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2:悪役令嬢が兄と弟とご対面

 始めてみる馬車は大きかった。なのに中は見かけより狭かった。詐欺だ。


「早く乗りなさい。二人に迷惑をかけないようにね」


 ここまで連れてきてくれたお母様が行ってしまった。もう少し話したかったんだけどしょうがないか。また来れば良いし。


 そう思って馬車に乗れば、中には先客が二人いた。背の高い人とちびっこ。どちらも藍色の髪で違っていると言えば瞳の色。背の高い人は茜色でちびっこの方は碧色だ。

 ゲームで言うならば腹黒担当とショタ担当の二人が家族だというのは……新鮮だ。別に推しキャラではないからそこまで興奮しないんだけど。


 腹黒担当からじろりと睨まれたと思えば暴言を吐かれた。ショタ担当は目線すら此方に向けない。


「遅い。お前の都合に俺たちを巻き込むな」

「……こんなのが姉とか認めたくない」


(うわー、酷い言われよう)


 この行動に私がどうしたか。勿論無視です。ちびっこの向かいに座って何気なく外を見る。さてさてそれでは復習のお時間です。テッテレー。


「聞いているのか、おい」

「……人の話くらい聞いたらどうなの?」


 嫌だなこの空気。弟は自問自答っぽいけど兄がちょっとうざいな。画面越しに見る分には悪くなかったのに。というか邪魔するなよ。



「シェフィーリアッ!!」



 とうとう兄が声を荒げた。それだけでなく馬車の壁を拳で殴る始末。これはさすがに反応しなきゃ駄目かな? 視線だけは向けてあげよう。


 視線向けたら睨まれたー。こわーい(棒)。


「遅れてきて俺たちに何か言うべきことは無いのか?」


 なに、謝罪? 確かにそれはしなきゃ駄目だな。遅れてしまったのは事実だし。その気持ちを表すためにもわざわざ兄の方に向き直って頭を下げた。


「遅れてきて申し訳ありませんでした。以後気を付けます」


 軽く下げた頭を上げれば二人は驚いたように私を見ていた。え、謝罪方法間違ってた!? 表情には出さないように気を付けたけれど内心では心臓がバクバクしている。

 そんな私より先に二人が顔を背ける。


「わ、分かれば良いんだ!」

「天変地異の前触れ……?」


 呟きは私の耳には入らなかった。けど聞き返す気も起きないのでいいや。どうやら作法も間違って無かったみたいだし。やはりこういうのは体が覚えているものなんだろうね。

 一応五月蝿い兄弟の前なのでお行儀良く座っておく。背筋もまっすぐ伸ばして座る。そして先程打ち切られた脳内会議をスタートする。


(えー気を取り直して! 第一回復習タイム! いぇーい)


 お題は兄と弟のことについて。まず兄。名前はジェラルド・オルセー。次期オルセー伯爵。高等部生徒会副会長で高等部二年。腹黒。次期皇帝陛下の親友。 


 次に弟。ヴォンバルド・オルセー。中等部生徒会副会長で中等部三年。基本無口。本の虫。


 兄と弟で副会長やってるってどうなの? ってコメがめっちゃ多かったなそういえば。なのにシェフィーが生徒会入ってないって何故に!? みたいな。


 やっぱりシェフィーがこうなったのは親と兄弟の責任が多いと思うんだ。この非情者たちが。可哀想なシェフィー。しくしく。


 一通り心のなかで泣き真似をした後で溜め息をつく。


 さて、ふざけるのはここまでにして真面目にこれからを考えようか。だって死にたくないし。やっぱり基本関わらないのが一番かな。攻略対象者もヒロインも。兄と弟はしょうがないから例外で。でも自分からは話しかけないから。絶対話しかけないから。


 イベントが起きそうなところには極力近寄らないようにすればいいよね。


 これからのことを考えると憂鬱だ。嫌な予感しかしないよ。今頃シェフィーはどうしてるんだろうなぁ。会ってみたいなぁ。旨くやってるかなぁ。


「はあ……」

「「っ!」」


 二人がびっくりしたような気がした。まあ気のせいだろうけど。


「……」

「……」

「……」


 それから馬車が停まるまで私を含めて誰もしゃべることは無かった。そして停まって扉が開かれたというのに誰かが降りることもなかった。


「おい、早くしろ」


 焦れたように兄が声を上げる。もしやこれは私に言ってるのか? 降りろと? 抵抗するのも面倒くさいからとっとと降りるか。


「では私はここで失礼します」


 鞄を掴んで馬車から降りる。全く面倒くさい。馬車が去っていくのを見ながら私は考える。


 親にばれないように兄たちもまたシェフィーリアを虐めているのではないかと。


 ヒロインを虐める悪役令嬢と一緒に登校するなんて耐えられない、というところだろうな。


「絶対そうだろうね。あの兄の様子からすれば」


 あの兄は本当に私を目の敵にするのをやめてほしい。これからも絶対につっかかってくる。気象予報並に当たると思うよ。


「さて、私もそろそろ行きますか」


 馬車が去った方向へと足を向ける。しかしここで大きな問題にぶち当たったことを私は今知った。


「……ここから、どうやって学園まで行くの?」


 シェフィーリア・オルセー十五歳。訳の分からん場所で降ろされて、迷子になりました。

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