作戦決行
遅れてすみません
その後、飛行魔法を扱える魔術師とレイアに俺でアルディア砦まで移動する。
アルディア砦は非常に高い山の上に聳え立つ、アルカディア王国でも国内最硬と謳われる砦だ。
帝都が国内最硬じゃないのか...と思うが、帝都の防衛は勇者が居るので最硬じゃなくても何とかなると言うのがなかなか...勇者に依存して初めて成り立つ国家ってなんだよ。
アルディア砦はとにかく大きい。
場内に畑や家畜が居たりで兵糧攻めにも対応可能。
また、上に登るまでの山中には罠がこれでもかと言うくらいに配置されている。
空を飛ぶような相手に対しても、誘導効果のある魔法を打ち出す大砲もあったりと、至れ尽くせりのつよつよ砦なのだが...。
何度も言うようにアルカディア王国は五十年近くも争いを行っていなかった王国、兵士の質は落ちに落ち、必要性の無さから数も減り、と軍事面で絶望的な為、当然アルディア砦の守りも薄くなる。
それでも勇者と言うぶっ壊れ戦力が居るので軍事面的な弱体化を誰も危惧していないと言うのがもうどうしようもない。
話が逸れたが、アルディア砦はその性質上、拠点としての役割を十二分に果たせるスペックを持っているので、反乱者のガルアナ達は反乱成功...つまり帝王や兄弟の殺害の足掛かりとして欲するのも仕方がないだろう。
しかしそこはアルカディア王国の土地。さっさと出て行って貰おう。
飛行魔法によりアルディア砦に着いた俺達。
砦の者には話を通してあるので俺の周りの魔術師達も顔パスだ。
アルディア砦を見たレイアは少し表情を変えていたが...何かあったのだろうか。
「王子様、帝国軍はもう山の麓まで進軍してきています!」
室内で待機している所に兵士が報告をする。
「...そろそろか。レイア達を呼んで、奴らの殲滅に取り掛かる」
そう言い残し、俺はある準備をしてから部屋を出た。
魔術師達を集め、飛行魔法でこっそりと軍隊の上空へと移動する。
幻術魔法にブーストを使って魔術師の面々は姿が隠れているが、その変わりブーストを使っていない俺の飛行魔法はガタガタだ。
たまにグラっとするのが心臓に悪過ぎる。
レイアや魔術師達にも心配されてしまったし...。
別魔法を使いながらブーストも無しだとこんなものか...。
軍隊の上に集まり、早速幻影魔法を解除。俺だけは幻術魔法を解除していないが。魔法全般にブーストを使っている為飛行魔法も少し安定した。
「な、なんだアレは!?」
兵士の一人が声を上げると共に、数々の視線が此方に向く。
「襲撃! レイアだ! 今ここで返り討ちにする! 弓を持て!」
いきなり天幕から出てきたのは腰に剣を携え、金色の髪の毛を刈り上げにした赤目の青年。
あれがガルアナだろう。
襲撃も予測していたらしく、兵士達の手にはもう弓矢が用意され、此方を狙っている。
「撃てぇぇぇっ!」
そしてその矢が一斉に放たれる。普通の魔術師なら矢を避けたり撃ち落としたり出来ず敗北するだろう...が。
「凶暴な風」
凶暴な風は特に形を決めず雑に風を放つだけの、範囲、威力、精密さ等全てにおいて死に技ならぬ死に魔法だ。
他にも凶暴な火など別属性の物も同じ理由で死に魔法だ。
が、俺にはある。どんな物でもたちまち最強に至らせる究極の力が。
ブーストを使った俺の風魔法により全ての矢が勢いを無くし、次々に地面へと落ちていく。
「なっ...!?」
兵士達が撃ち落とされた矢を見て驚愕する。
「ブリザードランス!」
ここがチャンスとばかりにレイアが氷の槍を何本も生成し、兵士達に向かって射出。
他の魔術師も、各々の得意な属性の魔法で兵士達を攻撃する。
俺も魔法全般にブーストを使い、氷の魔法を主軸とした数百個の魔法で兵士達を攻撃する。
死なない程度に手加減はしてあるが、当たれば戦闘復帰など不可能。
魔法の雨嵐により、次々と兵士達が倒れて行く中、ガルアナは一人腰に携えていた剣で魔法を弾き飛ばしていた。
噂通りの武勇だな。
「レイアッ! お前の方から出向いてくるとはな! 俺の隊は殆ど全滅状態だが...さっきのような魔法じゃ俺は倒せねぇ...。これからお前らを倒すまでに一分もかからないぜ!」
そう言いながら、剣を片手に跳び上がるガルアナ。
魔法とか一切無しでここまで跳ぶのか...。
流石にマズイので、手加減無しの凶暴な風で迎撃。
魔法を使って回避なりをしない限り、フルパワーの凶暴な風にぶち当たればダメージは必須。
ドラゴン等のS級モンスターでもない限りは体が引き千切れるだろう。
そう、魔法を使わなければ...。
「飛行魔法! ...へへ、この俺様がそんな魔法で倒れると思ったか?」
そう言いながら、悠々と空を飛び、凶暴な風を回避するガルアナ。
「...ガルアナ...」
「どうしたレイア? 俺が飛べるのが以外か? まあいい。今からお前達を根絶やしにしてやるっ!」
圧倒的な速度でレイアに向かい直進するガルアナ。
...ならば。
「ッ...!?」
ガルアナの剣を、姿を現し腕で受け止める。
体の強度にブーストを使うことで、ドラゴンのブレスを生身で受け止められる程体を強化出来るが、痛いし回避した方が楽なのであまり使うことはない。
しかし、姿を現すと言ってもバカ正直にノアルトの顔を見せる訳ではない。
「なんだお前っ...まるで――」
――死神みたいな――。
真っ黒なローブに適当に探して来た鳥の面。
あとは鎌があれば完璧だが...。
俺、ノアルトこと死神の登場だ。
わざわざ変なコスプレをしてきたのには理由がある。
第一に、俺が王子と言う事が分からない(筈)なので王国との関係が無い人物として立ち回る事が出来る。
そもそも、今やろうとしていることが「なんか軍隊攻めてきたけど、レイア皇子女が勝手に止めてくれたので今回は無かったことにしてあげるから帝国感謝してね」って言う感じなのに、アルカディア王子が全部片付けちゃいました、では意味が無い。
レイアの株を上げる事が目的だからな。
ただ、死神ノアルト君なら話は別。
いきなり現れた謎の仮面、皇子女レイアに協力する謎の仮面の目的と正体は...!?
って感じで身元不明な所を除けばオープンにレイアへの協力が可能だ。
現に今も...。
「コイツ...まさかレイアにこんな助っ人が居たとは...! お前の名前は何だ!? 答えろ!」
謎の仮面に興味を示したな?
「失った者。顔も、故郷も、自分も失った者だ」
とりあえず色々失った事にしておこう。
謎をばら撒きまくってゆっくり表舞台からフェードアウトしていけば、仮に失った者が世間の知る所になってもそのうち忘れ去られるだろうから大丈夫だろう。
「ロスト...ロストか! 厄介な...!」
「フレイムボム」
剣を振るガルアナから距離を取り、幾つもの爆発でガルアナを追い詰める。
名前がロストになってしまったが、失われた古代魔法なんて使ったらノアルトって即バレするから絶対使ってはいけない。
「ライトニング」
宙に浮いた魔法陣から幾つもの雷撃をガルアナへ放つ。
ガルアナはソレを飛ぶことにより回避するが、移動先には新しい魔法陣が。
「アクアバレット」
水で出来た弾丸が唸りを上げて襲い掛かる。
これも回避してのけたガルアナ。
「...はっ、結局腕の硬さだけで魔法は対したことねぇじゃねぇか」
「それは君の後ろを見てから判断しろ」
ガルアナが後ろを振り向くと、そこには魔力を溜めに溜めたレイアの姿が。
魔力感知があれば、俺がフレイムボムを撃つ頃からレイアに気づけていたかもしれないが、魔力感知は魔法を極めていく過程で手に入れる物。
武術ばかりのガルアナがレイアに気が付かなかったのも無理はない。
実は俺もそこまで得意ではない。が、ブーストを使ったら...ね?
「なっ...誘導!?」
「――これで終わり。氷の砲撃」
レイアの渾身の一撃が命中、ガルアナは戦闘不能になり、辺り一帯は氷に包まれた。ちょっと寒い。
こうしてもう片方の魔術師達が到着する頃には、既にガルアナ軍は打ち破られていた。