8話 出発と食べ歩きと
書くペースを上げたいです。
「出発する……か」
「はい、ありがとうございました。モーガンさん」
魔人と戦った次の日の早朝、モブおじが家に戻ってきたのでちょうどいいと思って私は出発を切り出した。あの魔人がモンスターの全部を作ってたのかは分からなかったけど、エンカ率からしてそこまでモンスターはいないだろうし、ただでさえ少なかったのならドラゴンが食ったせいでここら一帯はほぼ全滅してるかなと思ったのだ。自然発生してるならどうしようもないけど、私たちの目的はモンスターを残らず殲滅することじゃなくて魔王の討伐だからね、責任は負いかねる。
「いや、こちらこそ。お前らのおかげで街の安全は確保できたみたいだしな」
「え、そうなんですか?」
「おう。ここがモンスターに侵攻されたのは1週間前のことだ。その時はスライムみてえなモンスターがいなかったからか、結構兵器を投入したものの撃退は成功したんだ。だがその後も小規模な侵攻はあってな。撃退は成功するものの、被害は少なくなかった。いずれジリ貧かと思われたんだが、アミと出会ってスライムと接触して以降トンとモンスターとの接触件数が減って、ほとんど0になったんだとよ。
お前らがやってくれたんだろ?大変だったな」
……すいません知らないです。なんて正直に言うべきだろうか?でも数が減ってたのは事実?大きく数が減ってたのだとしたら……
「おおよそをドラゴンが食べたんじゃあ……」
「……ドラゴンが食った?どういうことだ?」
「実は私たちがドラゴンを見つけた時、少し観察してたんですが、次々とモンスターを捕食してたんですよ」
「捕食?敵であるドラゴンが掃除してくれてたってのか?」
「それなんですが、モンスターの方がドラゴンに集まっていってたので強制的に……って、魔人がモンスターを招集してた?」
「おいおい、1人で勝手に話を進めないでくれ。なんだ?魔人ってのは」
「あー、えー……っと。ドラゴンを作ったやつ……?」
「随分とザックリだな、オイ。」
と言われたって情報がそのくらいしかないんだよなぁ。しかたない、ここは……
「カクカクシカジカ」
「……いきなりどうしたんだアミ?」
モブおじに怪訝な顔で見られた。ですよねー。まあ、ちゃんと説明するしかないよね。
――――――――――5分後――――――――――
あれ?なんか前にも似たようなのを感じたような?しかも今回はテイストが変わってパワフルな野球ゲームっぽい感じだった気がする。
「希望的観測だが、スジは通っちゃいるか。ま、何にしろここらのモンスターはあらかた片付いたってんなら、お前らがここに残ってる理由もほとんどないからな。……魔王とドンパチするんだから怪我すんなよとは言えねぇか。んじゃ、生きて帰って来いよ」
隙なく鍛えられた腕でがっしりと肩を掴まれる。中身は優しいどころじゃない、もはや私にとってのご都合キャラみたいなオッサンだけど、こういうのをされるとやっぱなんか怖い。でも背中をバシバシ叩かれるよりかはマシなのかな?
それはそれとして出発しないとね。
「それじゃあ行ってきます」
「おう、行ってこい!」
毛布で3重にくるまれたリュックをシルトちゃんが背負ってモブおじの家を出る。5日しかいなかったモブおじの家だけど、ちょっと名残惜しい気がする。クイーンくらいのサイズのベッド、寝心地良かったしなぁ……。
もちろん残っていたドラゴンの肉は全部持って行ってる。
目的地はシルトちゃんが指さした、日本のある方向だ。
――――――――――
出かけて1週間経った訳だけど、どこら辺にいるのだろうか?まったくもって地理の知識がないから、GPSでもない限り地図があっても現時点での場所がわからない。モブおじから携帯でも借りておくべきだった?でもすぐに充電切れちゃうか。それにインターネットが今も残ってるかって怪しいし、地道に行くしかないか。
思わずため息をついてしまう。端的に言えばこの状況を嘆くものではあったけど、道のりの長さを嘆いたものではなく
「お姉……ちゃん、どうした……の?」
この光景をいつまで見ることになるか、である。シルトちゃんが心配してくれるけど、食べながらはちょっとやめてほしい。今現在、シルトちゃんは巨大な蝙蝠の(おそらくは)モンスターを生でモシャモシャ食べてる。指で耳栓してるけどやっぱり音が聞こえるからなんかもうヤダ。
出発してから2日ほどは簡易テントの中でモブおじのベッドが恋しいなぁとか思ってたけど、今はこっちが問題だ。ベッドの方はじきに慣れるだろうしいいんだけど、SAN値ゴリゴリ削られるからやめてほしい。ただ、そのおかげでリュックの中の普通の食糧の減りは少ないから、食糧的にはありがたいけど精神的には胃が痛いと何ともな状況に私は晒されているわけだ。
何処かは分からないけど廃墟がズラリと並んでるから、此処は元々町だったのだろう。一応地図にはモブおじの家があるっぽい場所から日本には直線を引いておいたわけだけど、全くもって見当がつかない。いやでも今のとこ直線上で渡るはずの海を一度も渡ったりしてないから……うへぇ、まだまだ先っぽいなぁ。
――――――――――
あれからさらに1週間が過ぎた。いまだに海を一度も渡っていない。これマズイんじゃないっすかね?ドラゴンの肉も持っていた時の3分の1くらいまで減ってる。ただ救いなのは……
「?どうかしたの、お姉ちゃん?」
「……いや、何でもない」
すぐにシルトちゃんから目を背ける。今回のシルトちゃんの食事は巨大な蛇だ。クッチャクッチャと音が生々しい。毒がないか心配だったけど、人間を消化してくるスライムとか平気で食べてたしたぶん大丈夫なんだと思う。シルトちゃんが食べるものがモンスターだから逆にここまでもったってことだしなぁ。
そりゃあ長旅は覚悟してたけど、そろそろ私が食べれそうな普通の食糧を増やしておきたい。もう底を突きかけてるわけじゃないけど備えあれば憂いなしだ。モンスターとか食べたくないしね!
というわけで食料探しかな?もともとがどういうものだったのかわからないけど、倒壊してる建物が多いから漁れば何かしらあるかもしれない。
とりあえず今日の寝床によさそうな場所を探していると左斜め後ろから足音が聞こえてきた。正確には左左斜め後ろ?まあ、今向いてる方を北とすれば西南西の方向だ。
ザッザッという音が鳴ってるから、肉球とかを持ってる獣人系はあり得ない。連続もしてないから蛇みたいなのもあり得ないか。ズンズンともこないからそこまで大きいモンスターでもなさそうだし……って私は何を呑気に考察してるんだか、普通に後ろを見れば済む話じゃん。最近森とかの視界が悪いとこばっかだったから音で判断する癖でもついちゃってたのかな?
チラッと目線を向けると子供がこっちに走ってきていた。
子供?それにしては結構細いな、じゃなくて何でここに?っていうか手にナイフ握ってんじゃん。世紀末か?いや、モヒカンじゃないしなってそういう話でもない。なんか私もヤバくなってきてる気がする。シルトちゃんの食事からの現実逃避が過ぎたのかなぁ。それはともかく……
「セット!」
「!」
私は子供のいる方に指を指す。シルトちゃんは少し驚いた様子で私の方に顔を向けて、それから私が指さした方向に振り向いた。うん、もう慣れたもんだ。これはマンガであったやつの丸パクリだけど、実際にやってみて効果があったから10日ほど前から使ってる。まあ、顔を向けてもらう必要はないからそっちに敵がいるって示す程度のものだけど。
ともかくあとは私がやれることはないからシルトちゃんからの報告を
「お姉ちゃん、何もないよ?」
あら?
ちょっと探すと、子供は元の方向から右に大きく吹っ飛ばされてた。私たち、何かしたっけ?
「それよりもさ~お姉ちゃん、あの人たちはどうするの?」
「あの人たち?」
「ほら、あそこに2人いる……」
シルトちゃんが言い切る前にシルトちゃんが指さしてた方向から足音が聞こえてきた。もしや、子供をけしかけてきた犯人?
「追うよ!シルトちゃん!」
「うん!」
私たちは足音がした方に走り出し……って、建物の方に向かって何を?まさか建物内から壁をぶっ壊して直線距離で行くつもり!?っていうか速っ……
「うらー!」
シルトちゃんは建物を蹴り上げた。蹴り上げた?うん、蹴り上げた。
……は?いやいやいやいやいやいやいやいや。蹴り上げたのあれだよ?高層ではないとはいえ5階相当の高さだったよ?しかも蹴り倒すとかじゃなくて蹴り上げて吹っ飛ばすっておかしいって。50メートルくらい吹っ飛んでるのはおかしいって……私たちから逃げ出したと思われる2人も空を見上げている。うん、気持ちは分かるよ。気持ちは分かるけど今は
「捕まえたぁ!」
おっしゃナイスゥ!
捕まった2人は自分より身長の低いシルトちゃんに抱きかかえられてパニックになっているようだ。あっ、シルトちゃん締め付けるのはやめたげて、死にかねないから。
数瞬後私の足元にはさっきの2人が死にかけの状態で転がってた。ピクピクしてるから生きてるのは確認済みだ。1人はさっきの子供くらいの女の子、あ、さっきの子供は男の子だった。で、もう1人は高校生くらいの男だった。180くらいある、リーダー的な存在なんだろうか?服がボロボロで破れたところから擦り傷っぽいのが見える。このまま見捨てるのもあれだなぁ。
どうしようかとうんうん唸ってたらリーダー的な人が起き上がった。
「お前ら、いったい何なんだ……」
何なんだと聞かれたら!答えてあげるが世の情け!じゃないや。何なんだって聞かれてもなぁ、私から見てもシルトちゃんはバケモノみたいな身体能力してるし、人間ですと答えてはいそうですかと納得してくれるわけがないよね。まあ私だけなら何とか……
「あー、私は普通の、普通の?うん、普通の女子高校生ですよ」
「なんで3回言った?あのバケモンのサポーター的な奴なのか?」
「そういうこと、話が早くて助かるわ~」
「俺も、あんたが話が通じそうなやつでよかったよ」
完全に顔が引きつってる。ごめんなさい、うちのシルトちゃんが失礼しました。ってあれ?この人、日本人っぽくない?というかなんか、2人の子供と顔と肌の感じが大きく違うし、なーんかあれなんだよねぇ。
「それで、あのバケモンは何なんだ?」
「……勇者よ」
「おい、何だ今の間は」
だって忘れてたんだもの、しょうがないじゃない。一瞬だけティエ様と答えようとしかけたのは秘密だ。
「信じられないのは無理もないけどね。魔王を倒すための育成係を私が仰せつかったみたいなもんよ」
「誤魔化すなよ……。ま、ここで魔王側なら俺らを殺さない意味はないし、納得はしてないが分かった。それで、仰せつかったってのは?」
「これは別に信じなくてもいいけど、胡散臭い神様ってヤツが私を管理者(仮)っていうのに任命されて、勇者を選んで魔王を倒して来いって言われたからこの子、シルトちゃんを選んで旅をしてるってとこなの」
「……神様?」
「2回目だけど、胡散臭いからあんまり好きじゃないんだけどね。死にかけたところでアッサリ見捨てられたし」
「……苦労してんだな、お前も」
「……お互い様っぽいわね」
私もこの人もため息をついた。なんか妙な絆を得た気がする。
「お前も日本人だろ?苦労人同士でもあるみたいだし、お互い仲よくしようぜ?俺は奥谷 佑真だ、よろしく」
「ああ、やっぱりあなたも日本人だったのね、私は神薙 亜美、よろしく」
「あたしはシルト・ラーナ!よろしく!」
シルトちゃんがひょっこり出てきた。あ、佑真さんの顔が引きつってる。まあ、トラウマになっても仕方ないけど。
さてと、ここまで行き当たりばったりになっちゃったけど、どうしようかなぁ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。