乙女ゲームに転生したら最押しがゴリラになってました。
長くなったけど、区切り所が解らなくなったので短編として投稿しました。
『運命の鐘を君と鳴らす。』
前世の私が、とてもはまっていた乙女ゲーム。
その世界に転生したのだと解った時、私はとても嬉しかった。
いくつまで生きたか、どうして死んだかは記憶にないけれど、最後の記憶では私は高校生だった。
残念ながら、楽しい高校生活ではなかったけど。
クラスカーストで言うなら、私は下位。
ゲームやマンガが大好きな見た目が残念な喪女オタクだった。
それが、大好きなゲームのメインヒロイン美少女に転生した。
正直、「神様、ありがとう!」って思ったよね。
悩まされたオイリー肌は、ニキビ1つないツルツルプルプルな美白肌に。
クセっ毛が酷かった黒髪は、枝毛1つない憧れのサラサラストレートに。
一重の小さい瞳はぱっちり二重に。
寸胴貧乳体型は、Bカップのモデル体型に。
両親からの遺伝で、幼い頃から眼鏡が手放せなかった目は、何もなくともはっきり見える。
あ、コンタクトはドライアイが酷くて無理でした。
華麗なるビフォーアフターをとげた。
胸だけはもうちょっと欲しかったよね、残念。
この会社がつくる乙女ゲームって、何故か全部ヒロインが貧乳でライバルキャラが巨乳なんだよね。
制作者の好み?
でも、とりあえず感謝!
こうして、私は攻略対象者達が集まるオルテシア学園に入学した。
オルテシア学園は、基本的に王族貴族が通う学園だ。
時々特例で、平民が特待生として入学してくる事もある。
あ、ヒロインちゃんは貴族です。
メリア=ビルティスト子爵令嬢。
オレンジ色の髪に緑の瞳。
基本1人1つの魔法属性(持っていない人もいるよ)を、水・風・光の3つも持ってるチート美少女です。
さあ、入学したら急いで私の最押しを探さなくては。
私の最押しは、同学年のクロード=イルハウスト様。
金髪&黒瞳のイケメンです。
海運業で財をなした豪商のシャトゥルーフ家の次男でしたが、事故により両親と兄を亡くし、財産を親戚縁者に吸いとられ一文無しで放り出されてしまいます。
ですが、そこでくじけるクロード様ではありません。
剣と魔法に才があったクロード様は、侯爵家であるイルハウスト家に引き取られ、そこで着々と力を付けていきます。
両親のものを全て親戚縁者に奪われた憎しみを、クロード様は忘れていませんでした。
利用できる周囲のものは全て利用をし、クロード様は復讐を果たします。
ですが、復讐を生きる理由にしていたクロード様は生きている意味をなくし自暴自棄に。
家族の元へ旅立とうとしたクロード様をヒロインが必死に押し止め説得をし、支えていきます。
ヒロインと過ごしていく中で、クロード様は新たな夢を見つけます。
それは、なくなったシャトゥルーフ家の事業の復興。
クロード様とヒロインは力を合わせ、事業を復活させていきます。
そしてEDではシャトゥルーフ家と事業を見事に復興させたクロード様。
クロード=イルハウストからクロード=シャトゥルーフへと名前を戻し、ヒロインと船に乗り大海原へ旅立っていきます。
何があっても決して諦めないクロード様に、私も励まされました。
初めは決して笑顔を見せてくれません。
誰にも心を許さず、態度もそっけないものです。
そのツンにも悶えるのですが、やはり後半部のデレ。
今までのツンが糖度ゼロだっただけに、威力は半端ないものでした。
ツンデレクロード様の、デレを早く拝みたい!
ヒロインとして支え、クロード様のツンを溶かすのです!
ゲームでは、親戚への復讐の準備中。
出会いイベントは、入学式当日廊下でぶつかってしまうというベタなもの。
「クロード様ーー♪」
予定では、その場で転んでしまった私をクロード様が冷たく見下ろし、舌打ちをして去っていく。というものでした。
だけども、私はすごい勢いで後ろに吹っ飛んだ。
「ブェフ!!!」
令嬢らしからぬ声を出して吹っ飛んだ私に、誰かが声をかけてくれる。
「す、すまない大丈夫だろうか!」
あら、この声はとてもクロード様に似ている。
でも、初期のクロード様はこんなに優しくは…
うっすらと目を開けると、金髪と黒瞳が見えてくる。
あれ、やっぱりクロード様?
目を開けると、そこには…
「……………?」
目の前に見えたものは何だろう?
ああ、見間違えたのかと目をゴシゴシしても、何も変わらない。
頭でもぶつけたのかと思ったけど、ぶつけたのはお尻だけ。
倒れたショックかとも思ったけど、頭はスッキリしている。
ああ、じゃあ声だけ似ている別人か、と思いつつ名前を尋ねる。
「すみません、あなたはクロード=イルハウストさまですか?」
「いいえ、クロード=シャトゥルーフですが。」
シャトゥ…ルーフ?
それは、クロード様の本来の名前。
え?じゃあ本人?何で?なんで?なんでなんでなんでなんでなんで?
「なんで、ゴリラなの!!?????」
「!?」
クロード様との出会いを果たした私は、裏庭の花壇でグスグス泣いていた。
だってそうでしょう?
最押しイケメンが、なんかゴツいゴリラに変わってたんだもん。
2m近くあるんじゃないの?っていう身長にゴツい身体。ゴツい指。ゴリラな顔。
こんな大きい人にぶつかったら、そりゃー吹っ飛ぶよね。
グスグスエグエグ泣き続ける私の隣で、困ったような顔をしているゴリラなクロード様。
もう、様じゃなくていいよ。
ゴリラなクロードで、ゴリードでいいよ、ゴリードで。
あの後、突然泣き出した私に慌てながらゴリードはここまで連れてきてくれて、ゆっくり事情を聞き出してくれた。
私は泣きながら、転生だの乙女ゲームだのを説明した。
戸惑いながらも、ゴリードは決して否定しなかった。
「嘘だと思わないの?」
「突拍子もない話だとは思うけどな。でも、嘘だったらそんな泣き続けないだろうし。」
優しい…ゴリラなのに優しい。
ゲームのクロード様なら、こんな事言わない。
むしろ、泣いてるのを放っておかれてる。舌打ち付きで。
色々聞いてみたところ、ゲームの設定とも大きく違っていた。
両親や兄は事故になんてあっていなくて生きている事。
なので、イルハウスト家に引き取られずにシャトゥルーフ家次男(平民)として生きている事。
この学園には貴族としてではなく、平民の特待生として入学してる事。
剣は得意だけど、魔法は苦手な事。
むしろ、魔力を持っていなかった。
そして、1番の違いはやっぱり顔と体格だろう。
私は、ある可能性にすがり付いた。
「なんか、呪いとかの影響でゴリラになってるとか、そういうのは!?」
「あるか、そんな設定!」
産まれた時からゴリラらしい。
ヒドイ…
もしやと思って聞いたけど、転生者でもないらしい。
でも、ゴリードが転生者だとしてもゴリラになった理由が説明つかないか…
残念喪女な自分だったけど、転生したらヒロインそのものな見た目になってるし。
「なんでゴリラなのかは、俺が聞きたい。家族の中で俺だけゴリラだし。」
家族も親戚も極々平凡な容姿らしい。
隔世遺伝でもないのか。
私の乙女ゲーム満喫生活、あっという間に終わっちゃった。
また泣いていたら、ゴリードが名案を教えてくれた。
「他の攻略者?っていうのがいるなら、そっちを攻略すればいいんじゃないのか?」
「…ゴリード、頭いい!!」
「ゴリード…」
「はっ!」
慌てて口をおさえる。
本人の前で言ってしまった。
怒られるかと思ったら、苦笑しながら許してくれた。
…優しい。
「ゴリード、じゃなかった。クロード、ありがとう。私頑張るよ!」
「もう、ゴリードでいいよ…」
そうと決まったら、情報の洗い直しだ。
他の攻略対象は、3年生の王太子様。
同学年のチャラ男貴族。
教師。
学園の庭師の4人。
私は彼らのEDを目指すべく、攻略を開始した。
半月後。
私は、またもや裏庭の花壇でゴリードに慰められていた。
ヒドイ、ヒドイよ。神様。
私は、まず1番攻略が簡単だった、教師に狙いをしぼった。
ミュラー=カルタシア 28歳独身。
銀縁メガネのクールキャラ。
ステータスやパラメーターが低いときに助けてくれる、お助け教師。
このゲームは2周目に1周目であげたステータスやパラメーターを持ち越せる。
ステータスが低い1周目だと攻略は容易になるけど、持ち越した2周目になると、攻略の難易度がグンと上がるキャラだった。
まあ、持ち越さなきゃいいだけの話なんだけどね。
私も、先生に教えてもらったよ。
「ミュラー先生、解らないところがあるので教えてください。」って。
教えてくれたよ、うん。
空き教室で二人っきりで。
そうしたらさ、何か近いんですよ、距離が。
息が耳や首筋にかかったり、肩や太ももを撫でられたり。
あら?
って思ってたら、「君もこういう事が好きだったんだね。」って…
首筋にチューされた瞬間、絶叫して逃げ出しました。
あんなイベント、なかったよ!
だって、全年齢対象だったもん!
何!?私が死んじゃった後に、18禁版が出たの!?
それで、その18禁版ではクロード様がゴリラに!?
あるか、そんなもん!
で、憔悴しながらミュラー先生の事をよくよく調べてみたら、とんでもなかったよ。
先生、学校&親公認の令嬢の性欲処理+性教育係でした。
しとやかに育てられた令嬢でも性欲はある。
それを解消し、性とはこういうものだというのを実施訓練ありで教育するのが先生でした。
あ、最後まではやらないよ。
先生に個人授業をお願いする=エロエロ教育なんだって。
しかもこのエロエロ教育、男子ver.もあるらしい…
恐ろしい学校だよ…
道理で、先生に連れられていった空き教室が、他の教室からも離れているうえにベッドやソファーまであるわけだよ。
その時点で気づけ、私。
先生の攻略を諦め、私は次にいった。
次の攻略対象は、学園の庭師。
クルクル緑髪、孤高の天才、エドワード=ルクセン。
植物や農作物の作成、品種改良に優れた技術と知識を持つ人。
王宮の庭園管理を任せられるという名誉を、「こっちの土壌の方が好み。」という理由で蹴っ飛ばし、学園の庭で何やら色々栽培研究している。
現代風にいうなら、植物オタク。
私もオタクだし、大丈夫いけると思ったのに…
予想より遥かななめ上をいってました。
ゲームでは、エドの趣味や研究に理解を示せば好感度があがっていったんだけど…
花やニンジンや種にグフグフ言いながら、頬擦りして話しかける姿にドン引きしちゃったんだよ。
それでも頑張ろうとしたんだけど、「カトリーヌ(じゃがいも)たんは、今日もキレイでちゅね。いっぱいご飯を食べて、大きくキレイに育つんでちゅよ~(^з^)-☆」
無理無理無理無理無理!!
話しかけるのも頬擦りするのも、100歩譲って我慢する!
でも、赤ちゃん言葉は無理!!
私は話しかける事なく逃げ出した。
私は次に同学年のチャラ男に的をしぼった。
好みじゃないんだけど…
チャラいの苦手だけど、背に腹はかえられない。
銀髪イケメン、レオン=イルハウスト。
クロード様が引き取られたイルハウスト家の嫡男。
クロード様との関係性は最悪、水と油で互いに嫌いあってる。
で、女の子遊びが激しいチャラ男。
だったんだけど、クロード様が大きく変わった事が影響したのか、チャラ男も大きく変わっていた。
両親が友人同士だったからか、ゴリードとは幼い頃からの友人。
女の子遊びが激しいチャラ男ではなく、婚約者を一途に思う爽やかイケメンにジョブチェンジしていた。
ゲームでは婚約者いなかったよ!?
話しかける前に、「君がクロードの言っていた子か。」って逆に話しかけられたよ。
婚約者と相思相愛らしく、お互いに気づかって思いやってるのが、第三者の私からでもよく解った。
奪い取る事は無理だと。
むしろ、チャラ男は好みじゃない。とか文句つけてた自分が急に恥ずかしくなった。
私は一体何様なんだろうと。
レオン様と婚約者のミランダ嬢が、私を気遣いつつ穏やかに話しかけてくれるたびに、私は逃げ出してしまいたくなった。
…残る攻略対象はあと1人。
第1王子で王太子の、アルフレッド=オルテシア。
このゲームのメインキャラ。
パッケージでも真ん中にいて、キャラ人気でもダントツの1位だった。
メインキャラで王太子なだけあって、要求されるステータスやパラメーターがべらぼうに高い。
公式でも、攻略は持ち越せる2周目推奨キャラで、1周目にクリアを目指そうと思ったら、ミスが許されない緻密なスケジュールを組む必要があった。
…無理だよ。
私は全ステータス&パラメーターをMAXまで高めた3周目での、ゆるゆるクリアだったもん。
ここまで半月ついやしてるし。
しかも、唯一ライバルキャラと争わなきゃいけないルートだし。
王妃候補(婚約者ではないよ) マーガレット=トゥサンドール公爵令嬢。
青銀の巻き毛がキレイな、ロリ巨乳美少女。
5属性を使いこなし、優雅で気品に溢れたヒロイン以上のチート美少女だった。
むしろ、友達になりたい。
何事にも臆する事なく立ち向かう姿は、とても格好よかった。
彼女との友情ルートがない事を悲しんだくらい。
要望で会社に送ったからね。
「マーガレットちゃんとの友情ルート熱烈希望!」って。
パーフェクト美少女令嬢と争って勝つなんて、ヒロイン補正あっても無理だよ。
こうして、攻略対象全員との恋愛が無理だと悟った私は、エグエグ泣きながら、ゴリードに慰められていたのだった。
「ヒドイよ、神様。エロエロで、赤ちゃん言葉で、相思相愛で、1周目無理ゲーな攻略対象なんて。」
「…エロ教師あたりはいけるんじゃないか?エロい事してくるだけだろう?」
「無理だよー!私恋愛未経験の処女だよ!?ボタンぽちぽちしての攻略ならともかく、リアルで触れあっての攻略なんて!」
「変な言葉叫ぶな!」
おっと、いけないいけない。
私は一応貴族令嬢なんだから、しとやかにしとやかに。
「…はあ。メリア嬢は、攻略対象とEDを迎えたいのか、それとも恋愛がしたいのか?」
「?」
「恋愛がしたいなら、攻略対象が無理でも他に相手はいっぱいいるだろう。」
「…そっか。」
攻略対象達との恋愛やEDは無理だけど、他の男子生徒や教師達もいるんだ。
見目麗しい攻略対象達は、遠巻きに見てイケメン具合を楽しんで他の人と恋愛すればいいんだ。
最初はED目指してたけど、他のを目標にしてもいいんだよね。
私は目から鱗が落ちた気分だった。
せっかくの美少女なんだから、楽しまないともったいない。
私はリアルで恋愛してみたかったんだから。
好きな人とイチャイチャしたり、デートしたりしてみたい。
「クロード。じゃない、ゴリードありがとう!私頑張るよ!」
「いや、今間違ってなかっただろう。」
そうと決まれば、学園生活を楽しみつつ自由恋愛だー!!
1ヶ月後、私はまたしても裏庭の花壇でゴリードに慰められていた。
美少女だから、すぐに声はかけられるんですよ。
でも、ほら。私前世で、カースト下位の喪女だったからさ優しくされる事に慣れていないというか。
どう反応していいか解らないんですよね。
話しかけられてもうまく返せなかったりとかさ。
で、慌ててテンパって、更にしどろもどろになるという悪循環。
で、向こうが萎えて去っていく。
1ヶ月、↑を繰り返したら、話しかけてくれる(ナンパしてくれる)男子はいなくなりました。
「シクシクシクシク。」
「いや、メリア嬢、俺とは話せてるじゃん。」
「だって、ゴリードだもん。恋愛対象として認識してないもん。」
「…さすがに、傷つくぞ。」
ゴリードには最初から変なところ見せてしまってるし、泣いてるところも見られてるし。
取り繕う必要がない、男友達だし。
もう、恋愛諦めようかな。
お父様に頼んで婚約者を早めてもらおうかな。
両親は恋愛結婚で、子ども達にも自由な恋愛を。
ということで、ギリギリまで婚約だの結婚だのは待ってくれている。
学校卒業までに相手を見つけられなければ、親の決めた相手と結婚。ってなる。
ゲームでは、誰とのEDも迎えられなかった場合のバッドエンドだった。
親の決めた相手でも結婚できるなら、今の私にとってはノーマルエンドだよ。
結婚してから愛を育んで恋愛って事もあるよね、うんうん。
「うん、よし決めた。ゴリード今までありがとう。私はお父様が決めてくれる婚約者を待つ事にするよ。」
「…へ?」
私は、ポカーンとしているゴリードに卒業までに云々を説明する。
「ゴリードにも、色々迷惑かけちゃったね。ごめんなさい。女友達を作りつつ大人しくしてるよ。まず、コミュ力磨かなくちゃね。うん、頑張ろう。という事で、じゃ!」
「え、ちょ待っ!!」
何か慌ててるゴリードを尻目に、私は教室へ戻った。
自由恋愛を諦めて、約2週間。
女友達ができました。
レオンの婚約者 ミランダ=エリステル伯爵令嬢。
レオンとゴリードの幼馴染みらしい。
レオンとののろけ話が羨ましいやらなんやら。
ミランダちゃんと友達になってから、レオンやゴリードとも直々話すようになった。
んで、よくよく観察してるとゴリードって意外とモテるらしい。
本人気づいてないっぽいけど。
「クロードは昔から優しいですからね。あの体格で怖がられる事もありますし、自分へのコンプレックスが酷くて女の子が好きになってくれるわけがないと思ってますから。」
とはミランダちゃん。
なんか昔々、ゴリードはどこかの令嬢に「私がゴリラと付き合うわけがないでしょう。オーホッホッホッ!」って手酷く振られたらしい。
そこから、自分の容姿の劣等感やらを拗らせたと。
どこの誰かは知らないけど、すごいなその令嬢。
ストレートすぎるでしょう。
平民の特待生であの容姿。
目立って嫌がらせを受ける、なんて事もなく。
男子からはあの体格と剣の技術&腕力で尊敬され、学園の用務員さん達からは用事を手伝ってくれる優しい子と好かれ、一部の令嬢からは大きいの格好いいとモテモテ。
大きすぎて怖い、っていう令嬢も少しいるけど、さりげなく人を助けたり率先して雑用をこなすゴリードを見て好意的になるらしい。
なに、このハイパー超人。
ツンデレなクロード様要素どこいったの?
それとも、家族を亡くさないでシャトゥルーフ家で過ごしたら、あのクロード様もゴリードみたいな感じになってたんだろうか。
ゴリードはどこにいても目立つから、自然といつも視界に入る。
倒れた誰かを助けているところとか、重たい物を運んでいる用務員さんを助けているところとか、風でハンカチを飛ばされてしまった令嬢にハンカチをとってあげたりとか。
いつ見ても誰かを助けていて、誰かの笑顔に囲まれていた。
「なんか、太陽とかひまわりみたい。」
そう考えながら自室で刺繍をしていたら、無意識になんかできちゃってるよ。
ひまわり&太陽の刺繍×1
金色ゴリラの刺繍×1
「…何してんの!?私!これ、どうしろっていうのよ!」
捨てるのはもったいない。
糸を抜くのも、せっかく刺繍したのにもったいない。
「…よし、ゴリードにあげよう。」
慰められたりなんだりで迷惑かけたし、お詫びの印としてこの2枚のハンカチをプレゼントしよう。
太陽とひまわりはともかく、金色のゴリラなんて他の誰にもあげられない。
ラッピング用のリボンを買うために、護衛を連れて街へと出掛けた。
やっぱり金色ゴリラだから、黄色かな。と思いながら黄色のリボンを買いラッピング。
明日、学校で渡せばいいや。とか思ってたら、何か視界にでかいものが入ってきた。
あの場所は…孤児院?
それなりに離れてるのにとてもでかい。
あのでかさは確実にゴリードだ。
…今日渡してしまおう。
「ゴリ…じゃない、クロード。」
「…メリア嬢?なんでここに?」
「?クロードーこのお姉ちゃんだれー?」「キレイなのー。」
ゴリードに小さな子どもたちがワラワラとくっつき、木登りみたいにヨジヨジとゴリードに登り、腕にも足にも肩にも子ども達を乗っけていた。
…この衆人環境の中、渡すの?私。
「用事があったんだけど…クロードは何してるの?」
「俺?子ども達の相手とか手伝いとか。シャトゥルーフ家が運営してるんだよ、ここ。」
「国じゃなくて?」
シャトゥルーフ家は海運業で財をなしてる家だよね?
「補助金は出てるけどな。それだけじゃ全然足りないし。俺発案で運営してる。」
ゴリード曰く、昔レオンと出掛けた時に孤児院を見つけて、そこで育った孤児達の話を聞いて衝撃を受けたらしい。
教育して、技術と知識を身につけないと一生貧民暮らし。
それは気の毒すぎる。
生まれは変えられないんだから、せめて将来は自分で見つけられるように知識と技術を身に付けさせるべきだ。
と両親に直談判したらしい。
両親も思うところがあったのか、ポケットマネーで運営して知識と技術を身に付けさせつつ、出来上がったものは市場で売って利益を得てるらしい。
孤児院を卒業した子達は色々なところで働き、シャトゥルーフ家への恩を忘れずに恩返しをしてくれるらしく、結果シャトゥルーフ家は前より潤ったらしい。
シャトゥルーフ家に就職している子もちらほらいるとか。
船乗りに欠かせない水や風の魔力持ちの子もいたらしく、その子達は優先的に雇ったらしい。
水の魔力で飲み水の確保、風の魔力で速度上昇。とかね。
クロード様EDでヒロインが担ってた役目を、この子達がやってるよ。
…あれ?ヒロインいらなくない?
「学園を卒業したら兄貴のサポートをする事になるけど、孤児院の運営や教育に力を入れたいんだよな。王都だけじゃなくて地方にもつくりたいし、その為には人員も資金も何もかも足りない。」
…大人だ。
将来の事を考え、夢を語りどうしたら実現できるかを考えるゴリードはとても大人だった。
恋愛がどうのこうの言って駄々をこねてる自分が、なんだか情けない。
同い年なのに。
「そういえば、用事ってなんだったんだ?」
忘れてた。
この流れで渡すとかとても出しにくい。
後ろ手に持って隠していたんだけど…
「あー、これなーに?」「袋ー?」「プレゼントだー!」
子ども達に見つかった。
そうだよね、小さいからちょうど目線が私の手元辺りだもんね!
見つかってしまってはしょうがない。
「これ!」
私はズイッとゴリードの前にブツを付きだす。
「え、俺に?」
「…そうです……」
すっごい心臓バクバクいってる。
受け取ってくれるかな、とか。嫌な顔されたらどうしようとか。
緊張のしすぎで前を向けない。
ギュッと目をつむる。
「ありがとう。」
嬉しそうな声が聞こえる。
少しは、喜んでくれてるのかな。
ガッサガサとあける音が聞こえる。
「ハンカチ?ゴリラとひまわりの刺繍…って、これもしかして手作り?」
そりゃ、バレるよね!
ひまわりはともかく、金色ゴリラの刺繍ハンカチなんて売ってないよね!
「違うの!プレゼントじゃなくてお詫びだから!迷惑かけたから!あえて金色ゴリラを選んだわけじゃなくて、考え事してたら、いつの間にかゴリラになってたの!」
「ひまわりと太陽はなんで?」
「それは、ゴリードのまわりっていつも誰かしら笑顔じゃん?それに何かあったかいし。好きなんだよねー、あのまったりとした空気が。」
…って、私今何言った!?
「告白?」「好きって言ったよ?」
ああ、チビッ子達がちゃんと聞いてる!
そろーっとゴリードを見上げたら真っ赤だよ。
「違う!告白違う!ノー!確かに好きって言ったけど、それはゴリードの空気や雰囲気が好きって事で…!」
「好きって言ってるのと同じじゃん?」
「クロードお兄ちゃんにもついに春が来たんだね~」
ちっがーーーーう!!!!
「はいはい、お前達からかうのやめろー。」
「ちぇー」「ぶーぶー」「せっかくおもしろかったのにー。」
…なに?私はちみっこ達にからかわれてたの?
「ありがとう。手作りのプレゼントを貰った事って初めてで、すごく嬉しいよ。」
「だからプレゼントじゃ…!」
え、なにその顔。
真っ赤で、嬉しそうで、照れくさそうに笑ってて…
!?!!????
何!?今、私すごいキューンってなった!
笑ってるのが嬉しくて、笑顔が可愛いって…
うがーーーーー!!!
「メリア嬢?」
「な、なんでもないの!私すごい忙しいから!もう帰るから!じゃ!!」
ゴリードの心配して呼び止める声や、また来てねー。って聞こえるチビッ子達の声や、慌てて追いかけてくる護衛達も何もかも置いて、私は屋敷まで走って逃げ帰った。
馬車あったのに。
もちろん、そんな姿を見た執事長やメイド長やお母様やお姉さまにはこっぴどく叱られた。
ベッドにもぐり込んで頭をかかえる。
あんな事して、あんな顔見ちゃって、明日どんな顔でゴリードに会えばいいの?
むしろ私、今までどんな事話してた?
考えても考えても解らなくて、風邪をひいてしまいたい…とか思っても咳も鼻水も出ない超健康体で朝を迎えてしまった…
顔を合わせづらい私は、ゴリードから逃げまくった。
ゴリードはどこにいてもとても目立つから、逃げるのは簡単だった。
同じクラスじゃない事も幸いした。
避けまくって、避けまくって、避けまくった数日後。
「ねえ、メリア。あなたクロードと何かあったの?」
「へ?いきなりどうしたの?ミランダちゃん。」
「どうしたの?じゃないわよ、避けまくっているでしょ?あなたに嫌われたのだと思って、クロードはションボリと落ち込んでいるの。」
…確かに、日増しに肩がどんどん落ちていって影を背負っている。
「奇妙な模様が刺繍されたハンカチを握りしめながら、落ち込んでるのよ。」
「奇妙な模様じゃないもん!ゴリラだもん!」
「………」
「…あ。」
墓穴ほった。
「やっぱりあなたなのね。どうして?嫌いになった?」
「いや、嫌いとかじゃなくて。顔をあわせにくいというかなんというか…」
ぐいぐい追求してくるミランダちゃんに、全部白状させられた。
現代に生まれてたら、刑事とか向いてるんじゃないかな、ミランダちゃんは。
「そういう事だったの。」
なんか、ニヤニヤしてる。
「クロードの苦労も報われる時がきたのね。」
「?」
「メリアが何をしても、クロードがあなたを嫌う事はないから安心なさいな。とりあえず、会話が無理なら挨拶だけでもしてあげて。あと、自分の気持ちを素直に伝えてあげて。メリアの可愛いところは、自分の気持ちに素直な所なんだから。」
自分の気持ちというより、私の場合欲望ではないでしょうか。
すごいいい笑顔のミランダちゃんにいってらっしゃーい。って無理矢理送り出された。
いってきまーす、ミランダちゃん。
挨拶、うん。挨拶ぐらいならなんとかできるよね。多分…
私はまわりの人にゴリードの居場所を聞いて、図書室に向かった。
そこにいたのは、二人きりで話すマーガレット嬢とゴリード。
心臓がドクンと嫌な音で鳴る。
よりにもよって、なんでマーガレット嬢?
ハイスペックすぎて、勝てるわけないから諦めた令嬢。
しかも、なんか笑顔で雰囲気いいんですけど。
これ以上見ていられなくて、私はまた逃げ出した。
逃げた先は、よくゴリードに慰めてもらってた場所。
裏庭の花壇。
なんか、私逃げてばっかり…自分が情けない。
しかも無意識に選んだ場所が、ゴリードと1番長くいた場所とか…
「私の馬鹿…ゴリードの馬鹿…マーガレット嬢の馬鹿…」
しゃがみこんで芝生の草をブチブチ引き抜きながら、八つ当たりする。
「おや?君は確か…」
ん?
なんかイケメンボイスが響いたんですけど。
顔をあげてみると、そこにはナイスイケメン。
このゲームのメインキャラ…
「お、王太子様!?」
私は慌てて立ち上がり礼をとる。
ハイスペック&難しすぎて攻略を諦めたキャラ。
遠くから眺めてただけで、私は王太子様と接触はしていなかった。
笑顔が眩しすぎる!
「ああ、そんなにかしこまらなくていいんだよ。公式の場じゃなくて学園なんだから。気軽にアル先輩と呼んでくれたまえ。」
…無理。
次期国王様をニックネーム呼びなんて。
「アルフレッド先輩…」
チキンな私にはこれが限界。
そうしたら、なんかガッカリしてるんですけど。
「むー、誰も私をアルって気軽に呼んでくれないんだよね。アルフレッドは呼ぶときに長すぎると思うんだよ。」
「婚約者や将来の妻や側近や親友に頼んでください。何の関係もない一生徒がニックネーム呼びは敷居が高すぎます。」
心の中で突っ込んだつもりが、口に出ていたらしい。
「クスクス、やっぱり君は面白い子だね。あの子が気にするわけだ。」
…あの子?
マーガレット嬢の事かな?
アルフレッド先輩は、うーんと何かを考えている。
「うん、よし決めた。君にはしばらく私の昼食&お茶会友人になってもらう事にしよう。」
「…え?」
「明日のお昼に迎えにいくからね。それでは、私は用事があるからまたこれで。」
「いや、あの王太子様!?」
「アル先輩だろ?ハッハー。」
まばゆい笑顔を振りまきながら、アルフレッド先輩は去っていった。
…何がしたかったんだろ、あの人。
翌日、私は宣言通りアルフレッド先輩に昼食に誘われ、午後のお茶までともにしている。
テラスや学食など、人目の多い場所で。
ザワザワというどよめきが耳に痛い。
いたたまれない。
私もアルフレッド先輩も婚約者はいないから醜聞になる事はないけれども…
「付き合わせてごめんね、メリア嬢。」
「半ば無理矢理さらっておいて、何を今さら…」
誘いを本気にしていなかった私は、いつも通りミランダちゃんとお昼を食べようとしていた。
そこにアルフレッド先輩が来て、「ごめんねミランダ嬢、遠慮してもらえる?」とか言って戸惑う私を連れ去った。
アルフレッド先輩とのお昼ご飯の後、私はミランダちゃんに詰問された。
私、悪いことしてないです…
ゲームでは、アルフレッド先輩とのお昼イベントはあったけど、こんな無理矢理ではなかったかと…
なんで、攻略を諦めたキャラとこんな事になってるの?
イケメンは遠くから見てるのがいいのであって、近すぎると溶けてしまうのに。
私はマーガレット嬢と競争して、アルフレッド先輩とのルートを選ぼうとしているんだろうか…
でも、マーガレットちゃんはゴリードと…
マーガレットちゃんとゴリードがくっついたら、私はどうするんだろう…
ティーカップを持ちながら、私はうつむく。
「ふむ、可憐な花の憂い顔も中々にキレイだね。……来たね。」
うつむく私に、何か大きな影がかかる。
顔をあげると…
「…ゴリード?」
「クロード、中々に行動が早かったね。ウジウジ君な君の事だ。もっと時間がかかるかと思ってたよ。」
「どういうおつもりですか、王太子殿下。」
?個人的な知り合い?
「クロードがつれないから、彼女と遊ぼうと思ってね。」
「王太子殿下の遊び相手に、彼女を選ばないでください。」
「クロードがそれを言う権利はないだろう?婚約者でもなにもない、ただの友人の君に。」
いつものゴリードじゃない。
優しい陽だまりのような空気のゴリードが、すごい怒気と殺気をアルフレッド先輩に向けている。
とうの先輩はすごい楽しそうだけど。
「確かに、自分は今はただの友人です。ですがそれでも、彼女に遊び半分で近づいて傷つける者を、見過ごすわけにはいきません。」
…ん?今は?
「お戯れがすぎますよ、殿下。」
マーガレットちゃん…
「マーガレット嬢まで来たのかい?なんで皆、私の遊び兼スカウトを邪魔するんだい?」
「遊びがすぎるからです。少しは自重なさってください。クロード、ここは私に任せて行ってください。」
「感謝する、マーガレット嬢。行くぞ、メアリ嬢。」
ガシッと腕をとられる。
え?あの?展開についていけないんですけど。
「クロードー、私は諦めないからねー。メアリ嬢またねー。」
「殿下!」
マーガレットちゃんの怒声が聞こえる。
アルフレッド先輩は何を諦めないんだろう。
しかし…ゴリードに腕をとられて歩いてるけど、歩幅が違うから大変なんですけど!
半分転んで引きずられつつたどり着いたのは、いつもの裏庭の花壇だった。
…えーと、ここで一体何がおきるんですか?
「メアリ。」
呼び捨てかい。
「王太子殿下と一体何を話していたんだ?」
「何って、授業の事とか街で流行りのスイーツの事とか。」
アルフレッド先輩に聞かれて、私が答えていただけです。
「俺の事は避けていたのに?」
いきなりそこか!
気にくわなかったのは結局そこか!
「…ゴリードを避けていたからって、アルフレッド先輩とお茶しちゃいけないって事はないじゃん。」
マーガレットちゃんの事もあって、私だって機嫌は悪い。
アルフレッド先輩との事だって、あの人が興味あるのはゴリードみたいだし。
私、当て馬じゃん。
「それはそうなんだが…」
ゴリードが怯んだ隙にたたみかける。
「大体!私だって怒ってるんだからね!何、マーガレットちゃんと二人っきりで話して!仲良さそうに笑って!楽しそうで!」
「え?マーガレット嬢と?」
「婚約者じゃないけど、王妃候補にまでなってる人と二人っきりって、殿下に失礼だと思うの!」
全くそんな事は思っていないけど、八つ当たりだ。
「私と一緒の時は困ったような顔しかしないくせに、ずるいじゃん!」
ハアハア、と乱れた息をととのえる。
「なんだか、色々誤解があるようなんだが…俺は今嬉しいんだが。」
は?責められて嬉しい?ゴリードはそっちの気が?
「ち・が・う!!」
力一杯否定された。
違ったらしい。
「メリアは、マーガレット嬢に嫉妬していたんだな。」
は?嫉妬?私が?マーガレットちゃんに?
いや、確かにゴリードと一緒にいてイラついたけど…嫉妬?
「俺の事を、なんとも思っていなかったら嫉妬しないだろう?少しは気にしてくれていたんだと思うと、俺はすごく嬉しい。」
気にして…はいたね。
うん、いつも視界に入ってきたし。
「もう少し外堀を埋めてからとも思ったんだが、レオン達にアドバイスもされたし。」
ゴリードが膝まずいて私の手をとる。
「メリア=ビルティスト子爵令嬢、私は、あなたの事を愛しています。」
………………え?
今、なんて言った?
ゴリードに触れられている手が熱い。
ゴリードも真っ赤だ、震えている。
「なん…で?なんで私?いやいやいやいや、あり得ないでしょ!私ゴリードに好かれるような事なんかした!?失礼な事しかしてないし言ってないし!変なところばっか見せて、迷惑ばっかかけてるし!何のドッキリ!?それともなんかの罰ゲーム!?」
…ああ、嫌な記憶がよみがえってくる。
前世で罰ゲームで告白されたんだよ、私。
ポカーンとしてるところに、「うっそだよーw」って。
あれは悲しかった。
「ドッキリでも罰ゲームでもない。俺自身の意思で告白してる。俺はメリアの事がずっと昔から好きだった。諦められなかった。」
「…ずっと昔?」
「やっぱり、覚えてなかったか。ずっと昔、俺はメリアに1度告白してる。……振られたけど。」
は!?いつ!?全然覚えてないんですけど!
ゴリードの話をまとめると…
「私がゴリラと付き合うわけがないでしょう。オーホッホッホッ!」って振った令嬢は、昔々の4歳の時の私らしい。
ストレートすぎる令嬢はまさかの自分だった。
なんなの、その悪役令嬢みたいな高笑いは。
一応ヒロインなのに。
というか、全然覚えてない。ゴリードごめん。
貴族や富豪やらの子弟を集めたお茶会での出来事だったらしい。
4歳の私に一目惚れしたゴリードは告白→フラレる→顔面&体格コンプレックス発症→イジイジ。
そんなところに、「いじけゴリラなんて更にうっとうしいですわ!ゴリラならゴリラらしく大きく構えていなさい!」って私が発破かけたらしい。
で、更に惚れ直す。
「うん、堂々としていた方が格好いいですわよ。その大きな身体は、あなたのかけがえのない財産になるわ。ちゃんと大事にしなさい。」
で、更に惚れる。
何回かこんなのを繰り返してベタぼれして、あの時自分を励ましてくれた私に相応しい男になるように精進していたらしい。
で、自分に自信が持てるようになったら、改めて私に告白しなおそうとしていた、と。
学園に入学して私と接点が持てて嬉しかったらしい。
恋愛対象外って言われた時は落ち込んで、婚約者を見繕ってもらう。って言った時はとても焦ったらしい。
「慌ててビルティスト子爵に連絡をとったよ。」
「え?お父様と知り合い?」
お父様とゴリードの父親が、商売の関係で繋がりがあるらしいり
しかも、幼い頃に一目惚れした時に、「将来お嬢さんを僕にください!」って挨拶もしていたと。
聞いてないです、お父様。
そりゃあ、お父様は大歓迎だろう。
確実にビルティスト子爵家より、シャトゥルーフ家の財産の方が多い。
国1番の豪商のシャトゥルーフ家より財産が多い家なんて、王家とマーガレットちゃんの家のトゥサンドール公爵家くらいじゃないのかな?
「変な事ばっかしてる私に、幻滅しなかったの?」
「なんでだ?メリアはメリアだろう。」
懐が広すぎると思う。
「…マーガレットちゃんの事は?」
「それがよく解らないんだが…マーガレット嬢とは、孤児院関係の話しかしてないぞ?」
私の勘違いだったらしい。
マーガレットちゃんは孤児院の運営や事業、慰問に興味があるらしく、絶賛運営中のゴリードに話を聞いていたらしい。
ゴリードもゴリードで、地方の孤児院兼学校運営でマーガレットちゃんにというかトゥサンドール公爵家に話を持っていきたかったから渡りに船だったとか。
資金はあっても運営する基になる土地がない。
それを、潤っているトゥサンドール公爵家で試し運営してみたいと。
図書館ではその話をしていたらしい。
仕事の話がイチャラブに見えるって、私どんだけなの?
「アルフレッド先輩の事は?」
「…」
びみょーな顔をするゴリード。
要するに、側近か近衛になれとスカウトされているらしい。
次期国王からの直接スカウト。
すごすぎるんですけど!
ちなみに、あの攻略対象のエロ先生も殿下の側近らしい。
情報専門で、身体から情報を聞いてるらしいよ…
令嬢の他にも先生や、マダム、他国の女性エトセトラ…
女性の肉体の扱いに関しては、右に出る人はいないんだとか。
そんな情報知りたくなかったよ、ママン。
庭師のエドも側近じゃないけど、協力者。
レオンも側近でスカウトされてるけど、イルハウスト家の跡取りだから拒否ってるらしい。
攻略対象者、全員アルフレッド先輩の側近関係だよ。
「何で、断ってるの?」
「断ってはいないが躊躇している。俺は単なる平民で王族の側近になれるような身分でもない。給料は弾むと殿下に言われているがその分拘束時間も長いから、孤児院に顔を出す時間が少なくなってしまう。」
「身分が気になるなら、うちの養子になれば?孤児院関連は結婚したら私もそっち関連頑張るから大丈夫。お給料がいいならそっちで頑張ってお金貯めた方が孤児院のためにもいいんじゃない?側近の方が情報も入ってくるし。やっぱり私も将来は子どもがほしいから、養育資金は重要だしねー。」
「…は?」
「え、なに?変な事言った?あ、もしかしてゴリードは子どもいらない派?」
「いや、子どもは何人でもほしいが。」
「あ、良かった。余裕があれば、私3人くらいはほしいんだよね。」
「じゃなくて!!」
何だろう。
ゴリードが真っ赤になってあたふたしてる。
「メリアは、俺と結婚してくれるのか?」
「そりゃするでしょう。お父様も知ってるなら反対しないだろうし、なんの障害もないよね。」
「も、問題はそこではなく…」
なに、さらに真っ赤になったんですけど。
「……リア……は………」
え?聞こえない。
「メリアは、俺の事が好きなのか?」
「好きだよ。」
「…俺は、クロード様みたいにイケメンじゃないぞ?」
「クロード様じゃなくてゴリードがいいの。」
あの感情が嫉妬だと解った今、私ははっきりと自分の気持ちを自覚していた。
転生者だなんて突拍子もない事言っても否定しないでちゃんと話を聞いてくれて、ずっと相談にのって励ましてくれて、慰めてくれて、思いやりがあって懐が広すぎて、将来の夢を語り、実現にむけて努力している。
好きにならない方がおかしい。
プシューという音をたてながら、ゴリードが崩れていった。
「ちょ、ゴリード!」
「夢…みたいだ。」
芝生に片ひざで座りながら、顔を隠すゴリード。
「ずっと好きで…自分じゃ相応しくないって思いながらも諦めきれなくて…でも、他の相手には渡したくなくて…」
ゴリードがギュッと私の手を握り、笑顔になる。
「夢じゃないんだな。メリアが、ちゃんとここにいる。」
うぉおおー!なに、この笑顔の破壊力!
今すごいキュン!って来た。
ゴリードなのに!ゴリラなのに!
抱き締めたいけど、ここは外!
私は一応貴族令嬢なんだから、そんなはしたない事をしてはいけないのです!
あぁぁぁー!でも、抱きしめたい!
…あ、そうだ。
水と光の魔力を利用して、反射で見えないような壁と結界を作って…
よし、これでOK!魔力の無駄遣いかもしれないけどいいんです!
さあ、抱き締めますよ!
ムギュー。
しゃがんでるゴリードにあわせて自分もしゃがんで、腰の辺りを抱き締めてます。
「メ、メメメメメメメメメリア!?」
メー多いよー、羊みたいだよー。
てんぱってるのも可愛いと思うとか、本当私ヤバイな。
さて、恥ずかしいけど素直になりましょう。
告白されたんだから、ちゃんと気持ちを返さなくてはいけません。
クロード様じゃなくてゴリードがいいとは伝えたけど、まだまだ足りないだろうからね。
ミランダちゃんにも、素直が1番ってアドバイスももらったし。
「あのね、私は本当にゴリードの事が好きだからね。他の攻略対象者は変なところ見たら幻滅して無理だったけど、ゴリードだったら変なところ見ても可愛いとか思っちゃうんだよね。」
ゴリードがエロエロに迫ってきてもキュンとして、赤ちゃん言葉で喋りだしたら動画とると思う。
スマホがない事がすごい残念!
「それに、ゴリードは私に相応しくないとか言ってるけど、それは私のセリフだよ。私こそゴリードに相応しくないよ。ゴリードは努力家で、皆に優しくて好かれてて、王太子にスカウトされるほど優秀で…私は何もできないよ。」
見目麗しくてスタイルバッチリとか魔力3属性持ちはヒロインだから。
貴族令嬢の嗜みとして刺繍はできるけど、それはできて当たり前の事。
前世の両親は夜勤ありの共働きだったから料理もそこそこはできるけど、誇れるほどの腕じゃない。
頭もいいわけじゃないし、優れた技術を持っているわけでも話術に優れているわけでもない。
むしろ、コミュ症だし。
すぐ逃げるしいじけ虫だし。
どうしてゴリードが嫌いにならないかの方が謎なのに。
自分で言ってて落ち込みながらうつむいてたら、ゴリードが逆に抱き締めてくれた。
「俺の好きな人の事を、そんなに言わないでくれ。メリアは自分の良さを知らないだけだ。言い返せる気の強さも、悪いところをはっきり指摘してくれるところも、すぐ真っ赤になるところも、照れ屋なところも、意外と行動力があるところも、泣き虫なところも俺は全部好きだよ。すごく可愛いと思う。」
誉められてる気がしないんですが。
「それに、俺はそんなにたいそうな人間じゃないよ。なってるとしたらメリアのお陰だ。俺はずっとメリアに相応しい人間になれるようにって思ってきたから。メリアがいなかったら、きっと俺はコンプレックスの塊のダメ人間になってたよ。」
ゴリードは、私に相応しい人間になれるようにって、ずっと努力してきた。
そして、今でも努力の最中なんだろう。
決して傲ることなく、上を目指し続ける。
私が好きになったゴリードはそういう人だ。
なら、今度は私の番だ。
ゴリードに相応しい人間になれるように努力しよう。
一人じゃくじける事があっても、ずっとゴリードがそばにいてくれる。
励まして、慰めて、一緒に泣いて落ち込んで。
だったら私は、一生頑張れる。
一人じゃないから。
その後、私達は婚約した。
お父様もお母様も、ゴリードの両親も大喜び。
もちろん、レオンもミランダちゃんもアルフレッド先輩もマーガレットちゃんも。
そして、学園を卒業と同時に結婚する事が決まった。
私は学生結婚でもいいと思うんだよね。
ゴリードは、アルフレッド先輩の側近兼近衛のスカウトを受け入れた。
お給料がいい事がやっぱり大きかったらしい。
それに、ゴリードは中々認めないけどアルフレッド先輩の事を尊敬しているから力になりたかったんだろうね。
ゴリードが気にしていた身分の事も大丈夫になった。
私たちが在学中に国をゆるがす大事件が起こり、それの解決にシャトゥルーフ家が大きく貢献。
爵位を授かる事になり、シャトゥルーフ子爵家になった。
ゴリードのお父さんが、「領地経営なんてそんな難しい事はわからん!」って領地譲渡を拒否したから、本当に名ばかりの貴族になっちゃったんだけど。
最初は爵位譲渡も拒否してたからね。
ゴリードが気にしてたから、渋々受け取ってたけど。
私とゴリードが婚約してから、アルフレッド先輩やレオンや他の貴族から散々からかわれまくった。
あのストレートすぎる令嬢事件は、結構皆覚えていたみたいで…
むしろ、私以外全員知ってたんじゃないの?ってくらいに皆覚えていた。
何で、皆そんなに記憶力いいのさ。
あれから色々な事があった。
ケンカしたり仲直りしたり、色々な事があったけど、ゴリードは今も私の隣にいてくれる。
最押しのクロード様がゴリラに変わっていた事で泣いた時もあったけど、今は神様に感謝している。
ゴリードがゴリードで良かった。
私は、最愛を見つける事ができた。