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お風呂

 初めて違法奴隷を見て、つい衝動的に少女を購入してしまったが...。


 たった数分の空中飛行を終え、少女は先程の絶望的な表情とは打って変わって僅かに頬を緩めているのを見て、やってよかったなぁ、と小学生並の感想が湧き出てきた。

 王格へと着地し、少女を降ろす。


「今日からここが君の家だ」

「あ、あの...ご主人様は王族の方なのですよね?」

「まあそうだな」


 この少女が獣人であることから、この国の事には疎いと思っていたが、流石に城のことくらいは分かってそうでよかった。

 しかし、俺がそう答えたのを聞くなり、少女の方がビクン、と震える。

 ...これは何か王族に対して何かしらの疑念や不安を抱いているな。


「詳しい話は後でするから着いてきてくれ」


 ここでは貴族や役人達の交通量が多い為、誰かに見られるかもしれないから早く場所を移したい。

 俺はそう言うなり、少女の手を引いて歩き始めた。




 王宮に入った瞬間、父に信じられないような物を見るような目で見られた。

 その瞬間、全てを思い出し、また全てを悟った。

 奴隷の少女はまだ幼い外見をしている。そして父が奴隷を買うよう促した理由は...。

 あっ...ふーん。


「...」

「...」


 気まずい沈黙が流れる。


「...儂は良いと思うぞ?」

「いや違うんだこれには訳が」

「語らずともよい冒険者の事以外何一つとして我儘を言わなかったお前のことだこれからは必要な物があればなんでも申すがよい」


 絞りだしたような肯定の言葉から、最後にはとんでもない早口で会話を終わらせ父はそそくさとその場を後にしてしまった。

 別に政治的にマズイ訳では無いと思うが親族間でこれはマズイのでは?


「だ、大丈夫ですか?」


 少女の目からしても俺の表情がかなり暗いのが分かったのだろう。そう声を掛けてくれる。


「気にしなくていい...それよりアレだ、お腹空いてるんじゃないか?」


 少女は見るからに栄養が足りてなさそうだったので、そう話題を変える。それと同時に少女のお腹が可愛らしく音を立てる。


「あっ...」

「決まりだな、先にごは...」


 そう言いかけて、ふと気づく。

 

「やっぱりお風呂にしよう」

「は、はい」


 



 奴隷なんかは管理状態が悪く、売られる前に栄養が足りず死んでしまう者も少なくない。

 そんな奴隷たちが体を洗っているか、と聞かれたら...相当高価な、それこそ国が傾くレベルの値段をした奴隷になら手厚い管理がされるかもしれないが...そんな奴隷がいるなんて聞いたことも無いが。

 要するにノーだ。

 

 適当な侍女に少女の体洗いを任せようと思ったが、そんな事したら彼女がどうなるか分かったものじゃないので自分が付きそうことにした。

 少女が自分で体を洗ったことがないそうで、更に侍女等に任せるのはかなりの危険が伴う。

 俺には地球に居た時の記憶があるから差別はしないと言うか出来ない思想になっているから良いとして、王宮に使える程の位がある侍女なら何も不自由なく暮らしてきた者たちだろう。

 そんな彼女ら、もとい侍女でない者たちでも奴隷に対して良いイメージを持っている者など存在する訳がないのだ。

 王子の奴隷だ、と宣言すれば何も手出しは出来ないだろうが、それでは俺が異常性癖者(ロリコン)である疑いが持たれ、未来の俺の側近が離れていくのが軽蔑により寄り付かなくなるのが見える見える...。只でさえ冒険者をしていたせいなのか、次期国王だというのに誰も俺に寄り付こうとしないのだ。お前ら出世欲はないんか!? 俺はいつでも優秀な人材を募集しているぞ!

 縁談はバカ程舞い込んでくるが...。正直困る。

 とにかくそれはマズすぎるので、少女には悪いが混浴させて貰います。


 わしゃわしゃ、と少女の体を洗う。


「んっ...」


 初めての感覚なのか、少女は時折変な声を出してくる。

 それもそのはず! 今俺はブーストを使っている! 何をブーストさせたのかは自分でも分からないが、今の俺なら世界一の洗い物屋になれるぞ!


「そういえば、名前は何て言うんだ?」

「...ラミュって言います」

「へぇ、ラミュか。俺はノアルト、よろしくな」

「は、はい」


 会話終了。嘘だろ?







 体を洗っていて思ったのだが...割と真面目にブーストのデメリットと言うか隠し効果に性欲激減とか付いてる疑いが...。

 いや違うな、これは俺が異常性癖者(ロリコン)で無い事の証明...ッ!




「レン? 居るかぁ?」

「お、ノア様じゃないっすか」


 厨房でフライパンを片手に俺の呼びかけに答えたのは、王宮料理人であるレン。

 金髪に緑の瞳は、この世界ではありふれた姿だ。

 俺と一歳しか違わないと言うのにもう王宮料理長と言うのだからその料理の腕は計り知れない。

 実際、各地を飛び回っていた俺は結構いろんな物を食べてきたのだが、未だにレンの作る物に勝るものを食べたことがない。この料理がなかったら命令でも下らない限り王都には帰ってこない自信がある。

 そして俺の事をノア呼びするほどの仲の良さを誇る、王国にとっても、俺にとってもかなり貴重な人物である。

 そして仲がいいので多少の我儘は通してくれる。


「子供向けの料理をすぐに用意してくれるか? できれば俺らが食うような奴じゃなくて...」

「そういう事っすね、すぐに用意しますね」


 なにがそういう事なのかは聞かないことにしよう。

 そう答えてから僅か数分後には手軽に食べられる様な物が幾つも出来上がっていた。

 

「ノア様の自室でいいですね。後ほどまた追加で送るので、心配なさらないで下さい」

「助かる」


 料理を持って部屋に入ると、ラミュが明らかに目の色を変えて料理の方を見始めた。


「どんどん食べていいぞ」


 俺がそう言って、ラミュの目の前に料理を置くと、ラミュはすぐさま料理に手を伸ばし食べ始めた。

 本当に犬みたいだな...。

 零れ落ちる食べカスを魔法で掃除。そのくらいはブースト無しでも出来る。

 あっという間に一皿。追加の皿もラミュは全て平らげてしまった。


「ふぃー...あ...すみません...」


 息をついた後、ラミュは急に俺に誤ってきた。


「謝ることはないぞ? よく食べる子はよく育つからな」

「は、はい」


 しばらくラミュは動かなかったが、その後俺の部屋に入る日光に当てられ、だんだん目がとろりろしてくる。

 いつの間にか全く動かなくなったラミュを抱き抱え、俺のベッドに寝かせる。

 寝ているラミュを見ているとなんだか俺も眠くなってきたな...。

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