと、昔の思い出が蘇ってきたのだった。それは、俺が幼い頃に母親が握ってくれたおにぎりの味だった。母子家庭であった為、母親は俺を育てるのに、昼夜問わず毎日仕事をしていた。夜も出稼ぎに出ていた為、いつもテーブルに置かれているスーパーの弁当の味しか思い出が無く、母親の料理の味なんて物の記憶はまったくなかった。唯一覚えているのは、たまに作ってくれていたおにぎりの味なのだ。あの頃は貧しかったが、母親が側にいてくれれば、幼い俺にとってはそれで十分だった。そんな母親も俺が高校に進学する時に無理が祟ってか、あの世に逝ってしまったのだが……。 母親の事を思い出したのは久しぶりだった。


 そんな事を思い出していると、いつの間にか休憩時間は終わってしまっていた。俺は急いで、残りのおにぎりを頬張り、作業に戻るのだった。



 その後も作業は続き、いつの間にか日が暮れる頃になっていた。暗闇の中では作業が難しい為、本日の作業は一旦中止することにした。アルバさんにも別れを告げ、俺達は解散した。そして、それぞれ帰路に就くのだった。

 

 





 


 



 






 

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