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第7話 子供と大人

世の中の子供みんな幸せになって欲しいよね。

「何をしているんだ、フィナ」

金髪の軍人は声こそフィナにかけてはいるが、その目線は一瞬の隙もなくセエラとギウスを捉えている。

無表情ではあるが警戒心が痛いほど伝わってくる。

思わずセエラは息を呑む。後ずさりたいのに、身体が硬直して一歩も動けない。蛇に睨まれた蛙とはこういう状態のことをいうんだな、と思考が逸れて自身から離れていっていることを彼女は感じていた。


「あら、クロスタこそ。こんなところで何をしているの?」


だが、フィナは。


「今日の持ち場はここなの?最近うちに来ないじゃない。ごはん食べてるの?あなた本当につかまりにくいんだからそろそろ忘れちゃうわよ」


いつものふんわりとした笑顔。鈴を転がすような声。いくらか砕けた口調ではあるが、穏やかながらも押しの強い話の進め方。

つまり、普段通りだった。


だからこそ、この軍人が恐怖の対象であるセエラにとっては異様な光景に思えた。


「フィナ、そういうことを言っているのではない。この二人は」

「この二人は私のお客さんです!それともなあに、私達何か怪しいことをしていたかしら?」

「立ち入り禁止の区域に」

「ここ、立ち入り禁止だったかしら?」

「昨日」

「何か証拠でも持ってるの?令状でも出ているのかしら?指名手配なの?」


クロスタは比較的速く話しているのだが、最後まで言わせてももらえない。


「それじゃお仕事頑張ってねクロスタ。たまには夕飯食べに来なさいね」

軽やかに手を振って立ち去ろうとするフィナに、一言も口を挟めなかった二人は慌ててついて行く。


「いや待てフィナ!」

「なあに、まだあるの?」

「お前だって未成年だろう!異国の子供を連れてふらふら裏道や人気の少ない場所に行こうとしていたな!?そういった不用心な行動によって犯罪に巻き込まれるんだ!見過ごすわけにはいかない!」

「ただのお説教ならお仕事のときは控えていいのよ?」

「ただのとはなんだ、ただのとは」


アイフレンド医師はかつて、スードリーガの成人年齢は教会領と同じで、18と子供達に説明していた。ならば、フィナは17歳以下なのだろう。


結局その場は、特に二人が違法行為をしていないということでフィナが押し通してしまった。

クロスタは苦々しい表情で三人の背中を見つめていた。


「はしたないところを見せてしまってごめんなさいね、久しぶりに会ったから」

フィナは照れ臭そうに、でも少し嬉しそうにそう言った。

「えっと、お二人はお知り合いで……?」

「幼馴染なの」

ギウスの疑問に端的にフィナは答えた。

「でも子供の頃はあんな堅物じゃなかったんですよ?いつも一緒に遊んでくれて、お互いの家族も仲が良くて……あっ、着きましたよ!」


港のチケット乗り場で確認すると、受付の係員が一週間後の客船に空きがあることを教えてくれる。

この男性もフィナとは知り合いのようだ。談笑しながら手際よく券を手渡してくれた。


ひとまずこれで安心といったところか。ギウスは溜息を吐いて、ふとセエラの様子に気付く。

「セエラ?さっきから口数少ないぞ」

「……うん、ごめん、なんでもない」

「もしかして、さっきの……あのこと気にしてるのか?」

「そんなわけな……!いや、ちょっとある……」

「もうそれは仕方ないだろ」


「お二人とも何の話を……」

フィナが不思議そうに近寄ってきたのとほぼ同時に、市庁舎前広場から歩いてきた裏道に小さい影があることに三人は気付く。


「ママ……ママ……」

3、4歳くらいの女児がぐすぐす泣いている。どう見ても迷子だ!


行商の品物を見に来た買い物客の子供がはぐれたのだろう。

急いでフィナがクロスタに知らせに行き、付近の警備にあたっている者を中心に保護者の捜索が始まった。

それはいいのだが、当の子供がなかなか離れてくれない。屈強な軍人に引き渡そうとするとわあわあ泣き出すため、三人も動けない状況だ。


フィナは子どものあやし方など知らないようで、あたふたしながら何か飲む?とか果物食べる?とか尋ねては首を横に振られていた。


しかしセエラとギウスは施設で自分より小さい子供と接する機会が多かったため、この状況においてはいくらか冷静だった。

ギウスがあっけらかんとした口調でベンチに座り

「おかーさんすぐ来るってさ、ここで良い子にして待ってような」

と語りかけ横に座らせた。

セエラは荷物の中から、自分が着けているのと同じ、毛糸を編んで作った髪飾りをふたつずつ取り出し、どっちの色が好き?と問いかけ続け、赤より緑、緑より黒、黒より白、白より青……と選ばせていった。


クロスタに連れられた母親が息を切らして到着する頃には、橙の髪飾りによって女児の髪は高い位置で結ばれ、三人にかわいいねと持て囃されていた。


「ありがとうございます、何とお礼を言ったらいいか……!」

「いえいえ、これくらいなんでもないことですわ」

「本当に助かりました……!ほら、ありがとうとばいばいは?」

「おねーちゃんばいばい」

「ばいばい。それあげる、おねーちゃんとおそろいだよ、おひめさま」

「んふ……」


おひめさまと呼ばれて恥ずかしそうに母親にしがみついた女児は、最後に小さく手を振って帰路についた。



「慣れてらっしゃるのね」

胸を撫で下ろしながらフィナが二人に微笑みかける。

「俺達結構、家族が多かったもので」

「それにセエラさん、あれはあなたの手作りなの?とっても器用なのね!」

「ええまあ……それほどでも……」

「ねえ、次の市に出してみるのはどう?商人さんなんでしょう?ここには確か材料の買い付けに来られたとお聞きしましたけれど、どうせなら出品しないと勿体ないわ!こんな素材も編み方も珍しいもの!行商人さんは週一でしか来られないけど普通の市なら毎日やっているのよ、市庁舎に申し込めば外国の人でも誰でもこの広場でお店を出せるわ!」

目を輝かせたフィナにまくし立てられ、セエラは完全に押されている。


「駄目だ」


クロスタが吐き捨てる。


「未成年だけの出店は認められていない」

「そうなの……残念だわ……」

正式な決まりの前ではフィナはあっさり引き下がる。


「あのー……すみません……」

セエラがおずおずと口を開く。


「私、19歳なんですけど……」



フィナとクロスタの目が大きく見開かれる。

「えっ大人!?えっ年上!?」

慌てふためいているフィナの横で、いつも無表情のクロスタも信じられないという目をしている。


「あー、こいつそうなんすよ。背がこんなだからいつも子供と間違えられて、まあ子供みたいなもんなんですけど実際」

「いやだから保護者面しないでくれる!?子供のくせに!」

たった今成人であることが発覚した彼女はギウスに頭を押さえつけられている。


「子供のくせに、ということはギウスさんは」

「17歳」

「私と同い年なのね。いやそれは意外ではないのですけれど」

「私が!こいつの!保護者なの!!そこの人!私は子供じゃないから覚えといてよほんとに!」


「もう知らん。違法でないなら勝手にしろ」


フィナとクロスタの心に、外国人の年齢はよくわからない……という印象を刻みつけながらも、セエラは市への出店を申し込むことができたのであった。

クロスタは23歳

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