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アルカディア王国

 帝国がうんぬんかんぬんについては、まずここ、アルカディア王国について説明する必要があるだろう。

 アルカディア王国。ここら一体を支配する王国だ。

 西には先ほどのアルヴェル帝国。このハウンツ大陸の三分の一ほどを領地とする大陸で最も大きな国である。アルカディア王国とはあまり交流がない。

 東には聖国オルフェウス。聖女や竜騎士がいる国らしい。こちらも交流ナシ。

 竜騎士か...正直一度会ってみたい。

 北の方には不可山脈(デルタズ・ノア)というものがあり、この山を越えるのは不可能とされる程に強い魔物や、仮に超えたとしても待っているのは魔族が治める土地だったりと、メリットがなさすぎるので誰も近寄らない。

 南は海。終わり。


 少しだけアルカディア王族についてお話しよう。

 アルカディア王族は代々黒髪黒目という、この世界では非常に珍しい色合いをした髪や瞳を持つ王族なのだ。一説によると、遥か遠くの地がルーツになっているというが、この世界では、世界一周どころか大陸一周できるか、と言うくらいには移動が難しく、そして危険なため、その説は立証には至っていない。

 そんなんだから、俺は黒髪黒目の第一王子という、珍しさが人の形をしているような人間なのだ。


 アルカディア王国には色々と特徴があるが、その中でも特に目立つ...もとい異質な特徴がある。

 それは王都の立地。今俺がいる宮殿もとんでもない所にある。

 一言で表すなら、壁、いや、柱だ。

 一応大きい山、に分類されるであろうものの横に城が埋め込まれたように建っているのだ。

 山と言ってもなだらかとか険しいなんて次元を突破して垂直。めちゃくちゃでかい円形の柱である。

 そんな垂直な壁に遥か昔の国王が無理やり通路や王宮など全部建てあげたのが王都なのだ。

 正直この国の王子である俺が言うのもなんだが、かなり異常である。

 とにかく高低差が激しすぎる。俺はこと移動に関しては大丈夫だし、魔力で動くエレベーターのような物もあるので移動はさほど苦にはならないのだが...なぜこんな所に王都を作ったのか...十年かけても理解出来なさそう。

 しかもこの柱が王宮のある柱の周りにさらに六本あるのも恐ろしい。

 それぞれに勇格、武格、魔格、貴格、商格、民格と名前が付いている。

 それぞれ、


 勇格。勇者の住む場所。

 武格。兵士など、武術に特化した者の集う場所。

 魔格。魔導士など、魔法に特化した者の集う場所。

 貴格。貴族の住まう場所。

 商格。最も商業の栄える場所。

 民格。通常の市民が住まう場所。


 と区別がされているのだ。

 それぞれは王宮のある王格に橋を伸ばし、勇格ならそれに加えて武格と民格に、といったように移動する為の橋がある。王格以外からは三つしか橋が伸びていない、ということになるな。

 この作りになっているのには理由があるらしく、王格が敵に攻め込まれた時に大量の退路を獲得する為だそうだ。

 全部の橋を落とされたらどうするのだろうか? とかこんな回りくどいことせず地べたに国作れば?

 と考えたこともあるが、まず勇者がこの国の勇格に居る時点で些細な心配なのだろう。

 正六角形のように連なる格達の中央に王格があるのを見れば、初見ならば美しいと思えるだろうが、住んでると上の方の空気が若干薄かったりするしで不便だ。

 と、とんでもない立地のアルカディア王国。初めて王宮の外に出たときは思わず笑ってしまった記憶がある。

 だってそうだろう。こんな訳の分からない国、前世で見たことなど一度たりとも無かったのだから。





 俺には生まれたときから前世の記憶がある。

 地球という星で、斎藤 渡として生きていた時の記憶が。

 前世では何かを成す訳でもなく死んでしまったようだが、そのことに関してなんら憤りを感じたことはない。不思議なものだが、今は今、前世は前世、と区別がはっきりついているのだろう。

 前世の俺は何か大きなことを成し遂げようとして、結果何も残さず死んでしまったようだが、今なら次期国王であるノアルトであるのだし、前世の願い? も叶えることができるかもしれない。

 

 幼少期どころか生まれた瞬間から前世の記憶があったのは俺にとって非常に有利に働いてくれた。

 精神は体によって左右されるらしく、幼少期は感情の爆発が多かったが、毎日を只々適当に過ごす訳ではなく、常に目的を持って行動できていた。

 同年代より早くに武術や魔法、学問に手を出した為、とにかく時間が沢山あったのだ。

 しかし、武術の腕は一定の所で打ち止めになり、魔法も、基本的な八属性はおろか、幻術魔法や、果ては古代魔法まで習得したのだが、威力や技術は一定の所よりも先に進めなくなっていた。

 学問に関しては、もともと前世の記憶があったため、打ち止め、という事態にはならなかったが、目に見えて飲み込みのスピードが遅くなった。

 ほとんど全ての事が、「同年代の平均よりちょっと高いね」と言うラインで全て止まってしまったのだ。

 要するに器用貧乏、ということになる。

 

 しかし俺の評判は悪い訳ではなく、むしろ「万能王子」とか「世界最強」なんて呼ばれていると聞いたことすらある。世界最強はふざけ過ぎだろ処刑すんぞ。

 王宮内と外とで天と地ほど...の差はないが、どうしてこんなに差が付いたんだか。




 平均付近で打ち止めになってしまった俺がなぜそんなに高い評価を受けているかと言うと、それには俺のちょっと特殊な能力みたいなものがあるからだ。


 最初にソレ、に気づいたのは幼少期。王宮内で見つけた蝶々を追いかけて走っていた時の事だ。

 幼い時は疲れてしまうと分かっていても体を全力で動かしたくなるものだ。


「あ!ちょっと!」


 俺のお付き、もとい幼馴染が声を上げ、走り去っていく俺を追いかける。

 そのとき既に蝶々を追いかける、と言う目的から、その幼馴染から逃げる、と言う目的に変わっていた。

 実際俺はその幼馴染より幾ばか足が速く、逃げれるには逃げれるのだが、大体王宮内のどこかで待ち伏せされて捕まってしまう。



 気づいたのは丁度その時だ。

 

 ――なぜ俺はその幼馴染より足が速いのか?


 幼馴染は勇者の娘だ。

 勇者。遥か昔に初代アルカディア国王と一緒に魔王を打ち滅ぼした存在。

 そしてその子孫が幼馴染のエルだったのだ。

 勇者の子孫は、聖なる武器、聖剣を操り、常人を凌駕する身体能力でアルカディア王国の大きな支えとなっていた。

 そう、エルは幼かったとは言え勇者の末裔。

 身体能力も大人を越えている。

 なぜそんな彼女が息を切らすまで俺は逃げ切れた?


 

 そう、勇者の末裔よりも優れた身体能力を、いくら王族とは言え、一端の王子、ましてや器用貧乏な俺がなぜ持っているのか?

 その事実に気づいてからすぐに俺は自分の体に備わっている特殊な能力を見つけた。


 それは、俺の能力をどんなものでも超大幅に強化してくれる、というものだった。

 剣術でも、魔法でも。間違えて髪の毛をちょん切ってしまった時も、育毛能力を強化することでたちどころに髪の毛が生えてきたときには流石に笑ったが。育毛能力ってなんだよ。


 その能力を駆使することで俺は尋常じゃない程の力や名声を手に入れることになったのだ。

 

 俺はその能力をこう名付けている。


 「ブースト」と。

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