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ずーっと以前に書いた創作怪談シリーズとショートショートシリーズ

伊勢神トンネルを抜けた先

(怖くない怪談)

先日のことである。


いつもは高速で行くのだけど、時間があるからバイクで山道を走って行くことにした。名古屋からグリーンロードを抜ける。途中で廃線なんかを見つけて、一人ワクワクしながら行く。ルートに当ては無い。目的地につければいい。時間はたっぷりあった。いつしか愛知最怖スポットと云われる伊勢神トンネルを通過した。

噂の多い旧道の方ではない。まあ、最初の怪談は新道トンネルだったというけれど。

今となっては、新道とはいえ歩道さえない古いトンネルだから、地下水が染み出ていたりして気味は悪い。気味は悪いけど、お化けを見ることも無く通過した。

すぐに脇に地蔵がある。

最初の伊勢神トンネルの噂の場所は、本当はここである。

その地蔵のところで細くて暗い道へ左折した。


この先、集落なんてあるのかしら、といぶかしくなるくらいの細道である。

傍を川が流れている。山の中だ。両脇の木は道路を覆い隠そうと伸び放題でカーブの先は見えない。

時速30キロで走っていても、誰も追いついて来ないし、すれ違うこともない。

何故そんな道を?

何故だろう。なぜか誘われた気がしたのだ。随分前にも惹かれる道だとは思ったけれど、今日は時間もあるし、地図を見れば、いちおう目的地へ抜けられるようだったし。

実際のところ、この先に集落があるだろう、と思っていたのもある。

件のトンネルの最初の怪談は、トンネルを抜けたところで女が「乗せてくれ」というものだ。その女は台風の嵐で家ごと流されたのだという。だがトンネルの前後に集落は無い。そして地蔵はわき道の入り口に佇んでいる。


しばらく行くと、道の脇に奇妙な空き地が現れた。

注意深く見ないとわからないほど草と藪に覆われていたが、そこは放棄された耕作地のようだった。山の中、川沿いに開かれた猫の額ほどの耕作地。かつての山村のなごり。そうか、もう人は住まない土地になってしまったのかもしれないな、と一人物思いに耽りながらも立ち止まらずバイクでゆっくりと走り抜ける。

クルマ同士は離合も不可能な狭い道。

ゆっくりと走り抜けてゆく。

そうして二つか三つ、かつての農地を見た。

大きなカーブを抜けると視界が少し開けた。

そこには、狭いながらも現役の畑があった。

ああ、まだ生活がある。

そう思ったのは一瞬だった。

視界の端に写ったのは、まるで落ち武者のような「髪」だった。

いや、冷静になれ。

それは案山子だった。

いや、マネキンなのだが、田舎に時々あることだが、改装したデパートから流れてきたのかマネキンに古着を着せ、そのまま案山子にしてしまう景色が時々あるのだ。

いや、それにしても、数が多い。

猫の額ほどの耕作地に、いったい何体のマネキンがいるのだ。10、いやそれ以上か。着ている服こそ新しいのだが風雨にさらされたマネキンたちはどれもどす黒い顔で長い髪の奥から虚空を見ていた。

夜に見たら泣いちゃうよ、ほんと。

思わず苦笑する。

人が住まない土地とか思って悪かった。ここには今も生活があるのだ。

狭い畑に立ち尽くす何体ものマネキン。まるで大家族で畑にやってきたようだった。

まあ、不気味だけど。

バイクのスピードをゆるめ、写真でも撮ろうかと思った。

その時だった。

背を向けて立っていた一体が突然振り返った。


いや、本当にびっくりした。

それは、畑の主の老婆だった。なにせマネキンと着ている物一緒だからさ。身動きもしなかったから、てっきり・・・・

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