そのろく 海竜王の息子と羽虫
海竜王の息子は、ふと思った。
自分はたしか、誇り高き海竜王の息子だと。
「違う!これじゃない!ホンシロマグロをつりたいの!俺!」
駄々をこねて喚く小僧の網に捕まったのが、運の月。
あれから10年、ずっと小僧の子分扱い。
オレ、たしかコイツより300年は長く生きてる。
これでも海竜王の息子、確か跡継ぎ、
な、はず。
海の平和守るためのチョウオンパ。
小僧にギョグンタンチキ、扱い、
チョウオンパ。
ーこいつ、食ってもいいのかな?
「やった!でっかい!さすが!ポチ!」
ニッカって白い歯見せる小僧。
ーオレの名前、ポチだっけ?
確か海竜王の誇り高き息子のはず。
「あっ!ウィル!ーなんだ?その虫、食えんのか?」
港まで、船に乗らないグシラ運んでやったなら、
小僧のシンユー走ってた。
黒髪の頭上をブンブン、金色のヤツ飛んでいる。
「そっかあ、卵残念だったなあ。子持ちオオシャモならいるけど、いる?」
小僧と同じ背丈のひょろ長い魚を差し出すと、
「あっ、こらっ!ウィルにやったのに」
ブンブン羽虫がぱくん、と食べた。
「すっげえな、コイツより3倍でっかい魚一気に食べたぜ」
ケラケラ笑う、小僧の前で、しょんぼりシンユーまた、走って行く。
「あれ?あの、虫さっきよりデカくなってないか?」
小首を傾げた小僧、オレをみる。
「まあ、お前もでっかくなったしな」
そりゃ、そうだ。
オレ、これでも海竜王の誇り高き息子。
いずれ、海竜王になる息子。
お化けクジラよりでかいオレ。
たぶん、小型化していなければ、アークレッドよりでかい。
なんで、あの日、オレ、小型化してあそんでたんだろ。
オトヒメサマのカメいじめなきゃよかった。
遠い目をするオレにホンシロマグロ飛んでくる。
「今日もありがとうな、ポチ」
ニカッと白い歯。優しい笑顔。
なんかほんわかせる胸の内。
ほんわかほわほわ、
まるじゅうねん。
ま、いっか。の、
このじゅうねん。
「あの羽虫って、金色の海みたいにきれいだったなあ。ポチの青銀の身体もカッコイイけど、あるはあれでかっこいいよな」
のんびりイカリおろす小僧。
今日こそ、言っておきたい事がある。
オレは、誇り高き海竜王の息子で、あいつは羽虫じゃない。
きっと、空を統べるヤツの子供。
「うまいのかな?」
だから、食うな。
今日も今日とて、こき使われる。
オレ、海竜王の誇り高き息子。
名前は、ポチ。
アークレッドの悪ガキ漁師、
レオの海の相棒。
で、
ー守護竜。