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第8話 出店

何事も小さな一歩から。

「ごめんなさい、うちにテントとか大がかりなものがなくって」

「ううん、敷物を貸してくれただけで十分すぎるくらいありがたいよ!フィナには助けてもらってばかりだね」



敷物の上には大小さまざまな色とりどりの装飾品が並んでいる。

商人になりきるためのカモフラージュとして持ってきたとはいえ、もとはといえばセエラが施設での余暇の時間に趣味で作っていたものだ。

作り始めの頃は接着や縫製が甘くデザインも簡素極まりなかったが、今陳列されているものはどれも華美さは控えめながら細部にセエラのこだわりが窺えるものばかりだ。


「こんな素敵なお店を手伝えるなんて、私も嬉しいです」

「そんな風に言ってもらえて作った甲斐があったよ」

相変わらず花が咲くようなフィナの笑顔に、セエラも顔を綻ばせる。


しばらくして、市に見物客が訪れ始めた。

興味深そうにじっと見てくる子供にセエラはいち早く気付き

「見るだけでも大丈夫だよ!こっちへどうぞ」

と、人の波に呑まれない位置に誘導しながら、時には疲れが見える高齢者にも

「買わなくても大丈夫です、どうぞ休んでいってください」

と自分が座っていた椅子を勧めながら接客し、ぽつぽつと客足が伸び始めた。


その上、フィナが微笑みかけると、特に装飾品を必要としない男性も寄ってきた。その中には初日にクロスタと一緒にいた茶髪を緩く結んだ軍人の姿もあった。


「フィナちゃん、それから商人のお嬢ちゃんも。さっそくお友達になったのかい?看板娘が二人もいて華やかで良いねえ」

「あらごきげんようアーツさん!今日は貴方が担当なんですね?」

「こんにちは、その節はお世話になりました!」

「かしこまらなくて良いよ。これお嬢ちゃんが作ったの?いいじゃん、妹に買ってこうかな」

「あら、本当に妹さんかしら?また新しい女の子と歩いてらしたって噂をお聞きしたのですけれど」

「もー、フィナちゃん情報網広ーい!あっ、俺はアーツ!よろしくね、セエラちゃんだっけ?」

「あっはい、よろしく……」

「これ一つもらってくねー!そろそろ持ち場に戻らなきゃバレちゃう、じゃあね!」


いきなり手を握られて、セエラがきょとんとしているうちにアーツは去っていった。



「なんか男が、しかも軍人が来てたみたいだけど」

「ギウス!」

「どんな感じ?売れてる?」

「うん、結構来てくれてるよ!」


アーツと入れ違いになる形でギウスが飲み物を買って戻ってきた。


「なんか軍人っていっても全然怖い人じゃなかったよ」

「俺達が会ったのがたまたまやべーやつだっただけか……」

「クロスタの名誉のために言っておきますけど!普通の軍人さんはアーツさんほど風紀が乱れていませんからね!」

少しむっとしてフィナが反論する。


「悪い悪い、あいつはフィナの好い人だもんな」

「そんなんじゃありませんけど!そんなんじゃありませんけど、でも!」



その時突風が吹いて、陳列が崩れた。

「わわわ」

「こっち押さえてるからそっち直せ」



そうこうしているうちに、羽飾りの装飾品が風に舞って飛んでいった。


「私取ってくる!ギウスごめん、店番お願い!」

「足下気を付けろよー!」


走り去るセエラの背中を見届けた後、ギウスは品物を並べ直す。


「はー、やっぱりテントがないとこういう時困るな」

「そんなんじゃないけれど、本当は」

「え?」


ギウスが手を止めて振り向くと、フィナは普段のどの表情とも違う、感情を窺い知れないような暗い瞳で、笑みの浮かんでいない薄い唇で、どこか遠い国の話をするような静かな口調で呟いた。


「変わらないでいてほしかった」









一方セエラはというと

「一体、お前は!どれだけやらかせば気が済むんだ!」

「ごめんなさーい!知らなかったんですー!!」


またクロスタに追いかけられていた。

またやってるよこの人達。

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