そのいち 中庭でお姫様は婚約者に驚く
その日、いつもニコニコ優しい笑顔の婚約者がしょんぼりした顔で現れたから、大国リオンのお姫様、ティアラ・ベル・リオンは驚いた。
黒曜石にきれいな可愛い女の子のように、くりくりお目目の、誰よりも愛しい存在ウィル・フィル。
いつもほんわか、ニコニコ笑顔のウィル・フィル。
1週間ぶりに会ったのに、しょんぼりと肩をおとしていて、
(しょんぼりウィル王子様も可愛いわ)
実はその姿さえときめく恋する乙女なお姫様。
実は、かわいい見た目とは反対の、そこそこ腹黒お姫様。
たったひとりの大国リオンのお姫様。
腹黒に育ってないと、国滅ぶ。
「どうかなさったのですか?お元気がないようですけど」
もちろん、婚約者には猫被り、胸のまえで両手を組み合わせて、うるうる緑の瞳で婚約者を見上げる。
(あら?また、背がのびたのね。小さなウィル王子様も素敵だけど、見上げるのも新鮮だわ)
ウィルなら、なにをやっても許せるお姫様、そんなお姫様と相思相愛、バカップルなウィル・フィル。
うるうるお姫様(もちろん計算)にノックアウト。
しょんぼりから一転、でれ〜としまりない顔になる。
でも、返事をしようとしてまた、しょんぼり。
「ウィル王子様?」
あまりの落ち込み方にティアも心配になってきた。
「…卵が空から降ってきたんだけど」
ボツボツと語り出したアークレッドの少年。
その話の内容に、ティアラ以下、その中庭にいた護衛も侍女も吹きだすのを、こらえるのが大変だった。
これは、そんなウィル・フィルの災難なお話。
ーただ、卵料理が食べたいだけなのに。