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6:悪役令嬢の本音

 またまたシェフィーリアがぶちっと切れますよっ!

「目が覚めたのかっ!?」


 そう聞いてくる兄に貴方の怪我のお陰で完璧に意識が覚醒しましたと言ってやりたい。兄のことは嫌いという訳ではないんだけどただひたすらにちょっとウザい。いい人だって分かってるからこそちょっとウザい。


「はい、私は無事ですが……? どうかなさいましたか?」


「どうかなさいましたか? じゃないだろうお前っ!」


 怒られた。何故? それが顔に出ていたみたいで兄の顔に苛立ちが見えた。


「今がいつだか分かっているのか!?」


「夜、ですね」


 何を当たり前のことを。周りを見れば分かるでしょ? 雲一つ無い空に星と月が光っているのが。今日は三日月だってことがはっきり分かるくらい綺麗なのに。


 ……。


 …………。


 …………夜?


「夜っ!?」


 なんで? あれ、私がここに来たときはまだ昼をちょっと過ぎたくらいだった気がするんだけどっ!? おかしいよね? どのくらい寝てたの私はっ!?


『だいたい六、七時間のはずだけど?』


「六、七時間っ!?」


 それヤバくない? だって寮に帰ってこないとか言われるよ? 多分心配してくれる人なんていないだろうけれど。……いや、兄がいたか。


「分かったか? ならとっととこれを仕舞って寮に戻れ!」


「は? あの、これってなんですの?」


 そもそも私はなにかを出した覚えは無いんだけど? だってまずやり方を知らないし。何かを出す必要ないし。


「何を言っているんだお前は!? この荊のことに決まってるだろう! お前しか出すやつがいないんだから出したのはお前だろう!」


 荊? 改めて辺りを見回せば私たちを取り囲むようにして荊が生えている。いったい何があった? というか眠り姫みたいだなこれ。姫じゃないし王子でもないし糸は紡いでないしキスだってされてないけども。


 ちらりと兄を見れば怒りの形相で早くしろと伝えてきた。そのうち唸り始めそうだ。さて、どうすれば良いんだろうかこれは。取り敢えず戻れと伝えてみる?


『荊さんたちもとの場所に戻って下さないな』


 そう願えば荊はあっという間に消えていく、なんてことは無くて。ゆらりと揺れただけ。一応効果はあったのかな?


『荊さんたちお願いしますよー。戻ってもらえなきゃ兄に怒られちゃうんですよー』


 もう一度言ってみたが結果は変わらず。兄にノーを突きつけるため後ろを向けば、荊が下がっていく光景が見えた。


 あれ? 目がおかしくなったのかな? 戻ってるんだけど。私ただお願いしただけだよ? ゲームみたいに。確か戦姫のお祈りシーンがあったんだよね。聖女かよっ! と突っ込んだ回数は数知れず。


「何をぼけっとしている。行くぞ」


 兄によって思考は打ち切られました。何かな? これは兄についていけば良いのかな?


 というかここは何処? そしてこれからどうすれば良いの?


 考えていればタイミングよく兄が返事をしてくれる。やはり私の思考は筒抜けなのかな?


「お前が何故庭園に居たのかは聞かないでおく。どうせろくでもないことだろうからな。だが何故この時間まで寮に戻らなかった。オルセー家の名に恥を塗るつもりか? そんなことをしても何も変わらないぞ」


 庭園だったんだ。確かに緑が多かったしな。植物見てると落ち着けるよね。それにしても、兄は私を心配していた訳じゃ無かったんだね。やっぱりシェフィーリアのことはどうでも良いんだろうね。


 シェフィーリアは本当は影で努力していた良い子なのに。ちなみにこの情報の出所は公式裏ブックです。攻略対象者たちとのこれからやそれぞれの今までが載ってます。シェフィーリアもこれからは載ってなかったけど今までが載ってたんだよね。それで更に裏設定までが出てきた訳ですよ。


「人の話を無視するな!」


 突然右腕をぎゅうっとねじりあげられた。


「いっ! ぁ……っ!」


 右腕は、私が今朝作った肘にまでとどく大きな傷痕がある腕だ。それを捻り上げられるのはある種の拷問に近い。そしてもしもこれがバレたらどうなるか。怒られることは避けようがないはずだから。


 我慢、しなくちゃ。


「答えろ、何故寮に戻らなかった。それだけじゃない。何故入学式にも授業にも出なかった。お前はいったい何がしたいんだ!」


 あ、ちょっともう無理かも。我慢の限界かな。だってこんな、こんなにもシェフィーリアのことを考えていないなんてさすがに思ってなかったから。


 痛みで顔をしかめながらも兄の目を逃さないように睨み付けた。そして息を吸う。


「では逆に聞きますが。貴方はいったい私の何を理解していらっしゃるので? 聞きたいことを高圧的に求めて私を案じる言葉をかけたかと思えば家の為。でしたら私は何を主として生きていけば良いのですか? 貴族階級が上であるから敬えという大人たちの言っていることが正しいならば何故こうも私は貴族階級が下回っている者たちに馬鹿にされなければならないのですか? 馬鹿で無様で最底辺にいて家の権威を振りかざしているだけのこの私にお教え願えますか? 分かるように説明していただけますか?」


 兄の強い力で捕まれた腕はどうやら傷が開いてしまったらしい。真新しい制服の中を血が流れるのがとても不快だ。


 そして兄の化け物を見るような目も。


 兄を睨み付けている私自身も。


 とても不快で、そして醜い。


 それでも走り始めてしまったからには止まれない。最後まで突っ切ってやる。どうせなら悪役令嬢も演じきってしまおうか。


「どうせ反論は出来ませんよね? 私の質問に答えることだって。だって貴方は何一つ分かっていない。ただ己の沼に溺れているだけなのだから。井の中の蛙とは貴方のことを示すのかも知れませんね? 分かっているようで分かっていない。滑稽ですわ。嗚呼、本当にここにいるのが私で良かった」


 あんなにも純粋なあの子(シェフィーリア)がここにいなくて。


 彼女が狂ってしまった理由の大半は十中八九この人たちのせいなのだから。


「お前は、何を言って――」


「いい加減に放してくださいませんか? 腕が痛いのですが」


 わざとらしく話を遮って苛立ちを増加させる。私の言葉に拘束を緩めた隙をついて兄の手を大袈裟に振り払ってやった。

肌に兄の手が触れて視界に朱が飛び散った。


 ごきげんようの一つも言わずにその場を去る。幸い目的地は目の前だ。寮母がいるならばきっとその人に責められるのだろう。だけどそれすらもどうでもよくなってしまった。


 自分の気持ちを伝えてすっきりしたはずなのに、どこかが壊れてしまったようで。まるでもう直らない歯車のようにおかしくなってしまって。


 歪んでしまったものはやはり取り替えるしか無いのだろうか。


 ――私とシェフィーリアのように。


 次回は兄視点となります!


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