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無理ゲークリアしたらゾンビ世界になってしまったのですが*  作者: 夢乃
第4章【ステージ1.4/リョウ&ナナ】
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第64話【きっかけは気付かぬ内に】

いや、二か月以上更新できないとか終わってるわ……本当に久しぶりの投稿です。

夜中に時間作らないと書けないほど時間がない現在……いや、死ぬって!

読者が存在しているかは知りませんが本当に申し訳ございません!!


六月から本気出す!

(絶対本気出さない奴の台詞ですが、ちょっとマジで気合入れ直さないと)


 この世界は宝石で溢れていた。


 神々しく光り輝く宝石を手に入れるために、人々はそれぞれの一歩を踏み出す。しかしそれは、人間が価値を付けていい物じゃない。だが人間は『基準』や『自らの宝石』の希少価値を高めるため、不必要な宝石に烙印を押した。


 それは人間の本能である。


 烙印を押された宝石は石へと変わり、誰からも見られずに消えていく。だから人々はそんな石の存在に気付けないのだ。


 それはとても儚く、今にも消えてしまいそうな小石。


 泥だらけに汚れいる小石は、泣きながら自分の気持ちを叫んでいる。他の人間が見たら間違えなく滑稽なワンマンショーを見ているように映るだろう。


 笑わない人間がいるとしたら、世間で烙印を押された同類だけだ。しかし世界は烙印同士を切り離すのが上手いらしい。どんなに頑張っても、その手は重力を受けたように引き離されてしまう。


 だから誰にも見つけられず、誰も手を伸ばそうとしない。


 その泥を拭って足掻き続きる同類だけが、本当の輝きを知ることが出来る。海外では『桜』は汚い花だと言われていたが、その『泥だらけな宝石』が日本人にとっての『桜』に匹敵するのだろうか?


 それはこの物語を読んでから判断して欲しい。


■□■□


 『人間の人生は最終的に幸せと不幸がプラマイゼロで終わる』なんて、そんなふざけた話を一度ぐらいは聞いたことがあると思う。私はひねくれた人間じゃないけど、その言葉が本当だとは思わない。


 じゃあ、自殺した人間の幸せと不幸もプラマイゼロ?


 あり得ない。この言葉を考えた人間はきっと、人生が最高に楽しかったからそんなことが言えるんだよ。


 そして私の容姿は他の女性と比べてそこまで悪くないと思う。唯一欠点を述べるなら『身長と体付き』が二十代とは思えないほど幼い。コンビニでお酒を買った日には、店員が「身分証明書をお持ちですか?」などと言う台詞を省略して「お酒は子供に売っちゃいけないんだよ」っと言うほどだ。


 少し話を盛りすぎたかな? それに本題から逸れた。まぁ、本題なんて別にないんだけどね。


 部屋に置いてある鏡を見ながら、私はそんなことを考えていた。


 机の上に置いてあるノートパソコンにはゲーム画面が映し出されており、左下に記載されたチャット画面に視線を移して『はにかんだ笑顔』を浮かべる。


《チャット(リア):あなたが五人目ですね》

《チャット(サッチー):おぉ!? 燃えてくるぜぇよぉ!》

《チャット(カイト):あと半分でボス戦……》

《チャット(バルベラ):あと五人ですか。長いですね》


《チャット(リア):東京進出おめでとうございます!》

《チャット(ロノウェ):他にプレイヤーがいたなんて知りませんでした》

《チャット(リア):世界は広いということです♪》

《チャット(ロノウェ):これからよろしくお願いします》


【ロノウェ】――深い意味がある名前じゃない。


 これが私に許された唯一の才能なのだろう。それがゲームでも構わないと思ってしまった。この才能が素性の知れない四人の背中を押せるなら、それは私にとって生きる意味になるのだから。


 これは【桜井ナナ】のおまけを描いた物語。


 私の人生は『学校の屋上』で終了していたはずだから、これは『おまけ』なんです。そう思わないと、あまりにも残酷じゃないですか?


「――やっと始まったのに……」


 ナナはゆっくりと机の片隅に置かれているボールペンを持って、考え込みながら日記帳に今日の出来事をつづった。


■□■□


【《一年半前》8月6日(火曜日)/0時51分】


 赤色の髪が特徴的で、その髪型はハリネズミのように逆立っている。瞳がまぶたを覆い隠しており、目付きも鋭い。しかし鍛え抜かれた体付きは誰が見ても惚れ惚れするレベルに到達していた。


 まぁ、一言で言ってしまえば『不良』と言えなくもない。

 【熱意リョウ】とはそういう男だ。


 電話越しで聞こえる【トオル】の声は、アルコールが回って呂律が単調になっている。楽しそうに言葉を並べており、行くとは言っていないが気付いた時には自宅を出る準備を整えていた。


 玄関前のドアを開けると、生暖かい夜風とゴミのように浮かんでいる星空がリョウを包み込んだ。白黒の星空が地球を包み込んでおり、目に見える星々は全て同じ惑星に思える。


「はぁ、まるで白黒の世界だな」


『喧嘩が理由で高校を中退』してからと言うもの、まるで地球が小さくなったように毎日が急速に消化されていく。一歩また一歩と踏み出す感覚は心臓の高鳴りに変わって、漆黒の海に沈んでいくように不安と焦りをリョウに与える。


 気付いた時には二十代になっていた。


 そんな不安や焦りを拭う為にリョウには逃げ道が必要だった。それは友人やお酒やタバコ……なんでもいい。それが最も手軽で、言い訳や理想を語る場に適していただけだ。


 ――つまり俺は、あの頃から一歩も踏み出せていない。


 そんな自分を変えたいとは思っている。

 だが、変えるための『きっかけ』が存在しない。

 変えられない現状でやれる事をやっている。


「他人任せだな」


 自分から動こうとしないくせに他人にきっかけを求める自分が嫌いだ。友人が集まった場で、理想を語る自分が嫌いだ。現状を理解しようともせず『白黒』と表現してしまう感受性の無い自分自身が死ぬほど嫌いだ。


 そして数十分ほど徒歩を進めてたどり着いた場所は、廃墟となっている格納倉庫だ。金属系サイディングで出来た外壁は所々が錆びついており、出入口シャッターの正面には黒塗りの自動車やバイクが数台ほど駐車されていた。


 それが先輩や友人の物であることを片目で確認して中へと入る。


 錆び付いたドラム缶が出来損ないの芸術作品のように積まれており、転がり回る酒瓶がリョウの足元で止まった。


「クズのたまり場かよ……(まるでドラマの撮影現場だな)」


 そしてドラム缶でキャンプファイヤーをしながら大爆笑で賑わっている集団を発見。見覚えのある後姿に近づいてき声をかける。


「来たぜ?」


 落ち着いたリョウの声色を一早く察知したトオルが『待ってました』と言わんばかりに手招きをしながら大声を上げた。その両手にはウイスキーのラベルが張られたお酒と、ウォッカのラベルが張られたお酒が握られている。


 中身がラベル通りとは限らない。


「うぉおい!! 待ってましたぁ~! リョウのご到着でぇ~す」


 アルコールの異臭と汗の匂いが充満している。真夏にキャンプファイヤーをする時点で、ここにいる半数以上がまともじゃない。警察のお節介に巻き込まれた者がほとんどだろう。


「どいつも出来上がってんじゃねーか! トオル、酒は残ってるか?」


「ウォッカとウイスキーどっちがいい!?」


「っ!? どれだけ飲んだんだよ。――ハイボール」


「リョウはウォッカとウイスキー割のウーロンハイがご所望だ!! 誰か作ってやってくれ!? 俺はもうだめだぁ……リョウが遅いから寝るぅ!」


「「「「「「ふぉぉぉぉおおおおお!」」」」」」


「死ねよ(ここは動物園か!?)」


 しかしこの明るい雰囲気は嫌いじゃない。この集まりはトオルと【ダイキ先輩】が高校時代に作ったものである。高校を中退したリョウだが、トオルとの関係は現在進行形で続いていた。


 まぁ、何とか居場所を与えてもらっている感じだけど。


 基本的にトオル以外と話す機会は少ない。お酒を飲んで雰囲気を楽しんでればいいだけなので、意外とのんびりできてしまえる。それに歩いて来れる距離なので、お金を一切かけていない原付バイクを見せる必要もない。


 それから一時間ほどタダ酒を飲み続けたリョウは格納倉庫の片隅で倒れ込んでいる少女に視線を奪われていた。しかしダイキ先輩を含めた元上級生の方々に囲われていたため、視線を外して元同級生に声をかける。


「なぁ、あそこにいる女はなんだ?」


 とても幼い見た目をしている。

 高校生? 下手をすると中学生の可能性もある。


 容姿はそこまで悪くない。しかし表情が暗く、自分の殻に閉じこもったヤドカリのように身を小さくしながらパーソナルスペースを広げようとしていた。


「気にすんな……ダイキ先輩の誘いを断った馬鹿だよ」


「(なるほど)――そういうことはしない人だと思ってたんだが」


「気持ちは分かる。最近の先輩たちは【八柳家】の影響で治安維持が強化されてるらしいから、色々と自由に出来ないんだろ?」


「八柳家?」


「詳しくは知らん」


「治安維持が聞いて呆れるな」


 名前もうろ覚えな元同級生に「リョウはああいうの嫌いだろ? 頼むからダイキ先輩に喧嘩を売るような馬鹿はするなよ」などと注意を受けてしまった。どうやら高校を中退した『原因』について知っているようだ。


 学校の屋上で話した幼い少女の姿がフラッシュバックする。


 名前も顔も覚えてはいない。一時的な気の迷いで人生に大きな汚点を付けてしまった黒歴史だ。見て見ぬふりをして学校生活を送っていれば良かったと後悔している。


 酔い潰れていたトオルを片目に、少女に視線を再度向けた。


 その少女は引き千切られた自らの衣服で大切な部分を一生懸命隠している。しかし数名の元先輩達に股を開かれて、あられもない姿で縛られてしまう。下を向きながら絶望した表情を浮かべており、瞳に涙の粒を溜めながら子供のように泣いている。


 小さな抵抗は儚く消え去り、オブジェのように身動きが取れない少女は控えめに言って『女性として』終わっていた。汚い靴が少女の頭に押し付けられ、綺麗に整えられた髪は泥に塗れていく。


 まるで滑稽なショーを見ている気分だ。


「記念撮影でもしとくかぁ?」


 そんな誰かの声が賛同と共にスマートフォンのシャッター音へと替わった。少女の心がパキッ! っと折れてしまい、人形のように動かなくなる。


 そしてダイキ先輩たちの盛り上がりに水を刺す者はいない。ここで一歩を踏み出すような人間は必ず人生を後悔する。


 それをリョウは痛いほど理解していた。


 ――馬鹿だよ。どんな断り方をしたらダイキ先輩にここまでの仕打ちを受けるんだ? きっと男は女に手を出さないなんて理想を抱いて、強気な態度を取っていたに違いない。人間としての危機察知が足りない馬鹿が辱めを受けるだけ……そう、それだけだ。


 そして格納倉庫に元上級生達の声が響く。


「そろそろ中に入れちゃっていいかなぁあ!?」


「「「「ふぉぉぉぉおおおおお!!」」」」


「公開プレイはしっかり撮影しといてやるよ!」


「よろしくでぇ~す」


 空気に便乗する者。

 気にせず話し込んでいる者。

 その光景を遠目で眺める者。

 ため息をついて視線を逸らす者。


 しかし、その場で少女に手を伸ばす者はいなかった。


 だって仕方ないだろ? 相手はトオルと仲がいい先輩だ。それに比べて辱めを受けている少女は赤の他人……どちらの意見を尊重するのかなんて考えるまでもない。他人のために友人を犠牲に出来るか? 出来るわけないだろ!? それが間違っていたとしても、ここで口を挟むような空気の読めない奴になりたくはない。


 馬鹿な少女が一人、見えない傷を負って数十名の一時的な幸せになれるならそれでいいじゃないか? そのあと自殺したとしても俺達には関係のないことだ。勝手に死んだ自分自身の弱さを恨めばいい。


「――助けなくていいの? リョウ」


「っ!? ……?」


 真横から声が聞こえた。視線を向けるが、そこには爆睡しているトオルしかいない。手に持っているお酒はトオルの注文で放置されていた自称ウーロンハイ。何を考えているか分からない謎の多い奴だ。


 自称ウーロンハイを一気飲みしてグラスに映る自分の姿に呆れる。ビックリするほど良くできたハイボールだ。炭酸水が入っていたことに気付かないなんて、俺はどれほど周りが見えていなかったんだろうか?


「怒ってんのか? 俺が……馬鹿馬鹿しい」


 そして少女に視線を戻したリョウは目を見開く。


 少女の瞳は、涙の粒でコーティングされたガラス細工のように光を反射しており、宝石のように美しい。『女性として終わっていた』と言う表現を脳内で訂正する。


 中央に置かれたドラム缶から火の粉が「パチッ!」っと飛び散り、そこから漏れだす緩やかな光が少女の影を不規則に揺らしていた。そして格納倉庫の上階は汚い窓ガラスが設置されており、月明かりがいいタイミングで少女を照らしている。


 その瞳は一点を凝視していた。


 何を見ていたか?

 言うまでもない、俺だ。


 ――その視線は何度も重なる。


 泥に塗れた黒髪の隙間から覗かせる瞳は、間違えなくリョウを見ていた。まるで理想を押し付けるように、期待や救いを求める子羊のような視線だ。それは体中を触られながらも外れることは無い。


 ――最後の最後――壊れかけの希望を見つけたような反応。


 そして少女の姿を黙って凝視しているリョウに何人かの元同級生が声をかけた。嫌な予感を感じ取ったのかもしれない。


「リョウ、トオルが寝ちまったからテンション低いのか?」


「――……ちげぇ」


 ゆっくりと立ち上がり、ダイキ先輩達に近づく。


「おい、どこ行くんだよ?」


「――……うせぇ」


 慌てて止めに入る者もいたが、リョウの表情に動きを止めた。


「マジでやる気かよ?」


「――……」


「殺されんぞ?」


 助けるつもりなんて無い。誰が好き好んでお子様体形の少女を、場の空気を壊してまで助けたいと思う? この女が俺から視線を外さないから文句を言ってやるだけだ。それだけなんだよ。


 枯れた少女の声がポツリとリョウの聴覚に刺激を与える。


「――た……」


 同じ失敗は繰り返さない。


「――す……」


 トオルに迷惑がかかる。


「――けて……」


 だが、――酒の失敗は人生で一度ぐらい経験しておくべきだろう。


 そんなリョウの姿をトオルは半開きした目で見ている。親友がこれからどんな馬鹿をするのか気になった。狸寝入りをしつつ、その少女が誰なのかをトオルは理解している。


「運命って奴かな……桜井さん……リョウを呼んでよかった」


 そして格納倉庫に鈍い音が響き渡った。

 それは感情に身を任せた怒鳴り声に変わり……鉄パイプの音が響き渡る。


 トオルは狸寝入りをしながら「クスッ」っと笑い、少女は地面に頭を擦り付けながらリョウに近づく。出会いのきっかけが綺麗な物とは限らないが、ここまで散々なスタートも珍しい。


 結局リョウは、ダイキ先輩を殴ってしまった。


■□■□


【《一年半前》8月17日(火曜日)/12時00分】


 それから約十日ほど経過した現在。


 病院のベッドで寝ていたリョウは大好きなロックバンドの名曲を聴きながら、カート・コバーンと言う天才の人生について考えていた。イヤホンから流れる天才的なリズム、自分だけの世界観を持ったこの男に憧れてしまう。


 そんな名曲を自ら罵倒する辺りも好印象だ。


「Hello hello hello how low……Hello hello hello how low……」


 歌いながら骨折した日のことを思い出す。と言っても途中で気絶してしまったのでほとんど覚えていない。ダイキ先輩に殴りかかったところまでは覚えている。


 思い出すだけで反吐が出そうだ。


 出会いなんて物はゴミのように落ちている。だが絶対に失わない親友はなかなか手に入らない。何故なら液体のように指の隙間から関係が零れ落ちてしまうからだ。だから皆、長い年月をかけて液体を固体に変えるための関係を構築していくのだろう。


 トオルから連絡が届いて来ない事を考えると、どうやら俺の親友は液体となって指の隙間から零れ落ちてしまったらしい。毎日のように鳴り響いていたスマートフォンが、今は壊れたように静かだ。


 何とも言えない虚しさを感じる。


「結局やっちまった。もぉ~知らん! どうにでもなれ」


 音楽の世界に逃げ道を求めて、現実世界から自らを切り離すようにイヤホンで耳を塞ぐ。目を閉じて自分だけの世界を脳内で構築していた。


 自分の弱さに歯を食いしばっている。


 そんな時だ。


 【花桐アヤセ】と書かれた名札を胸元に付けている看護師が「空気の入れ替えをしますね」っとリョウの前を素通りした。その背後で開きっぱなしになっているスライド扉から可愛らしい少女がリョウに向かって走り出す。


 そして正面で止まると仁王立ちして声を上げた。


「あの……リョウさん!!」


「――……(もうトオルと遊ぶことはねぇのか)」


「えっと、熱意リョウさんだよね?」


「――……(ダイキ先輩殴っちまったし、人生終わったな。復讐とかされなきゃいいけど、最悪タコ殴りされて土下座コースか?)」


「無視!?」


「――……(海外に逃げるか。英語喋れないけど……『YES』と『NO』だけでなんとかなるだろ。海外に行くためのパスポートと金が無いけど)」


 しかしリョウはその少女の存在に気付いていない。両手を広げながらピョンピョン飛び跳ねているのだが、目を閉じて音楽を聴いている。少女は業を煮やして頬を真っ赤に染め上げながら大声を上げた。心臓がはち切れんばかりの声色だ。


「ね!! なにを聞いているんですかね!?」


 その声はイヤホンを突き抜けてリョウの鼓膜を貫く。肩を軽く揺さぶられて「ピクッ!」っと体中を震わせ、慌てて腰を起こしてベッドの横に立っている少女に視線を合わせた。


「うぉ! 誰だよ!?」


 目の前に立っている少女は水色の患者衣を着用しており、アニメに出てくるような桃色のロングヘア―をしていた。そして全開になった窓から勢いよく外の空気が入り込み、不規則に舞い上がる髪は『桜』のように靡いている。


「私ですか? 私は桜井ナナって言いますね!!」


 宝石のように輝く瞳と、それに負けないぐらいの明るい笑顔だ。


 なかなか印象に残る光景を見た……気がする。しかしナナと名乗った少女は、見た目にそぐわない大胆な性格だと第一声で判断できる。何とも残念な雰囲気

が漂っていた。


「――そうか。気負付けて自分のベッドに戻れよ」


「はぅ! えっと……あなたの名前を聞いてませんよね、ね!」


「なんでお前に言わなくちゃいけないんだよ?」


「うぅ……私も言いましたよね? 教えてくれてもいいんじゃないですかね!」


「『ね』を連呼するなよ。絶対に言いづらいだろ?」


「これは癖なんですよね。はぅあ!? も……もしかして! 語尾に『ね』を付けないと死んでしまう呪いにかかったのかもしれませんね……ね!! それなら説明が付きますね」


「そうか、だから病院に通ってるんだな。ご愁傷さま」


「そ……そんな!? 『ね』を連呼する病気ですか。ちょっと怖い」


「おい!! 今、語尾に『ね』を付けてなかっただろ!?」


「あ……付け忘れてないです。ねですもんね!! リョウさんは意地悪です」


「もういいって。ってあれ? なんで俺の名前知ってんだよ?」


「ふぅふぅふぅ、病院の入り口に名前の札が付いてました! はい残念! これからリョウさんをリョウと呼ぶ癖が私に付きました。病気一個追加です」


 絶対にやばい奴だ。それにこいつは名前の札を見に行っていない。いつから俺の名前を知ってたんだ? しかも語尾に『ね』を忘れてんぞ、おい! キャラ付けが適当すぎんだろ。


 ――それにこいつ、俺がどんな人間なのか知らないのかよ。暴力沙汰で入院してるんだぞ? 他の患者や看護師は誰も声をかけて来ないってのに。


「はぁ、なんで俺が病院のベッドで寝てるのか知らないのか? 他の患者に嫌われる前にさっさと出ていった方がいいぞ?」


「知ってますよ」


 ナナは真面目にそう言い放つと、それを誤魔化すように「――不良と殴り合いの喧嘩をしたんですよね? 赤色に染めた髪の毛、それに折れた両足。ヤンキーってやつですかね!?」などと苦笑いを浮かべた。


 否定するつもりは無いが、髪の色についてはナナも負けてない。


「お前だってピンク頭じゃん? ――ヤクザの娘かよ」


「えっへん! ヤンキーのリョウさんよりも上位に位置する私……かっこいい。でも違いますね。女心の読めない豚野郎はチンジャオロースになってから出直してください。そしたら食べてあげます」


「語尾はどうした? それにチンジャオロースは牛肉だろ。色々と頭がおかしいようだな」


「え、そうなんですか? って……フン! 別に間違えてないんだから! 我が家は豚肉で決まりなんだからね。 ――それにピンクに染めたこの髪も最近だから、勘違いしないでよね!!」


「なんでツンデレ風なんだよ!? (こいつちょっと面白いな)」


「勘違いしないでよね!!」


「ブゥフ! (同じことを二度言うな)」


 変な奴に絡まれちまった。何が面白くて俺はこんな奴と話してるんだ? それにこいつが着てる服って……元気そうに見えるけど病人なんだろ?


 しかしそんな考えはすぐに消えた。気付いた時には手遅れで、ナナはリョウの内側に入り込んで仁王立ちしながら自慢げに笑みを浮かべている。キャラ付けを崩壊させながらリョウの張り巡らしたパーソナルスペースを次々と破壊していく。


 両手では支えきれないほど大量の液体が降り注ぎ、リョウの世界を水没させる。人間関係と言う不確定な要素を液体で例えるならそういうことになってしまう。液体を固体に変える必要が無いほどに。


 だって――


「笑いましたね!? そう言えばリョウさんって、好きな料理とかあるんですかね? 病院のご飯は味が薄いですから」


「ん? 豚の角煮かな」


「やっぱり、豚野郎ですね! 世界最高の豚は空だって飛べますからリョウさんらしいと思います。――その翼で『羽もないのに空を飛ぼうとした馬鹿』を抱きしめて下さい」


「豚扱いってディスってんだろ!? それに意味が分からん!」


「分かる必要はありませんね。理解されたら私が悶絶して大変なことになります!」


「そうか、なら真面目に考えてみよう」


「え? って、冗談ですからリョウさん。あれ? 本気で考えてます!? やめ、やめい! やめろぉお!!」


 ――気付いた時には、リョウの方が笑っていたんだから。


読んでいただきありがとうございます!

更新日2021年5月24日

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