1:悪役令嬢の転生アンドお母様襲来
本日二つ目! といってもさっき投稿したばっかりです。
「……眩しいなぁ」
太陽とは確かに素晴らしいもので私たちが生きるために必要不可欠な存在であるとは思うんだけどここまで存在を主張しなくて良いと思うんだよ。
つまり何が言いたいかって言えば……。取り敢えず二度寝します。
「嗚呼……。いつもより布団がふかふかしている気がするのは何故?」
布団って昨日辺りに洗濯されたっけ? 何でこんなに高級そうな手触りなんだろうか。こんなに良い布団を使えるのなんてどこかの乙女ゲームのお嬢様くらいじゃ――。
……。
乙女、ゲーム?
「あああぁぁぁあ!!」
そうだ! 転生!! 私、悪役令嬢になったんだった!
がばりと起き上がったときに枕を落としてしまったけど気にしない。そんなことよりも今の状況の方が気になるし。
戦姫ジュリエッタ~虹の貴公子達~という乙女ゲームにそっくりな世界に転生してきた私こと三神美雨は、確かにゲームにおいての悪役令嬢であるシェフィーリア・オルセーとして生まれ変わったようだ。その証拠に彼女特有の黒い髪が見える。
……いや私も黒髪なんだけど! ショートだったから!!
とにかく戦姫ジュリエッタとは女性向けのシュミレーションRPGである。スマホゲームだというのに以外と容量が少なく、バトルにもかなり凝っているので密かにやってる男性も多いとか。
その中に出てくるシェフィーリア・オルセーはゲーム内で我が儘で貴族中心という考え方をしていると描かれている。でも私たちみたいなプレイヤー側からすればただのツンデレな女の子なんだよね。シェフィーファンも出来てたし。主人公より人気があるってどういうこったい。まあ、私にそれを言う権利は無いんだけど。
で、なんでシェフィーが自殺したかって言うのは……。シェフィーが残していた手紙によって分かった。恐らくカミサマが言っていた「行けば分かる」っていうのはこの事なんだろう。自分の性格の性で周りに誤解させてしまい後戻りが出来なくなってしまった為、自殺を決意したということが書いてある。あとは家族に対する謝罪か。
「どうなさいました!?」
メイド服を着た若い女性がドアを開けて駆け寄ってきた。私が眠っていたベッドから数メーター離れたところまで。
(え、ちょっと遠すぎない?)
メイド服を着た若い女性(面倒くさいので以後メイドと呼ぶ)は私からしっかりと距離をとっていて顔は青ざめている。どうみても怯えているな。
(そういえばシェフィーはメイド達にも怯えられて嫌われていたんだっけ)
それでもはっきりと態度に出しすぎじゃないかな。居心地が悪いよこれじゃあ。取り敢えずこの場を切り抜けなきゃ。
「あ、ええと少し怖い夢を見てしまって……。わざわざ来てもらったのにごめんなさい。もし良ければお水を持ってきて頂けないかしら?」
令嬢らしく頑張ってみたんだけど、どう? ちゃんと微笑みもサービスしてるんだけど。
「か、かしこまりましたっ!」
駄目だったみたいだね。思いっきり逃げられた。
すぐに水の入った硝子を持ってきたメイドを下げて再びベッドへ倒れ込む。落ちた枕を拾うことも忘れない。
「どうしようかな、これから」
本来なら学園にいるはずの私が恐らく自宅にいるのはそれなりの理由があると思うんだ。皇太子が嫌になった~とか。勝手に動いて私がシェフィーリア・オルセーでないと判断されれば面倒だな。さて、どうしようかな。
「とにかく死刑とか嫌だな。追放は別に良いけど」
ゲームのラスト、シェフィーの断罪されるシーンは二パターンしか存在しない。それが死刑か追放。割合的には九対一。
「改めて考えると割合おかしくない?」
まあ、主人公と同じくらい強力な魔力を持っているんだから当たり前か。ゲームでは主人公と戦姫の座を巡っていたとかあったしね。わざわざ戦場に出たがる意味と神経が分からん。
「取り敢えず、学園に戻った方がいいのかな?」
そう考えたところ、タイミングよく声がした。
「シェフィーリア、貴女まだ準備出来ていないの? 二人はもう馬車に乗っていると言うのに」
誰だ? そう思ったのも束の間。此方の了承も得ずに扉が開かれた。即座に跳ね上がって良かったと思う。
現れたのはゲームの中のシェフィーリアに似た女性。二十代後半辺りか。
その女性は私を見て顔を青ざめさせた。私を見るだけでそうなるの止めてくれるかな。シェフィーは何も悪いことしてないのに。だけどその女性の反応はメイドとは微妙に違った。次に現れた感情は――怒りだった。
「シェフィーリア! 貴女馬車に乗る時間を忘れていたのでは無いでしょうね!? 何故まだ着替えていないの? 荷物を用意してあっても意味が無いでしょう!! 髪も整えていないし! 早く着替えなさい! 寝転んでいる時間は無くてよ!!」
「は、はいっ!!」
完全にお怒りモードの女性相手に歯向かうことは叶わなかった。反射的に立ち上がって返事をしてしまうほどには従順である。
そのまま腕を掴まれクローゼットまで連れていかれ中にあった制服に着替えさせられ髪を整えられる。そして十分程で「令嬢」が出来上がった。
「うわぁ……!」
思わず感嘆の溜め息が溢れ落ちるほど見事な出来。くるくる回って後ろまで確認する。だってこんなに上手に編み込み出来るなんてっ!
「何を驚いているの? このくらい出来て当然でしょう? 私の娘なんだから」
呆れるように私を見る女性はお母様だったか! なるほど私に似ているのも納得だ。というか令嬢はこういうことが出来るものなのか?
少々の疑問が残ったけれどもシェフィーの姿で着飾られるのは中々に悪くないため、満面の笑みでお母様にお礼を言うことにした。
「お母様ありがとう!!」
一瞬虚を疲れたような表情になったのは何故だろうか。気になったけれど馬車が待っているとか言っていたな。どこで待ってるんだ? もしやこのまま置いていかれるとか!? それだけは阻止しなくては!
「お母様。私は是非ともお母様にお見送りをして頂きたいですわ。馬車まで一緒に参りましょう?」
どうだ! 私の渾身のお願いは! 一緒に行ってくれるよね?
お母様は答えることなく扉へと歩いていった。オーマイゴッド! 駄目だった?
と思った矢先、お母様が振り返った。
「何をしているんですか、シェフィーリア。置いていきますよ」
嫌です嫌です! 置いてかないで~! 急いでお母様の元へと向かう。
やはりお母様は優しい。
結局馬車に辿り着くまでお母様とは会話をしなかったけどちょっとだけ温かい気持ちになった。
お母様以外と好い人だった。書いていてビックリ。