ノアルト・アルカディア
「ノアルト様、食事の準備がご用意出来ました」
「ああ、直ぐに行く」
侍女の呼び声に答え、俺は本を閉じた。
涼しい風が吹き付け、日光の当たる部屋。
豪華な装飾で彩られたこの部屋が俺の...ノアルトの部屋。
ノアルト・アルカディア。アルカディア王国の第一王子、それが俺だ。
第一王子と言うからには、俺が死ぬとかそんなんでもなければ次のアルカディア王国の国王になる訳だ...が、実は王宮内ではそれほど評価は高くない。
曰く、俺には「戦闘狂」だの「自由人」などと皮肉なのかどうなのかよく分からない別称が付いていたりするらしい。
自由人、と言う点については否定するつもりは無い。
次期国王ではあるが、政治について全く勉学を行わず、冒険者として国内を飛び回り、それを国王は咎めもしない。国王だって俺に何も制約を課さない訳ではないが。そんな俺の姿を見れば、そりゃあ自由だなぁ、くらいには思うのが普通だろう。
自分で分かってるなら改善しろよ、と思うことも無くは無いのだが...正直俺一人で政治を回す訳ではないし、そこらへんは未来の優秀な我が側近に任せることにしているのだ。...まだ側近と呼べる人材なんて誰一人として見つけていないがな。
ただ戦闘狂、というのはいささか語弊があるように感じるぞ?
俺はそれこそ冒険者として各地を飛び回り魔物を狩ってはいるが、その魔物とは村や町に大きな被害を及ぼす強大な魔物...討伐ランクの高い魔物ばかりだ。
それは勿論国民の為。仮に俺が国王になったときに人民が全くいない国になっていたら困るのは俺だしな。
人民に被害が出るような魔物だけをターゲットにしていると、それが大体とんでもない強さの魔物だったりするので俺が戦闘狂というレッテルが貼られているのだろうが、正直見当違いだ、と声を大にして叫びたい。
活動の成果なのか、幸いにも、話を聞く限りでは、俺に対する国民の支持や人気は非常に大きいらしい。
食事を取りながら、そんなことを考える。
上の文面だけ見れば、俺は王宮に居る暇もないような多忙人なのだが、今は全く訳が違う。
これまで俺の冒険者活動に何も口を出さなかった国王...父が、俺に冒険者活動を一旦停止し、王都で待機するよう命令したのだ。
国王命令なので、次期国王とは言えまだ王子の身である俺は命令を無視することは不可能。まあ長年の魔物討伐により、国内での魔物被害数は減り、ここ最近ではほぼ0に等しい程に減少していたので何も文句はない。
しかしこの命令、何か裏があるだろう。別に俺に直接危害を加えるような裏ではないと思うが。
冒険者をやっていれば、少なからず周りの国の情報も耳に入って来るものだ。
どうやら西の国、アルヴェル帝国で不穏な動きがちらほらと見えるようだ。
食後に国王に呼ばれ、謁見の間へ通される。
「ノアルト、ここに残って貰ったのは他でもなく、アルヴェル帝国での事だ。各地を飛び回っていたのであるから、お前の耳にも入っているだろう」
黒髪の中年である国王、そして俺の父であるヘヴォルト・アルカディアはそう俺に聞いてきた。
「勿論耳に入っております。そして、この度は私めにどんな御用でしょうか?」
「...アルヴェルでは近々不穏な動きが見えている。それこそ主に軍事的な強化が著しいと聞いた。...これが何を意味するか、分かるであろう。お前には万が一を考え、そして場合によっては兵を率いてアルヴェルの制圧に尽力してもらう」
「はっ」
俺は国王の言葉に短く声を返した。