第八話 “幸せって何だっけ?”
何だろう.........異世界転生したら幸せになれるって聞いてたのに全然幸せじゃない。辛い。死にたい。不安しかない。この先、この姉が付き纏う未来には絶望しか感じられない。
抜け出したい。抜け出したい。もう一度言う、抜け出したい!地獄に垂れる一筋の糸のように誰か自分に希望をくれ。..........希望をくれよ........俺に、誰か!
「呼んだかしら?」
「.............」
何だろう、このデジャブ感。
「おい、いつ、俺の毛布の中に入った。」
目を覚ますと姉の顔が目の前に存在していたのだ。他人から見れば彼女は綺麗なのだろう。だが、自分からからすれば最早ホラーでしかない。
「アンタの所為で精神が病みそうだ。」
「そう。」
自分を強く抱きしめ、聖母のように慈悲深く頭を撫でる。
「それは良いことよ、ジョン。」
何が良いのか理解に苦しむのだが。
「貴方は徐々に私だけを考えている。例え嫌悪されようとも貴方には私しか見えていない。」
た、助けてくれぇ.........本格的に此奴に生涯を拘束される。
「頼むから彼氏を、友達を作ってくれ、ヴァレリ。そしたらセッ●スでも何でも一つだけ好きな事させてやるから。」
先日、保護課の奴を呼んだまでは良いが、姉の饒舌な抗弁で追い払いやがった。最早、犠牲を負わなければ姉の暴虐を止める事は不可能だ。
「あら、結婚してくれるのかしら?嬉しいわ。」
結婚?何を言っているんだ此奴は。
「う〜ん、話を聞いていたかな?」
「貴方が私を嫁にすると言う話でしょう。」
「俺がいつ誰を嫁にするって言ったんだよ!」
「ジョンが私と結婚してたくさんHするって32秒程前に口頭にしたわ。」
もうやだ。この世界やだ。この姉、話が通じない。自分の都合のいい方にしか聞いてくれない。
「もう、そんな顔をしないで頂戴...........疼いちゃうでしょ。」
赤面とした顔で自分の涙を舐め、下半身をくねくねと動かすヴァレリ。
「限界だ.........学校に行こう。」
感想欄でも書かれた通り、このままでは十話を越えてもこの家から抜け出せない気がする。
「アンタと俺で毎日登校、そして下校をすればいい。後は休憩時間は一緒に行動しよう。もちろん昼食時も一緒だ。これならどうだ?」
授業中以外はこの女と一緒だが、授業中は離れられる。もうそれだけで満足だ。
(離れられる..........離れられるんだ.........)
四六時中一緒にいるこの姉から抜けだせる。限定的ではあるが、構わない。寧ろ喜ばしいまである。
「嫌だわ、と言おうと思ったのだけれど..........ジョンとの学園セッ....おほん、生活も、ふふ、悪くないわね。」
これまでは否定的だったが、先程の条件が余程効いたのか肯定してくれた。
(よし、これで俺は一歩進む事ができる。)
貞操世界というジャンルなのに姉の所為で長所が丸つぶれだ。だがやっと、生の女たちと限定的ではあるが絡む事ができる。
(俺の最終目的はこうだ。)
高校卒業と同時にこの家から行方を晦ます。もう一切と連絡を取らない。しかし、隠れ身となる女が必要だ。其れをこの学園生活において選定する。
(セッ〇ス王に............俺はなるんだっ!)
★
次の朝、俺は喜びのあまり...............おねしょをしてしまった。17歳でおねしょをしてしまったのだ。
「ジョン、準備は出来..............」
「あぁ。」
何も言うな。分かっている。分かっているから俺を惨めにさせないでくれ。
「.........ん、濃いわね。」ぺろ
この姉は何をやっているのだろうか。小便で濡れたベッドカバーを外し、白分の部屋を出て行ってしまう。しかもカバーへと顔を押し付けたままで、だ。
(ダメだ......あいつは完全にイかれてる。)
姉の事を考えるのはやめだ。取り敢えずは今日1日を楽しもう。制服を着用し、玄関前にて靴を履く。
「ジョン、約束通り私と登校するのでしょう。」
ちっ 、もう降りて来やがった。
「私から離れないで。それと、外に私の舎弟を待てせてるわ。」
「.......舎弟?何だその新しい設定は。」
ここに来て新しい登場人物など碌な奴ではないだろう。断言する。其奴も頭がイかれていると。
「______その子とは目を合わせないで頂戴。」
目を合わせるな........其奴は何処の魔眼使いだ?
「考えれば分かるでしょう。女は獣、例えアレが私の駒とて男には耐性がないわ。」
冷たい口調でそう言うヴァレリ。要するに惚れるから目を合わせるなと言うことか。
(ヴァレリ、友達はいないと言っていたが........)
この女が普通では無いことは分かってい。だがまさか、舎弟などというものを所有していたとは。
「ヴァレリ..........アンタ、舎弟は何人いるんだ?」
「知らないわ。百鬼夜行が如く付いて来る愚か者たちの数など把握をしているわけがないでしょう。それとヴァレリ“ちゃん”よ。」
「それじゃあどうやって呼んだんだよ、その舎弟どもは!」
「あら、その子達の住宅前に住んでいる子よ。」
なん.......だと。
(..........此処に来て幼馴染設定が在るのか)
「貴方、勘違いしているようだけど。その舎弟は私に陶酔して一年程前に越して来たのよ。」
怖いわ。お前の何処にそんなカリスマ性があるんだ。
「それでは行きましょうか。」
ガチャ
すると目の前には一人の女が頭を下げ、待機していた。
「おはよう、マコトさん。」
ヴァレリが挨拶をすると、無表情な様子で挨拶を返した。
「おはようございます、姉さん。」
なんだか暗めだが顔立ちがよく揃った子が其処にはいた。
「あんた..........その体勢のまま、此処にずっといたのか?」
正気の沙汰ではないぞ。するとマコトと呼ばれる女が此方へと顔を向けると硬直してしまう。
「......................」
「だから言ったのよ、この子と目を合わせないでって。」
マコトの身体を揺らしながら、そう言うヴァレリ。
「姉.....さん?.....だ、....誰ですか.....その麗しいお方は?」
「私の愛する弟よ。」
「お....とう.....と。」
頬を紅くしチラチラと此方の様子を伺うマコト。
「だから嫌だったのよ。」
ヴァレリは舌打ちを鳴らすと自分の後ろへと周りこみ、抱きしめる。
「離れろ。」
「嫌よ。」
どさくさに紛れて胸を揉むな。此奴はこの行為がセクハラであると分かっているのだろうか。
「むっ........ずるい。」
興奮した様子のマコト。なんだか若干自分達の様子を見て鼻息が荒くなっている気がする。
「あの、」
そしてヴァレリの舎弟である彼女は爆弾発言を投下した。
「______姉さん、弟様を下さい。」