プロローグ前日
本当に行くのね、と言った。
ごめんなさい、と彼女は呟いた。
本当に謝らなくてはいけなかったのは誰だろう。
私は何を知っていたつもりだったんだろう。
もうその瞳は、
誰のことも拒絶できないながらも、誰のことも信頼していないその瞳は。
ついに私のことを見るとことは二度とないのだ。
好きだった。
その瞳が、好きだった。
私はいつも誰かを置いてけぼりにして前に進んでいたつもりだけれども、本当に大切な人にはいつも置いていかれていた。
だからかもしれない。
彼女のことだけは手元に置いておきたかった。
それが償いになると信じていた、否、信じようとしていた。
筋が通っていないのはわかっていた。
彼女にとって何の救いにもなっていないことを知っていた。
だから合理的に、論理的に、彼女を引き留めないという判断が正しいのだ。
こういう時に感情に身を任せられるほどの覚悟があったなら。
それならば、他の人のように。
がむしゃらに生きて。
愛や未来のためにすべてを捧げて。
行方も知れず旅に出て。
そしてどこか知らないところで死んでいたかな?
やっぱりそれは嫌だ。
私は守られて生きてきた。それを投げ出して衝動的に生きることはできないし、したくもない。
でも彼女は私じゃない。
だから私は、私にとってきっと最後の、大切な人を見送るのだ。