第四話 エルフの魅力
次の日。イチ・サン・スーを連れて俺はエルフがいるという、ギルドが所有している土地に向かうことにした。他のゴブリン(ニー・ヨン・ゴー)は俺が留守の間、ギルドで仕事探しをお願いしている。
ギルドが指定してきた土地へ到着した。
この土地はまだ手付かずで、森林に囲まれており、ダンデルの町外れだった。そして、最近ギルドが土地を購入したばかりとのこと。ギルドの受付アイルによると、土地を購入したはいいが、いつからかエルフが住み着き、冒険者に悪さをし始めたのだという。そのせいで土地の評判が悪くなり、買い取り手もいない為、ギルドが直接依頼案件に出したそうだ。ギルドは土地売買もしているようだ。
この依頼案件は期日が決まっていないため、完了するまでか、或いは依頼を受けた者が途中で依頼をキャンセルしなければ、終了できない仕組みになっていた。そのため、ギルドが2週間に一度伝書鳩を飛ばして、我々が応答しなければ、ギルドの判断で依頼は未達成になり、他の冒険者へ依頼するのだという。期間が長い為、ギルドが山小屋を貸し出しているというわけだ。そして、以前この依頼を受けた者たちは、応答がない者やキャンセルが相次いでいるとの情報は得ている。だが、しかし、土地報酬が入れば、今後の宿問題は解決し、土地がゲットできるのだ。しかも、俺は期待に満ち溢れている。不安もあるが、期待のほうが大きい。なぜなら、あのエルフに会えるのだ! あのエルフに!!
別にエルフの追っかけをしていたわけではないが、一目会えるなら会ってみたい。男ならエルフに一度は会ってみたいと思わないやつはいないだろう。エルフには俺を引きつける魅力があるのだ。これで、エルフに殺されたとしても俺は本望だとさえも思える。この世界にきて、俺はおかしくなったのではなく、これは元々なのだ。
ギルドが所有している山小屋に到着した。想像していたよりも広く、キッチンやトイレ・シャワーは完備済みだ。これなら過ごしやすくて有り難い。それにしても、綺麗だ。綺麗すぎる!! 埃や塵一つ無いのだ。今まで誰かが住んでいたかのように。情報では、最後にこの依頼を受けた者は1年前だというが……。 こんなにも綺麗なものだろうか。
そんな事を疑問に思いつつ、俺達はとりあえず、エルフ攻略に向けた作戦会議を行うことにした。
「できることなら、エルフとは戦わず、交渉をしたいと思っている。 俺は友
好的に依頼を完了できればいいなと思うんだけど、みんなはどうかな」
イチ 「そうですね。 争わずに依頼が完了できれば一番いいですね。 私も
レイジ様に賛成でございます」
サン 「おいらは兄貴が決めたことなら賛成する」
イチ 「しかし、相手が攻撃してきた場合はどうされますか? 」
アラタ 「そうだな……。 一番は友好的解決だが、それが敵わない場合は、
全力で戦う。みんなに危険が及ぶことは避けたいから、俺が魔法
で……。 」
イチ 「エルフも魔法は得意な種族ですが、主に水魔法や回復魔法が得意であ
るとの情報は聞いたことがあります。しかし、レイジ様のお力には敵わ
ないと思われます」
アラタ 「そんなにハードルを上げないでくれよ」
サン 「おいらも弓なら得意だから、兄貴の援護をするぜ」
アラタ 「ああ! 頼むよ」
作戦会議を終えた俺達は、早速エルフを探しに外へ出たときだった。
「誰だ! 」
俺は見知らぬ声が聞こえる方に視線をやると、二人の若いエルフがこちらを睨みつけ、俺に弓を放とうとしている。
「まて!! 落ち着けよ。 俺はあんた達に話があって来たんだ」
「うるさい!! 話は聞かない。 すぐに立ち去らなければこのまま弓で射
る」
エルフ達が敵意を向けてくる理由は分からないが、ここで死ぬわけにはいかない。
「レイジ様! やはり、友好的解決は難しいようですね」
イチの言うとおりだ。
「しかたない。 やるしかないよな~ ここまできたら! 」
「おいらも援護するぜ~ 」
「私も準備は出来ています」
俺はエルフの力がどれほどだか分からない為、とりあえず火の魔法を少し強めに放つ。これなら、エルフを死なせること無く、相手が逃げ回れば相手の体力を奪えると考えた。
俺の魔法攻撃とゴブリン達の援護もあり、エルフは相当疲れてきているようだ。しかし、もう一人のエルフは回復魔法が使えるようで、すぐに回復されてしまうが、大きな傷までは回復する能力はないらしい。
「くそ……。 上級魔法を使えるやつがいたとは…… 」
「お姉さま! 回復致します! 」
<大地に溢れる命の欠片よ 我に力を与え 傷を癒やし給え>
どうやらこのエルフ達は姉妹のようだ。妹らしきエルフは回復魔法を使えるようだ。そして、俺は上級魔法とやらを出したつもりはない!! ほんの少し火の魔法を強くして放ったつもりだったが、これが上級魔法!? そういえば、他の奴らがまだ魔法を使うところみたことなかったな。俺はいつも独学で魔法を出していたことに気がついた。
「この世界って、魔法使うやつたくさんいるよな? 」
「いいえ。 ここでは、魔法を使える属性を持った者はいますが、魔法を使う
には相当な訓練が必要になります。 初歩的な魔法を使うにも最低でも2年は
掛かると聞いています。 ですので、魔法を使えるものは限られた者しかいま
せん。況して、上級魔法を使えるレイジ様は特殊でございます」
(おいおいっ!そんな話はゴブリン達から聞いてないよ)
「それを早く言ってくれよ~ 」
「申し訳ありません。 説明が遅くなりました」
「どんな兄貴でも、おいらたちは、ついていきますぜ! なんてったっておい
らの兄貴は最強ですからね。 負けることはないんだぜ」
(俺は目立ちたくはなかったんだけどなー)
どうやら俺の魔法は特殊らしく、初歩的な魔法も他の奴らから見れば、上級魔法に見えるらしい。
「はぁ…… はぁ…… 」
「ヒルダー!! どうした!? 」
「お姉さま…… どうやら魔力が尽きた…… ようです…… 」
ドサッ
妹らしきエルフが地面に倒れる。
エルフ達は戦う事を止めた。地面に倒れたエルフは魔力が付き、今にも死にそうなのだ。
「まいったな…… 」
こんなつもりはなかったが、俺も少々やりすぎたと反省し、彼女達に回復魔法をかけることにした。
<ヒール>
俺は唱えなくても魔法は発動できるが、これ以上は目立たないように唱えてみた。すると、彼女達は回復し、全ての体の傷も癒えたようだった。
「ん…… お姉さま…… どうなされたのですか」
「目が冷めたか…… 良かった…… 心配させるな」
「お姉さま…… なぜ泣いているのですか」
「うるさい!! これは…… その…… なんでもない」
「お取り込み中、申し訳ありません。 戦いはもう終わりで宜しいでしょう
か? 」
イチが会話に割り込んだ。
「こちらこそ、すまなかった。 戦いをはじめたのは我々なのに、
妹まで助けていただいたのだから…… もう、争うつもりはない」
「それならよかった! 俺の名前はアラタレイジだ! よろしく」
俺は彼女達に手を差し伸べた。
「わたしはゼルダ・オルビスだ」
「わたくしはヒルダ・オルビスです」
俺たちは握手を交わした。今までの戦いが嘘のように……。
「ところで、アラタ様の魔法は遺伝のものですか? それとも、お師匠様がい
るのでしょうか? わたくしも多少なら魔法は使えますので、興味がありま
す」
妹のヒルダは初歩的な魔法は使えるようだが、姉のゼルダは使えないようだ。
「確かに詠唱もしていないように見えたのだが…… 」
ゼルダには気づかれていたか。
「いや、これは独学かな。 遺伝でもないんだ! 知識はゴブリン達が教えて
くれたからなんとか使えているだけだよ」
俺が転生者だって言えるわけないしな。それに、魔法はサタンの贈り物だなんて言ったら、俺、この世界で生きて行けない気がする。
「そうなのですか……。 独学でもここまでの魔法は見たことがなかったの
で」
エルフでも、上級魔法は使えないのか……。
「毎日魔法の練習はしてたからかな? あはは…… とりあえず、小屋で話
そう」
俺達はこの土地に来た今までの経緯をエルフ達に話した。そして、エルフ達は冒険者ギルド所有のこの山小屋に住み、俺達のようなギルドから依頼されてやってきた冒険者達を襲い、金品を盗んで生活の足しにしていたのだと言う。
「二人で生活しているのか? 他には…… 」
「今は訳あって二人でいるが、元はエルフの里にいたのだ。里から二人で旅に
出て、今はこの山小屋を生活の拠点にしていたのだ」
「エルフの里のことは聞いたことがあります! とても自然豊かな土地で、農
作物が豊富だと……。 なかでも、エルフが作る果物は他の果物より甘いとい
う噂です」
イチはやはり、物知りだ。
「よくご存知ですね。 私達は代々作り方を親から子へ受け継いでいくのです
よ」
「そんな良い里なら旅に出なくても良かったんじゃないか? 」
「里は素晴らしいのだが、そこを治める里長がなんせ頑固でな…… 」
「里長は頑固で、わたくしたちの言うことよりも、里が一番大事なんです。仕
事熱心なのは良い事なのですが、娘達の言うことくらいは聞いてもらいたかっ
たですが…… 」
「娘ということは、里長は父親ということですか? 」
「そうだ! たまには我らの言うことも聞いてやってもよいではないかと反発
してしまったのだ」
「親子なのに分かり合えないのはつらいっすね」
「だから、もう少しだけここに居させてはくれぬか? 時期が来たら出ていく
ゆえ」
「わたくしからもお願いします」
家族でも、分かり合えない事もあるだろうと俺も思う。
「わかった!! でも、おれたちもここに住もうと思うんだが、それでもよけ
れば…… 」
「我は構わぬ。 居場所があるなら! しかし、この小屋にみんなで住むのは
狭いと思うが…… 」
ゼルダの言う通り、この小屋で全員住むのは大変だ。
「そうだな。 家の問題はなんとかしよう。それよりもまずは、依頼を完了さ
せないとな」
エルフ達は山小屋で留守番をしてもらうことにした。彼女達の今までの行いを考えると、ギルドに連れて行った場合、冒険者達が何をするか分からないからだ。その代わり、彼女達が身につけていたブレスレッドを預かり、依頼完了の手続きに使うことにした。
「では、行ってくる」
「行ってきます」
「待ってくださいよ~ あにきー 」
俺達は冒険者ギルドへ戻り、依頼完了の手続きを行うのだった。
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