誘拐2
人目も憚らず帝都上空を飛ぶ。
とにかく急がなくては。
ブーストを掛けた飛行魔法でラミュの元へと急ぐ。
無駄に帝都が大きく入り組んでいるせいでなかなかラミュの所まで辿り着けなかったが、なんとかそれらしき所を見つけるに至った。
ドアを蹴破って建物に入る。
恐らく何かの工場だったのだろう。
入るとそこには後ろ手に縛られたラミュと...あれはペットコボルトか? それに加えて男が数人。
ペットコボルト。言ってしまえば前世で言う所の犬だ。
この世界では犬や猫等何かしらの力を持たない生き物は居ない。
この世界に生息するモノの殆どはモンスターだからだ。
しかしモンスターとは言っても生き物。
品種改良的なモノも出来るし、上手く行けばモンスターとの友好関係を築くことだって可能だ。
あのペットコボルトは長年品種改良を重ねて出来た、魔法も使えず牙も無くなった......とどのつまり犬だ。
ペットコボルトを庇う様子を見せるラミュ。
なんとなくだが分かったぞ。
ラミュは青ざめた顔をしていたが、此方に気づいたようで直ぐに顔を綻ばせた。
「な、なんだお前は!?」
男の内の一人が此方を振り向く。
問答無用、風魔法にブーストを使い、エアショットで一人を除いた男全員を撃ち飛ばす。
雑に固めた風を撃ち飛ばすだけの魔法。しかし、ブーストを受けた俺の風魔法ならば建物一つ吹き飛ばせるようになってしまうので、威力、範囲共に手加減をする。
その中で一人だけ、ある男が俺のエアショットを防いでいた。
大きく手加減したとは言え...エアショットを止めたとは。
あの赤髪の男......。
「なんだなんだ? 今ので俺達全員を倒そうなんて思ってたのか? そんなんじゃ俺は倒せねぇ。なんたって俺は――」
もう少し威力を上げたエアショットで男の頭を撃ち抜く。
それだけで男は大きな音を上げ地面に崩れ落ちた。
「ノ、ノア様ぁ...!」
泣きじゃくりながら俺に抱き着いてくるラミュ。
「私...私...怖かった...ごめんなさい...そこの男の人達がペットコボルトを連れ去ろうとしていたから...!」
男たちに連れ去られかけていた犬を助けようとしたらラミュも捕まってしまった...と。
しかしペットコボルトを連れ去るってどういうことだよ。
ただ...ラミュに拘束された事以外大した外傷がなくてよかった。
「もう大丈夫だぞ、ラミュ」
「ひぐ...」
その後、ラミュが落ち着くまで頭を撫でてやった。
ついでに精神的回復魔法。聖魔法と言う聖女クラスでないと使えない魔法。
俺もブースト無しだと発動しても効果が出ないくらい貧弱だろう。そのくらい難しい。
で...犬を連れ去るとはどういう事なのか...。
「おい、起きろ」
そう言いながら水魔法で水を作り、赤髪の男にぶちまける。ブーストなんか使う訳ないだろ。
「...ハッ...今何が...。お、お前! 一体何を...」
「質問する。何故あんなちっぽけなペットコボルトなんかを連れ去ろうとなんてしたんだ?」
「ちっぽけなんかじゃないぞ! あのペットコボルトは貴族の家からこっそり連れ去ってきたモノなんだぞ! コイツを殺されたくなければ金を寄越せって脅す筈だったのに...クソが!」
「アホか」
「アッ...!?」
「冷静に考えてみろ。ペットコボルト一匹に金を差し出す貴族が居ると思うのか? 新しく買った方が速いだろうし、どうしても取り返したいならランクの高い冒険者にでも依頼を出すだろうが。」
「あっ...」
嘘だろコイツ...。
「...まあ未遂で終わったんだからコボルトについての刑罰は軽いんじゃないか?」
「そうか...そうだ――」
「ただな――お前達に痛めつけられた俺にの従者についての落とし前はどうするつもりなんだ?」
「ヒッ...!?」
いきなり雰囲気が変わった俺に対して青ざめ、怯えた表情を見せる赤髪。
「コボルトの事が許されたとしても...俺はお前達を許さない...」
「そ、そんな...」
「俺の髪色に目の色で何か気づくことはないのか?」
「黒髪に黒目...ま、まさか...!?」
「そのまさか、だ。流石に帝国でおおっぴらに好き勝手は出来ないが、お前ら数人くらいなら生かすも殺すも自由だと思え...」
「す、すみません! 許して下さい! 王子様の従者だったなんて知ってたなら手なんて出しませんでした!」
「...お前は王子の従者以外なら手を出すのか?」
「い、いや...」
「ノア様...もう止めてあげて下さい!」
対話を続けていると、ラミュが間に入ってきた。
「この人だって反省している筈です! 私はノア様が助けに来てくれたからもう怒ってませんし、どうか許してあげて下さい...」
多分、ラミュは殺すとかの単語に反応して流石にマズイと仲裁に入ったのだろう。
だとしても優しい...いや、甘い。
...だがラミュがそう言うのなら...。
「...仕方がない。とっとと仲間を起こして去れ」
「ヒ、ヒィィィ!」
殺気を込めて睨みつけると、男は奇声...いや悲鳴を上げながら仲間を引き摺りどこかへ去って行った。
その後、ペットコボルトを探していた貴族の所の騎士にコボルトを渡し、宿へと戻った。
「ノア様...本当にありがとうございました」
「ラミュが無事ならいいんだ。そうだ、買い物は?」
「そうそう、これです!」
そう言って、ラミュが見せてきたのは...なんだこれ...。
いや、俺はこれを知っている...前世での記憶だが。
「メイド服...」
「へ、変でしょうか?」
「...多分似合うんじゃないか?」
実際にラミュがメイド服を着た姿を想像する...。
白と黒の生地に茶色の髪や目、耳が際立つ。
うーん、かわいい!
「多分じゃない、絶対似合う」
「本当でしょうか!? じゃあ着てきますね!」
そう言って、メイド服を着てきたラミュ。
すごくかわいかったです。