制服騒動
「ソラ~!ね、お願い!」
目の前でキラキラの笑顔を振りまく母、愛目璃(30歳)。その手の中には、恐ろしいものが握られている。
笑顔のまま、お母さんは私の方ににじり寄ってくる。目が笑っていないとはこういうことか。
それを理解した瞬間、私の意識は暗転した。
――時は少し前に遡る。
私はお母さんに呼ばれて、我が家のリビングに降りて行った。途中で父、流星に「がんばれ」と声をかけられてから嫌な予感はしてたのだけれど。
その『嫌な予感』は的中していた。いたのだけれど、あんなに恐ろしいとは思っていなかった。
そう…まさか、お母さんの中学校の制服を着るなんて!
お母さんの手の中には、劇物。ふわふわしたフリルが付いた紺のスカートに、襟と袖に細かいレースの付いた純白のブラウス。
20年以上経って染みひとつない保存技術には感心するけど、お母さん何するつもりなの?
手がわきわきしてますよー?
「ソラ、お願い!これ着て?」
「なんで?!」
「さっきこれ見つけてね、ソラに似合いそうだと思ったから♪」
「いや似合わないから!」
そんなロリータ服が似合うわけない!
自分で言うのもなんだけど、私はクールな感じの顔だちをしていると思う。美人かどうかは置いといて、決して可愛い系の顔ではないのだ。
ここ重要。
クールな顔立ちの人がロリータ服着たらどうなると思う?
違和感の塊になるんだよ!前もこんなことあったけど、そのとき自分でも似合わないって幻滅したし!!
お母さんもわかってるはずなのに、なんでなの?!
とにかく、抵抗を続けなければ…、と、思ったそのとき。
お母さんの顔が目の前にあった。そして、その手は首の後ろで揃えられていて…ってまさか!
ぱん、という快音が響き渡り、私はお母さんの手刀の一撃によって気を失った。
「おやすみ♪」
…おはようございます。
気を失っていたのは5分ぐらいだったみたいだけど、その間に私の格好は豹変していた。
身につけているのはあの制服。髪は上でまとめてポニーテールにしてたはずなんだけど、いつの間にか解かれてストレートヘアにされている。
何か変な感じがする…。お母さん何した?
そう思って、鏡を覗き込むと。
「どう?すごいでしょ?」
「ああ、うん…」
げんなりした。ものすごく、げんなりした。
私の髪には星の髪飾りがついていて、横に細い三つ編みが一本落ちている。どこかで見たことがあるような髪型だ。
髪型は制服に合ってるけど、顔は変わらないから似合わないのも変わらない。正直言って早く脱ぎたい。着慣れた服に着替えたいし本も読みたい。
「ねぇソラ、このまま出掛けない?」
「断固拒否します!」
一時間かけて、なんとかお母さんから逃げ切れた。
・・・疲れた。
ちなみにお母さんは可愛い系の顔で可愛い系の服が大好きです。