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奴隷

 つい先日も謁見の間に行かされたばかりなのに又か。と思っていると、何故か通されたのは父親の自室だった。

 部屋に入るなり、俺はいきなり大量に金貨の入った小袋を渡された。

 一体何事?


「その、なんだ、これで奴隷でも買って来ると良い」


 開口一番、訳の分からない言葉を浴びせられた。

 しかも、王としてではなく、父親としての声で、だ。


「それは一体...?」


 考えても分からない為、俺は古代魔法で父親の心を読む。

 読心は集中力を必要とするため、とてもじゃないが戦闘中には使用できない。しかしこういう場面ではなかなか役に立つ。


 ...読めた。そういうことか。



 

 俺の冒険者活動には一つだけ制約があった。

 それが、「決して現地の女性と関わりを持ってはいけない」と言う物だった。

 関わりというのはもちろんソッチのことだ。

 よくわからん所で関わりを持って、数年後とかに「王子の隠し子発見」とか騒がれたら堪ったものじゃないから、という思念の元だろう。

 実際それで窮地に立たされたのが...初代国王。オイ、しっかりしてくれよ初代。

 それから処理用に奴隷を買う...と言う暗黙のルールと言うかしたきりが出来たようだ。

 そして、父曰くそろそろ、と言うかちょっと遅くね? らしい。

 奴隷ならたとえ子供が出来たとしてもどちらも手早く隠滅が行えるから。

 遊んでポイ、みたいな風に聞こえるため人徳的にどうなんだ、と思うが、もともと奴隷に人権もクソもない。

 基本的に奴隷と言うのは犯罪者が落ちる所だ。

 そこそこ値は張るものの、一度購入してしまえばあとは煮るなり焼くなり、と言うものだ。

 しかし、この奴隷、ごく稀に違法奴隷が売られていることがある。

 違法奴隷とは、違法に奴隷に落とされたものだ。

 主に孤児を攫ってもバレへんかというノリで違法奴隷は出来上がる。

 タチが悪いのは、孤児だから身内もおらず、誰も擁護してくれない所。

 犯罪者ではない、と言う主張が出来ないのだ。それとやはり孤児だから数人居なくなってもバレない。

 奴隷は闇が深い。


「...その通りだ」


 いきなり父親に声を掛けられた。

 その通りって...読心でも使った?


「儂は過去にその奴隷を愛してしまった故...」


 息子がそんな思いをするかも、と考えるといても立ってもいられないらしい。


「...しかしお前は今までどうしてきたのだ」


 実は俺は今年で18歳。そんな歳になるまでどうしてたかって? 実際ガチで何もしてなかったんだよなあ...。

 まあそう考えると確かに奴隷欲しいな。俺は今まで国民の為に頑張ってきたし...少しくらい許されろ。


「...じゃあ行ってくる」


 俺は心配そうに見つめてくる父に背を向け、部屋から出て行った。


 実は俺の母親は俺を生んですぐ亡くなっている。

 愛した女性二人が即死したからか、父はかなり女性と付き合うのが下手くそになった。

 そのため今アルカディア王族は父と俺だけという消滅寸前のトンデモ王家なのだ。





「ゲヘへ、いらっしゃいませ...本日はどのような物を探しで...って!? 王子様!? 何故こんな所に!?」


 商格の最下層。地面付近まで移動してきた俺は、早速奴隷商人の経営する店へと入っていった。

 店に入るなり、気持ち悪い笑い方をする俺と同い年くらいの商人が現れた。


「そりゃあもちろん奴隷を買いにだ。奴隷を見せてくれるか?」

「勿論ですとも!...しかしその前に。私、実は王子様のファンで...」


 ファンって。俺はアイドルじゃねえよ。

 そう言いながら、奴隷商人は紙とペンを渡してきた。

 適当にノアルトと書いて奴隷商人に返す。


「ゲヘへ、ありがとうございます。それでは奴隷の方をご紹介させていただきます」


 そう言う奴隷商人の後に続き、俺達は店の奥へと入っていった。




 殆どが鉄格子ので構成された灰色の部屋に通される。

 そこには首輪を嵌められた少女や女性など、さまざまな奴隷で溢れかえっていた。


「さて...如何ですか? 王子様のお眼鏡に適う者は居ましたか?」


 部屋の中を見渡すと、部屋の隅に目あまり立たない少女が居た。

 犬のような耳と尻尾。アレは獣人?


「おい」


 俺がその娘を見ていると、奴隷商人によりその娘が俺の方を無理やり向かされた。

 茶色の髪の毛に茶色の瞳の美少女。大体十歳前半くらいかな? 美少女なのだが耳と尻尾のせいでますます犬っぽさが際立つ。


「...君はなにか罪を犯したのか?」


 俺はそうその娘に問いかける。


「ッ...は、はい」


 怯えたようにそう答える少女。


 この少女は()()()()()()()()

 しかし、俺にはどうすることも出来ない。


 俺は殺気を込めた目で奴隷商人を睨む。

 

「ひぃぃぃっ!? な、なにか気に入らぬ事でもあったのでしょうか!?」

「...いや。俺はこの娘を買うことにする」

「はい!それでは契約を...」


 そう言いながら俺に刃物を渡してくる。

 契約とは、奴隷の首輪に血を垂らし主人として登録することだ。

 実は首輪は魔道具で、それも失われた古代魔法である。そして首輪は一度付けられるとこの世界に数個しかない解放の杖という奴隷の首輪にだけ使える魔道具以外の方法で外すことは不可能だ。エルの聖剣レベルのバカ力があれば壊すことは出来るかもしれないが。まあ首輪は主人の命令に背いたり、首輪を破壊しようとすると電撃を流すためどうあがいても首輪に装着者が生きたまま外すことは出来ないだろう。首輪はもう誰も作れる者が居ないため、首輪だけでもかなりの値段で売れる。しかし俺なら古代魔法の解除やハッキング、なんなら首輪や解放の杖だって新しく作ることさえ容易いのだ。まだしないが。


「お代は特別に金貨六十枚で提供させていただきます」


 商人に金を渡し、その後奴隷を引き取る。

 そしてその後、古代魔法のテレパシーで、


『次違法奴隷を見つけたら只じゃ済まさない』


 と奴隷商人に語り掛けてから店を出た。





 店を出てすぐ、奴隷の娘をお姫様抱っこ。


「...え?」


 困惑する少女を尻目に、


「空の旅へ。一名様ご案内」


 そう言いながら、すぐそこから飛び降りる。


「―――ッ!?」


 声にならない悲鳴を上げる少女をしっかり抱えながら、飛行魔法(フライマジック)にブーストを掛け、発動。

 鳥よりも自由に空を飛べるようになった俺は、王都の中を飛び回る。


「わぁ...!」


 腕の中で少女が感嘆の声を上げる。

 そりゃそうだ。アルカディア王国は空から見ると想像の何倍も美しいのだから。

 適度な緑と赤、灰色などで構成された、絵の中のような街を翔ける。

 初めて外に出たのが飛行魔法(フライマジック)を覚えてすぐ。

 あまりの美しさと立地の可笑しさに思わず飛行魔法(フライマジック)を解いてしまい、落ちそうになった所をエルがジャンプ一回で助けてくれた時は本当に驚いたものだ。懐かしい。


 先ほどの少女は怯えていた。

 だから、こうして美しい景色を見せることで癒しになったら、と思ったのだが...。

 驚愕や恍惚の表情をしている少女の顔を見ている限り、少なくとも-にはなっていないようだ。

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