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プロローグ それぞれの終わりの始まり

巨大な物体が自分に迫る。それが衝突すれば己の死は確定事項だろう。そんな思考の中でその巨大な物体に手を向ける。その次の瞬間には巨大な物体は塵すら残さずに消滅していた。

自分の手に視線を落とし軽く拳を握る。薄笑を浮かべ、一人の人物を夢想する。

()()()だけは、なんとしても…」

その目には揺るぎない決意が宿っていた。



――――――――――



ふんふふふーん、と男は上機嫌に鼻歌を歌っていた。


「僕特製カルニとミューバルのサレッカ和え、マーシボドレッシングがけの完成っと!」


男が作り上げたらしいそれはなかなかの配色だった。

プレートに山のように敷かれた黄色を基調に変色する物体から青紫色の物体が生えており、その上を焦げ茶色の粉末がコーティングし、今まさに泡立つどす黒い液体が上から大量に降ってくる。

その光景を見る男は目に光を宿し、口元から涎が垂れているのに気づき舌なめずりでからめとる。


男が作っていたのは料理らしい、この表現で料理と判別できるような輩がいるとは思えないが。

だが、男には絶品の料理に見えているのかもしれない。少なくとも普通の人が一目見て食欲を掻きたてられるものではないだろう。

男はその料理(?)を持って少し移動する。それが置かれた空間は、それが載ってるちゃぶ台とテレビのようものくらいしかないという何とも寂しいものだった。




カチッ.....カチッ.....カチッ.....カチッ....カチッ




荘厳な時計のような音を背景に男は料理(?)を貪る、それもなんと手づかみでだ。

もはやモザイクでもいれなければマズイのではないかというぐらいの光景だが、ここには男しかいないためになんの遠慮をする必要もなく食べ進めており、料理(?)の頂点にクレーターができ、すでに三分の一が男の腹に収まっていた。




カチッ....カチッ....カチッ....カチッ...カチッ




男はテレビをつける。そこに映るのは大自然の映像だ。一見して何らかの特番にも見える。男はつまらなそうにすぐにチャンネルを変える。すると次に映し出されたのは目の前で戦いを広げる二つの人影だった。そういったアニメか特撮モノだろうか。

どうやらこれは男の気に召したらしく、その映像を見ながらまたも料理(?)にがっつく。その姿はさながら映画館で映画を見ながらポップコーンを食べる客のようだった。食べてるものこそグロテスクだったが。




カチッ...カチッ...カチッ...カチッ..カチッ




料理(?)をおおよそ食べ終えた男はテレビを消して、そしておもむろに立ち上がって大きく伸びをする。ここまでが男の今の生活ルーチンだった。さて何しようとでも言うように伸びを終えた男は天を見上げボーッとする。気の向くままに散歩でもしようか、それとも修行まがいなことでもしてみようか、はたまたいっそこのままボーッとしていようか。そんな提案が浮かんできた中で、結局男はまたいつも通りにゴロゴロすることに決めたのだった。




カチッ..カチッ..カチッ..カチッ.カチッ




……うるさいなぁ。男はそう感じた。


他に音がない無音状態だと小さな音でもやけに大きく聞こえる。特にいい感じにウトウトしていた男にとってはかなりのイラつきを感じるものだった。男はそのイラつきの原因を睨みつける――と男は目を見開いた。明らかに異常だったからだ。


カチッ.カチッ.カチッ.カチッカチッカチッカチッカチカチカチカチ



……なんだ…これ…?



――――――――――



「っあ!はぁっ…はぁっ…はぁっ…、っぐ、ゲホッゲホッ!……チクショウ!!何だってんだよアイツは!とんでもねぇ理不尽じゃねぇか!」


男は森の中で膝に手を付き倒れそうになる身体を必死で踏ん張って呼吸を整える。その足は膝が笑っているという表現では足りないほどガクガクに揺られていた。もはやコメディかアニメのレベルだ。しかしそれほどまでに男は死というものを感じたのだ。

ついさっきのことを思い出す。死が人の形をしてヒタリヒタリと一歩ずつ寄ってくる感覚、自分を殺そうとしているのに何の気配も感情も読み取れず自然体でいることの不気味さ、そして何よりもその体躯、全てが恐怖だった。


ここまで思い出して、今自分の後ろに死がいるような錯覚を起こす。

むしろ男は膝を地面につけなかった自分自身を称賛したいくらいの気持ちだった。今一度膝をつけてしまえば、もう二度と立ち上がれない気がしたからだ。


男はつい先ほどの死に悪態をついてどうにか自分を奮い立たせる。そうでもしなければ、またあの恐怖を思い出してしまう。

おぼつかない足は辛うじて男の意思に従い歩を前に進める。男は服こそ汚れがちらほらと見えるものの身体は万全のはずだ、しかしそれでも本来のパフォーマンスの1%も出せてないこの状況は、男に先ほどの死の恐ろしさを再認識させてしまう。


どうやら男には目の前の光景が歪んでいるように見えるのも先ほどの死の影響だと考えているのか、自身にしっかりしろと言い聞かせるように頭をブンブンと振る。しかし、その歪みは消えずに男の前に存在している。どうやら幻覚ではなかったようだ。


男はその歪みに訝し気に手を伸ばし、ズブリと飲み込まれて男は確信する、これは『門』なのだと。次に顔を近づけ、その『門』の奥を観察する。そこには見たこともない景色、見たこともない物体、見たこともない世界が広がっていた。そして、男が"あること"を確認すると顔を戻してニヤリと笑う。

男は肩を震わせ、口角を吊り上げる。その目には光が戻り、さっきまでの負け犬のような男の姿はなかった。


「なんとも支配しやすそうな世界ではないか!くくくく、はぁーーっはっはっはっはっはぁ!俺にもツキが回ってきたなぁ!!よかろう!その世界、俺が支配してやろうではないか!!」


男は高笑いをして高らかに宣言すると、男が考える最高に堂々とした姿勢でゆっくりと歪みに身体を通す。

その姿こそ一見威風堂々としたものに見えるが、本物からすればバッサリと不合格を言い渡されるようなものであり、一連の出来事を見ていたものからすれば、なんとも小物臭いという感想が出てきそうな程、その場の勢い任せな男を表現するのに相応しい稚拙なものだったが。



――――――――――


私は紅く染まった初秋の空の下をゆったりとした足どりで歩く。

ようやく住んでるマンションに着いたので、手提げ鞄からカードキーを取り出して中に入る。見慣れた無機質なロビーには誰もおらず、隅の監視カメラが視界の端っこに映るだけだ。


エレベーターのところに歩いていき、そしてドアの上で光っている7のランプと横の上方向の矢印のランプが点いてるのを見て、あきらめて階段のほうに歩きだす。

私が住んでるのは3階部分だし、別に階段がとんでもなく苦ってわけじゃない。今日は何となくエレベーターの気分だったってだけだ。大会が近いわけでもないけど、なんか今日はどっと疲れたのだ。


「ただいまー」

そう言って明かりをつける。

少し狭めの部屋全体に木霊した言葉に対しもちろん返事はない。

廊下を通ってリビングへのドアの近くに鞄を下ろし、パソコンが載ってるテーブルの前の座椅子に腰を下ろす。

変わらない日常。何というか、転機っていうのはホントにないもんだなってこの頃思う。

慣れた手つきでテレビをつける。


東京に住むために、自分はできるんだと証明するために勉強して、東京の高校に受かって、一人暮らしをして、最初こそ刺激は受けたけど、外に出るような趣味がない私には東京はすぐに日常になっていった。

景色がいいというベランダから見える物件を選んだのに、たったひと月で見なくなった。


まだ高校一年生で人生を決めつけるのは早計だろうっていうのは何となくわかってる。けど、何の変化もなくこうやってただ毎日を過ごしてるだけの人生を今送ってる自分からすれば、人生がつまらない、そう感じてしまう。

テレビはニュースを放送しており、強盗やら火事やらを報道しているが、右から左へ聞き流す。一人暮らしを始めて改めて怖いなーと思うことはあったが結局は他人事だ。私自身が巻き込まれなければいつの間にか何でもない日常に組み込まれてしまう。


「なんか面白い事起きないかなー」

この独り言を言うのも今月何度目だろう。1…2…3…5回目くらいかな?

なんてくだらないことを考えながら座椅子に深く座る。パソコンの起動音がなんとも耳に馴染む。中学を卒業して以来の短い付き合いのパソコンだけど、毎日聴いてたら癖になったってやつかな?


あっと、今のうちに洗濯機回しとかないと。洗濯物を洗濯機に突っ込んで干すだけでもやっぱり面倒なんだよなぁ。

ポイポイと洗濯物を洗濯機に突っ込んで、作動させて、洗剤入れて、蓋を閉じてはいオワリ!

さて、と。洗い終わるまで7ちゃんでも見てますか。

お、なんか面白そうなのが。…ほほう、いいじゃないですか。


……………………


…………


……


…ふーん、『変わりたいって思っているのなら、周りの変化を常にとらえ続けろ』…ねぇ。

なんか言い回しが変な気がするけど、私はこんな言葉もでないからなー。


やっぱりセンスなのかな?

あら?また良さそうなの発見。


…………


ピーッピーッ


あーもう、いいとこだったのに。ちゃっちゃと干して続きを読むことにしますか。めんどくさいけど、後回しにすると大抵忘れてそのまんまになっちゃうしね。


今は夕暮れ時だし部屋干しになっちゃうけどしょうがないか。洗濯物を干し終わってなんとなく窓の外を見てみた。

『変わりたいって思っているのなら、周りの変化を常にとらえ続けろ』その言葉を思い出して私はベランダに降りる。そこに広がる光景は、前見た時..と言っても2、3か月ほど前だから朧気ではあったけど特に変わったかんじはしない。

下ではたくさんの車が行き来してるし、ビルの所々の窓の明かりが点いてるし、夕方だってのに騒音が絶えない。ビルが夕日の光を跳ね返して目がチカチカする。


変わってない…はずなんだけど今の私には少しずつ変化しているように見えた。あ、もちろん車が移動してるとか太陽が落ちてきてるとかじゃなく。

案外意識するかしないかだけでこんなに変わるもんなんだなーとあのキザっぽいアレに感謝、じゃないか。

あー、そう思ってると高層ビルがだんだん傾いてきてる気がする、もちろん気のせいだけどね。

うー寒っ!薄着でベランダに出るもんじゃないわね、ホント。


私はベランダの塀から身体を離して、少し名残惜しむかのようにゆっくりと部屋の中に身体を戻す――のと同時に


ドオォォォォォン


と遠くで大きなものが倒れたような音がちょっと聞こえた。この辺で工事とかしてたっけ?

気になって身を乗り出して音のした方に顔を向ける。

その瞬間私を襲ったのは、夕日の直射日光だった。


「眩っ!」


不意打ちをもらった私は瞼を閉じて後ずさって腕で目をガードし、逡巡する。ついさっきまで夕日は高層ビルの裏に隠れていたんじゃなかったっけ。

そのことに思い至り、今度は腕を下ろし、ゆっくりと瞼を開ける。


そこにあったのは、夕日にテラテラと照らされた、横倒しになった高層ビルだった。


『臨時ニュースです。東京に、魔王が出現しました…え?』


部屋の方から聞こえたアナウンスは、私の日常の終わりの始まりを静かに、そして唐突に告げたのだった。

初投稿で拙い文章ですが、ここまで読んでいただきありがとうございます。

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