第七話 “男性保護管は無能”
「せめて外出させてくれ。」
彼此1週間と経ってしまった。其れも目の前にいる姉の所為で。そもそもこの姉は自分を見張るという名目で学校をズル休みしている。それに連なり自分も家から一歩も出ていない。
「俺は高1、ヴァレリは高2だ。其れも夏休み間際の時期にズル休みなんてしてみろ。夏期講習を受けないといけなくなるぞ?」
補習を受けなければならない。もちろん男性に甘いこの世界では免除されるのだろうが、姉は別だ。
「大丈夫よ。成績は常に学年一位を維持しているわ。」
全教科の中間テストの点数を見せつけてくる。
「殆どが満点........」
95点以下がない。この女はいつ勉強しているのか。
「ふふ、驚いたかしら。」
驚愕の表情を浮かべていると姉は気分を良くしたのかニヤニヤとダラけた表情になる。
「ふふ、其れとあまり驚かないで欲しいのだけれど、私は家では勉強をしていないわ。授業中の話、そして休憩時間を使い学習をするの。効率が良いでしょう?」
効率は良いが...........其れでは人好き合いがあまりないのではないか?
(もちろん人に言えるほど友人が多い訳ではないが)
と言うか、いない。自分で地雷を踏んでしまい暗い顔になる。
「ふふ、安心して良いわ。ジョンには私がいる。そして私にも貴方がいるわ。」
それは..........うん、嬉しくないな。
「ヴァレリ「ん?」ヴァレリ”ちゃん”、友達を作ろう!」
友達に此奴を押し付けたい。真剣に!
「嫌よ。」
間髪入れずに断りを入れる姉。
「何でだよ!俺だって友達を作って遊びたいよ!」
「ダメよ。女の友達なんて作りでもしたら直ぐに犯されるわよ。其れに男の友達も論外ね。ホモに走られたのでは解決の仕様がないわ。」
もう誰かこの姉の思考を止めてくれ。
「はぁ、学校に行かせてくれ。と言うか外に出たい。」
「ダメよ。紫外線は男の子にとって敵よ。」
女子か!.........あぁ、そうだった。この世界は貞操が逆転した世界だったな。
(危うく忘れるところだった。)
主に目の前に存在する姉の所為で。ヤバイ属性の(溺愛、ヤンデレ、メンヘラ、サイコパス、ストーカーなど)集合体みたいな存在だからな。
「じゃあ夕方!夕方に散歩をしよう!それくらいなら良いだろ?」
妥協して貰うしかない。このままでは姉ルートまっしぐらだ。せっかくのビッチ化のチャンスを血族に邪魔されてたまるか。
「.........仕様がないわね。今回だけよ。」
渋々と言った表情でヴァレリが許可を出す。
「でも、条件があるわ。」
「条件?」
「一つ、外出時は常に私と恋人繋ぎをする事。」
迷子にならないためか?
「二つ、周りに通行人がいたら目を逸らし私へと更に密着する事。」
ん?
「三つ、処女が話を掛けてきたら私の後ろに隠れること。」
安全面を考慮してか。
「四つ、怖くなったら私と口付けをする事。」
は?
「五つ、欲情したら直ぐに姉に伝えること。直ぐに処理をしてあげるわ。そう、直ぐに、ね。」
何処かのCM風に言うな、イラつくな。其れにこの姉、訴えたら本気で勝てる気がする。
ピンポーン
やっと来てくれたか。立ち上がり玄関へと向かおうとするとが、
「はい。」
ヴァレリが先に扉を開け、応答する。
「何方様?」
二人のスーツを着た女性が立っていた。ヴァレリは燻げな顔で二人を見る。
「男性保護課のものですが、お時間の方、よろしいでしょうか?」
ヴァレリの眉間に皺が入る。恐らくだが苛つきを感じ出しているのだろう。
「此方にお住まいの”瀬名ジョン様”からご連絡がありまして、訪問の方をさせて頂きましたがぁ「いない。帰ってちょうだい。」いえいえ、此方も仕事ですので、ご本人の確認を「しつこい。お願いだから帰って。」
「あ、来てくれましたかぁ!」
ワザとらしくヴァレリを横へと動かし、保護官の方々の前に立つ。いやぁ、此れで助かる。
「せ、瀬名、ジョ、ジョン様です、ね?」
保護官の一人が呂律の回らぬ口調で瀬名本人である事を確認する。
「はい。」
軽い笑顔で返すと女性保護官達は頰を染め、顔を下へと伏せた。
(せ、先輩!!この人、ちょー美人なんですけどぉ!!)
(わ、わかってるわ!私だって緊張してるんだから、急かさないで!)
アイコンタクトで意思疎通を終えると顔を上げ営業スマイルをする。若干、顔が引きっているようにも感じられるが、これ以上は直しようがない。
「ジョンくん、散歩には連れて行くと言ったはずよ。」
「いやいや、オレは犬か!」
「え?」
「え?じゃねーよ!いい加減に家での生活うんざりなんだよ!」
「甘えん坊ね。私が毎日相手をしてあげてるじゃない。」
「その毎日の相手が疲れるんだ!それに学校に行来たいの!」
ヴァレリは何かを考えるように顎に手をつける。
「それはこの小説の趣旨に反するわ。タイトルを忘れたの?」
「メタ過ぎるわ!それに展開が進まないんだよ!だらだらとお前に拘束されているとな!」
「拘束ではなく愛よ。其処は履き違えないで頂戴。」
二人のコミュニケーションを見て二人の保護官は唖然としていた。
「はあ、この様に姉が煩くてですね、保護官さんから何とか言って貰いませんか?」
二人はハッと意識を戻し、ジョンへと向き直る。しかし今度は瀬名の顔に見惚れて二人は顔を紅くしてしまう。
「ね?此れがあるから貴方を外へとは出したくないのよ。」
その言葉を聞いた保護官は首を横にブンブンと振り、ヴァレリの方へと向くことにした。
「瀬名ヴァレリさん、男性の意見を尊重すると言う法律がある事はご存知でですね。」
「えぇ、一般常識ね。」
「なら「却下よ。」いえ、ですが本人に登校の意思があるのならばそれを「もし貴方がジョンくんの姉ならば学校に行かせるかしら?よくものを考えてから話して頂戴。」
後輩保護官はヴァレリの意見を一度考えた。
(私が瀬名ジョンさんの姉だとしたら.............無理ね、私の側から一生離さないわ。」
ジョンの手を握り、姉になったつもりで抱きしめる。
(うわ、制服女性から抱き締められた!良い匂い!)
しかしそんなトリップを潰す様にヴァレリが此方を凝視する。
(は・な・れ・さ・い)
うわ、怖い。なんつー眼力だよ。人が殺せる程だ。
「貴方、なに考えてるの!セクハラになるのよ!」
しかし、もう一人の保護官により止められた。
「ご、ごめんなさぁい、先ぱぁい( ; ; )」
「私に謝るのではなく瀬名さんに謝りなさい!」
本当にごめんなさいと頭を下げる後輩共に先輩保護官。
「い、いえ.........」
(良い思いをさせて貰ったし別に良いんだけど.........)
お前ら、何しに来た。姉に洗脳されてるんじゃねぇ。
「もういいでしょ。帰って頂戴。今から私たちはセッ●スをするのだから邪魔よ。」
二人はその言葉を聞きゴクリと唾を飲みこみ、立ち止まる。
「視線がいやらしいのですが。」
三人が舐める様な視線で身体を凝視してくる。
「あの、お二方の行為を視察しても宜しいでしょうか?」
「業務の一環として是非!」
ヴァレリは口元を吊り上げ言う。
「えぇ、もちろんよ。けれど私達の行為は24時間を要するわ。貴方達について来られるかしら?」
その言葉を聞き、二人は深いお辞儀をすると、
「「よろしくお願いします。」」
「ああああああもう!!シねぇから!て言うかなアンタらは仕事をしろぉおおおおお!!!!」