会議
「アルヴェル帝国に動きがあった」
部屋に入るなり、国王はいきなり俺にそう伝えた。
いま部屋に集まっているのは、貴族の中でも位が高い者や大臣など、国の中でも上位層ばかりだ。
「もう動きがあったのでしょうか?」
予想通り、アルヴェルの事だったが、あまりにも急な内容に思わずそう聞き返してしまう。
「いかにも。既に奴らは軍を率いて西方のアルディア砦に向かって進行を進めている」
「規模はどのくらいなのでしょうか?」
「それに関してはディルガ将軍から聞いた方が速いであろう」
そう言いながら、俺と国王はディルガ将軍と呼ばれた老人の方を向く。
ディルガ将軍はかなりの老体、齢八十であるにも関わらず現役の老将だ。
そして、ここ五十年間一つとして内乱や戦争が起こらなかったアルカディア王国の中で、唯一戦という物を体験した者である。
その経験は、戦未経験の俺の魔法や国王よりもずっと当てになるだろう。
「はっ、報告によると、恐らく万単位での軍隊がアルディア砦に向かっていると言う情報が入っています」
万単位と言うのはかなりの人数である。
それこそ、今のアルカディア王国の兵士達は数こそ...そんなに無かった。兵も指揮官も練度では到底アルヴェルには叶わないだろう。
何せアルヴェル帝国は俺達がのほほんと暮らしていた間およそ五十年全ての時において戦を行い、ハウンツ大陸の三分の一を手にするまでに至ったのだから。その間に消えていった国の数は数個では済まないだろう。
アルディア砦はアルカディア王国で最も西にあり、高い山の上にそびえ建つ強固な砦であるが...。兵士の質により落とされるかもしれない。
そうディルガ将軍は言葉を発した。
「...今帝国は王位争いに明け暮れているようだ。これは儂の意見なのだが、我らの国への侵攻で武功を上げ、帝国での地位を確固たる物にしようと目論む者がこうして進軍を行っているのではないだろうか? どう思うか?」
「確かにその通りかもしれませんが...陛下は何を仰りたいのでしょうか?」
国王の考えに、ディルガ将軍は問いかける。
「仮に儂らが万単位の軍隊を全て滅ぼしたとしよう。それを嗾けた者が生きている可能性はないだろうが、次の皇帝が何らかの理由で我らへの報復に走るかもしれぬ...。今は兵力がバラバラだから万単位の兵で済んでいるのだろうが...もし万全を期して帝国が我らに攻め掛かれば勝てるという保証は無い...。どうにかアルディア帝国の兵の被害を最小限に抑え、尚且つ追い払うことは可能か?」
「へ、陛下! いくらなんでもその考えは甘すぎます! 確かに仰ることは的を得ていますが、帝国の軍隊への被害を与えず追い払うだけというのは不可能であります!」
確かに、国王の言う事も一理ある。ついこの前まで領土拡大の為に毎日バッチバチの戦闘をしていた帝国の怒りを買ってはたまらない。しかし手加減して戦える相手ではないと...。
「...ならば帝国に協力者を作る、と言うのはどうでしょうか、陛下」
「...何? ...そうか、そう言うことか」
俺の発言の意図を理解した国王が唸る。
「...協力者、と言うのは?」
訳が分からない、と言った様子で俺達に会話の意図を尋ねるディルガ将軍。
「それは、我らも王位争いに参加する、と言うことだろう?」
静かな声で、国王はそう言った。