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無理ゲークリアしたらゾンビ世界になってしまったのですが*  作者: 夢乃
第4章【ステージ1.5/サチ&リョウ】
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第94話【進展はいつも唐突だ】

 それからリョウとトオルは喧嘩を始めた挙句、お互いに気絶してしまった。気付いた時には保健室のベッドで寝ていたことは言うまでもない。どうやら八柳先輩がここまで運んでくれたようだ。


 そして理解できない。


 俺とトオルは同じベッドで寝ており、互いに縛られて身動きが取れない状況だった。横でいたずらを楽しむ八柳先輩の姿が映り、冷や汗を流しながら声をかける。トオルは心地よさそうな寝顔を浮かべて、夢の中にダイブ中だ。


「えっと……なんで縛られてるんですか?」


「本当は裸で一緒に寝てあげても良かったんだけどね。ほかの生徒達をまとめる私としては、そう言った女性らしいことはしてあげられないんだよ」


 それは残念だ。


 などと考えながら悲しい表情を浮かべるが、やはり分からない。


 なぜ縛られている?


「それは残念です……じゃぁ、なんで縛られてるんですか?」


「そりゃーそうでしょ? あなたが少しでも変なことをすれば私達が死ぬ可能性があるんだから……ね? リョウ君」


 どうやら知らず知らずのうちに危険物扱いされてしまったようだ。トイレの破壊と屋上出入口付近の破壊……確かに縛られるには十分すぎる理由かもしれない。弁償を要求されれば死ぬ気で働く自信があった。


「喧嘩を売って来たのはそっちで、縛られるのはちょっと……」


「分かってる。それについては謝罪しよう――ごめんなさい」


 律儀に頭を下げる辺りが好印象を与えた。こういったことを素直に出来るから周りの生徒に支持されているのだろう。八柳先輩の黒い噂話を無数に聞いたことがある。しかしその内容と目の前にいる人物が重なることは無かった。


 所詮は噂話か。


「これでチャラにしてくれとは言わないよ。でも私達も命がかかってるからね……リョウ君とトオル君にはこの学校の先頭に立ってほしいな」


「あはは、八柳先輩も冗談を言うんっすね」


 高校二年生に上がったばかりの俺をこの学校のリーダーに? それも勉強が出来るわけでもなければ、メリケンサックが無ければ決して強いとは言えない人間を。なったところで他の生徒達が納得しないだろう。


「あぁ、冗談に聞こえちゃった?」


 八柳先輩がゆっくりとリョウから離れて隣のベッドに近づいた。そしてリョウは視線を追っていき、隣のベッドで誰かが寝ている事に気付く。季節にそぐわない冬用の羽毛布団で全身を覆っており、顔が見えない。


「誰かがそっちで寝ていたから俺とトオルが一緒に寝てるのか」


 そんな独り言をポツリと零しながら異臭に気付く。保健室の窓は全開で空いており、生温かな微風が心地よく顔を冷やしてくれている。にも関わらず、保健室は異臭が漂っていた。


 これ、何の匂いだ?


 八柳先輩が隣のベッドに近づき、羽毛布団を持ち上げた。


 そしてその光景に目を見開く。


「嘘だろ!? ――ゲホっ! うおぇっ…… はぁはぁはぁ」


 リョウは死刑執行される罪人のような表情を浮かべながら慌ててその場を逃げ出そうとしたが、体中に巻かれた拘束が外れない。激しく暴れまわりながら、八柳先輩に懇願するような視線を送る。


 隣で綺麗に腹部を切り開いた『体育教師の岡田』が寝ていた。


 人間の体の中身なんて小学校の教科書でしか見たことが無い。大腸や心臓や肺が綺麗に残っており、岡部の目玉がベッドの奥に設置されているステンレストレーに置かれていた。喉は長い釘が刺さっており、両手足は雑に切り離されている。


 暴れまわることは無いが、ピクピクと岡部が肉体を動かそうとしていた。


「いきなりこんなグロテスクな物を見せてごめんね。生きるためにゾンビの事は知っておかないといけないから……ね!」


「ね! じゃないだろ!? あんた、何てことを!! 人を殺すなんて」


「実はね……このゾンビはまだ生きてるんだよ」


 八柳先輩の説明は何一つ頭に入らなかった。何だかんだ優しい人だと思っていたのにこれだ。人間の体の中身を観察しながら液体ヘリウムのような視線を向けている。少しの罪悪感も抱いていない……これが正しいことだと本気で思っている目だ。


「俺らも殺すのかよ!?」


「殺さないよ? 言ったでしょ……学校のリーダーになってほしいって」


「冗談でしょう? 他の生徒が認めないに決まってる」


「別に表立って何かしてもらう訳じゃない。リョウ君にはこの学校の最終兵器になってほしいんだよ? 君の力は素晴らしい! ――『これからイレギュラーな事態は必ずやって来る』私は岡部先生の脳みそを潰したんだけど、それでもこの肉体は死んでない。多分――ゾンビは殺せない」


「それって遠回しに死ねって言ってるじゃないですか!?」


「いいや、私以外の生徒達を守ってほしいんだよ」


 言い回しの上手い人だなと思った。灰色のロングヘアを微風で靡かせており、片手をリョウに伸ばしながら「私とリョウが協力すればきっと上手くいく」などと宗教の勧誘にありそうな誘い文句を口にする。


「もしも嫌だと言ったら?」


「リョウ君の両腕を切断してその兵器を私が使う。さすがに君の血肉を全てえぐり出せば使えるようになるでしょ?」


「ふざけんなよ。脅迫だろ……こんなの」


「そうだね、それにこの場で同意しても裏切られる可能性が高い。どうやって対応しようか色々と悩んだんだけど……リョウ君がこの学校から逃げ出したら生徒を五人殺そうと思う。その動画を君達にプレゼントするよ! もちろん、リョウ君やトオル君とは全く関係が無い生徒達だから、裏切ってもいいけど……人としては終わってるね」


「どっちが!? クズ過ぎんだろ!」


「トロッコ問題を知ってるかな? ちょっと違うけど、優秀な人材一人をこの学校に残す為なら、私は凡人を五人切り捨てる。勘違いしないでほしいけど、私はリョウ君を学校に残すためにこんなことを言っているだけだよ? 君が望むなら私の体を好きに扱ってくれても構わない……ほかの女子生徒を望むなら私が何とかしよう」


「聞きたくない。そんなクソみたいな話」


「リョウ君ならそう言うだろうね。――好きだよ……そういうの。誠意をもってお願いする事も考えたんだけど、私は臆病だからこんなやり方しか思いつかないんだよ」


 肩をガックリと落しながら落ち込んでいる。しかしグロテスクな光景と一緒に見ると何ともサイコパスな女にしか見えない。生徒を守りたいと言う気持ちは本当なんだろうが、それが空回りしているように見えた。


 多分、俺が逃げ出しても生徒を殺さない。


 この人は大勢を救うために少数を殺すことは躊躇わないだろう。そのためなら血の泉を全身に浴びることも厭わない。――何かしらのルールを自分の中に持っている。


「不器用すぎるだろ。――まぁ行く当てなんてないんで、しばらくなら」


「今はそれだけ聞ければいいかな。逃げる時は一言言ってほしい」


「言ったらどうなるんです?」


「逃がさないよ。安全が保障されるまでね」


「最悪だ」


「ふふ、私は狙った異性を逃したこと無いんだ」


 八柳先輩はそういうと、リョウとトオルを縛り付けていた縄を切り裂く。自由に体中を動かしながら背伸びした。そしてベッドから距離を取って、ゾンビになった岡田から離れていく。こんな死体を見せた理由が分からず、気付いた時には質問を投げかけていた。


「それで、何でこんなものを俺に見せるんですか?」


「ゾンビについて分かったことをリョウ君には知ってもらいたくてね」


 そういうと八柳先輩はゾンビについて語り始める。ゾンビは基本的に音を頼りに動いており、視覚による情報は二割程度だと言った。段差がある階段などは四足歩行で登るらしく、降りる時は転がり落ちる。そして肉体が少しずつ再生しているらしい。


「あり得ない……映画じゃないんだ」


「いいや、これは事実だよ? それに面白い物を見つけたんだよ」


 ステンレストレーに置かれた目玉の横に『赤黒い宝石』が置かれている。八柳先輩はそれを手に握りしめてリョウに見せつけた。


「それは?」


「心臓の中から出てきたんだよ。鉱石のような形をした謎の物体だね。ハンマーで叩いたりしたんだけどビクともしない……そして岡部先生からこの宝石を遠ざけると生命活動が停止する。近づけるとまた心臓が動き出すんだけどね」


「それが何だって言うんです?」


「頭を使わないと……これはゾンビの核だよ。これが無いとゾンビは生きられないのかもしれない。まだ仮説の段階だから何とも言えないけどね」


 リョウはかなり分かりやすい説明を理解できなかった。仮説なんて単語を今まで聞いたことが無く、その意味も分かっていない。とりあえず物凄い硬い石が岡部の心臓から出てきた……っということだけ理解できている。


「それを壊すと?」


「あれ? 今説明しなかったかな。ゾンビが死ぬんだよ」


「ちょっとだけ見してもらってもいいですか?」


 物珍し気にリョウは八柳先輩からゾンビの核を受け取った。そんな説明をされたら少しだけ触ってみたくなるのが男の好奇心と言う奴だ。


「――パキ!」


「あ……!」

「――え?」


 そしてリョウは、うっかりその核を破壊してしまった。リアルフェイスになりながら驚愕のあまり、青白い表情を浮かべて鼻水を垂らしている。目を見開きながら手先が震えてしまい、灰となったゾンビの核が指先から零れ落ちた。


「――俺……やちゃったの?」


 軽く触れただけで壊れてしまうほど脆いなんて聞いてない。まるでトロトロのプリンを触っているように型崩れした。その光景に八柳先輩が面白いほど不敵な笑みを浮かべており、活動を停止した岡部の表情を見ながら「これは希望だわ」などと意味が分からない事を言っている。


 そして死体の前で棒立ちをしているリョウと八柳先輩を、軽蔑した視線で見つめる少年が一人。目覚めたばかりのトオルだ。目を覚ましたら親友であるリョウが死体の前でやっちまった感を出しており、八柳先輩がめちゃくちゃ怖い表情を浮かべながら笑ってやがる。


「嘘だろ……リョウ。お前――岡部にそんなエグイことしたのかよ」


 リョウは慌てて背後を振り向く。

 そして目覚めていたトオルに動揺する。


「!? ――ち、違うって……これは俺じゃない」


「じゃあ何でそんなやっちまった感出してんだよ」


「岡部を殺しちまったかもしれないんだ……」


「やってんじゃねーか!?」


「だから違うって!!」


「そんなサイコパス野郎だとは思わなかったぜ。人殺しかよ」


「これはゾンビで、もともと死んでんだろ!」


「やり方があるだろ!? 人間としての!!」


「だからこれをやったのは俺じゃないんだって!」


「さっき認めたじゃねーか」


「トオル! めんどくせーからぶっ飛ばすぞ!?」


「上等だ、馬鹿野郎! その腐った性根を叩き直してやるよ」


 それから昨夜の続きが始まってしまったが、止める者はいない。八柳はリョウが付けているメリケンサックを見ながら鋭い視線を送っており、考え込むように今後の予定について模索していた。


 それから数日ほどトオルの誤解を解くために時間を必要としたが、そんな些細な話を続けても仕方がない。生徒たちの協力で要塞のように隔離された校舎の中は確かに安全だった。八柳先輩が一部の生徒を連れてコンビニや近隣の住宅から大量の食料を調達しており、全校生徒のスマートフォンを使った『アラーム』によるゾンビの誘導で、学校付近にゾンビが近づくことは無い。


 スマートフォンをパソコン室に置いてあったスピーカーに繋げて、予定の時間が来ると大音量が決められた秒数だけ鳴り続けるらしい。詳しくは知らないが、一部の生徒を覗いてほとんどの生徒が没収された。


 それを既に壊滅した住宅にセットすることで、充電しながらゾンビを疎らに誘導している。八柳先輩が考案した『ゾンビ誘導システム』だ。


 これは後に人類が生きる上で必要となる大きな功績の一つ。


 皆音カオリも自衛隊駐屯地の領土を拡大しながら楽園――【円卓のマビノギオン】を生み出すうえで同じような方法を取ったとされている。しかしそれはまた、別の機会に。


 この物語が劇的な進展を迎えたのは『4月12日(月曜日)/12時20分』頃である。普段通りの何気ない生活が始まると思っていた。八柳先輩が言っていた「これからイレギュラーな事態は必ずやって来る」なんて言葉を忘れていた頃だ。


 八柳先輩を含めた百名近くの生徒が出払っている。


 残りの生徒や教師は、大型のホームセンターから調達した金属板で学校の柵を補強しており、見た目だけで判断するならそれはもう学校じゃない。それぞれの生徒も自分の役割を何となく理解しており、ヤンキーばかりの馬鹿学校は学生運動でもしているんじゃないかと思えるほど、目的が一致した自由な場所になっている。


 夜中にバーベキューをしたり、年齢を過ぎていないのにお酒を飲んだりもしていた。そう言った小さなイベントが学生や教師の団結力やストレスの解消になっており、命を懸けた戦場に足を運ぶ生徒も少しずつだが増えている。


 ――悪い言い方をするなら、気が緩んでいた。


 だからだろうか?


 校庭の真ん中で立ち尽くす化け物の姿に、誰も反応できなかった。


読んでいただき、ありがとうございます!!

最近はほとんど投稿出来ず、本当にすいませんでした。

4月前ということで、色々と代わる代わるな季節になっております。

……夢乃もいい感じにその流れに巻き込まれておりまして、リアルで右往左往している真っ最中です。ある程度落ち着くまでは投稿できない事も増えると思いますが、出来るだけ毎日書こうと思います。

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