閑話:元悪役令嬢のその後2
なんかこっちはこっちで新しく書けちゃいそうだ……。
トイレ、というのはこの白い塊のことだったみたい。一通りの使い方を教えてもらってから少しの間その部屋へ籠る。
「それで! 貴女は本当に美雨じゃないの? いつもみたいにふざけてるとか冗談じゃなくて」
目を鋭く光らせて私を見る桜さんは、どこかお仕事をしているときのお父様にそっくりだわ。それももう、昔のことだけど。……あの頃は楽しかったわ。
「はい、私はシェフィーリア・オルセー。オルセー伯爵家の長女です。目が覚めたときにはここに居ました」
「っ! そっ、か……。なんとなく察した。某アニメ映画の入れ替わってる!? の永久版ね、きっと」
背を伸ばして反対側にいる桜さんにもう一度私の名前を伝えた。察した、ということは私のことをシェフィーリア・オルセーだと認めてくれたのでしょう。でも、あにめとか入れ替わってるとは一体どういうことなのかしら。
私と桜さんは、私が起きた部屋に、つまり美雨さんの部屋にいる。何故か二人でベッドの上に足を揃えて座っているのだけど、流石に足が……。やっぱりこれはベッドではないと思うの。
「簡単に、だけど説明するね。まず貴女はスマホ用乙女ゲーム戦姫ジュリエッタ~虹の貴公子達~の悪役令嬢なの」
どうしましょう。何言ってるのか私には全く分からない。すまほ、げーむ、じゅりえったの意味がまず分からないわ。そうしたら分からないという顔をしていたのでしょう、戦姫ジュリエッタ~虹の貴公子達~というのはタイトルなのだと教えてもらったわ。
「ようするに、私の世界はこの世界で物語になっているのね。その主人公が今年入学する平民の子だと」
「そう。納得?」
納得……したと思う。まだよく分からないところがあったりもするけど。
「ただいまー。姉さん今日のご飯は?」
どたどたという音と共にそんな声がした。扉からひょっこり顔を出したのは中々に格好いい男の子。
「陸」
「あ、桜も来てたんだ」
「……」
「姉さん? どうしたの?」
お、おとこのこ……?
「……」
「……?」
「あ、ちょっとり――」
「どうもしてないわ! さっさと出ていきなさい!」
きゃあああ! おとこのこ、格好いい男の子がいる!? どうして、どうして!? いやいやいや、いやよ!
「――リア、シェフィーリア!」
「う、あれ?」
「落ち着いた? 大丈夫?」
「桜さん……?」
あら? さっきのは、幻? ええそうね、きっと幻に違いないわ。
「ごめんね、人が苦手なんだよね。忘れてたよ」
え、ということは……。
「私、またやってしまったんですか?」
これでも顔色を伺うのは慣れているの。言葉より、そんな顔をされる方が辛い。
「す、すみませんでした……。私、なんてことを……!」
謝っても遅いだろうけど、それでも。
「落ち着いて。別に責めてるわけじゃないから。ね?」
桜さんは、優しい人ね。今までこんなことを言ってくれる人は居なかったから。
「取り敢えず、何があったのか、教えてくれる? 私も貴女のことを完璧に理解しているわけではないから」
私のことを理解していても、していなくても。私を私として見ていてくれたのは貴方だけ。そんな貴女が言うのだから、私も話しましょう。私が今も覚えている、あの事を。
「……昔、本当に昔のことです。私がまだ家族や使用人と仲の良い頃のこと。私と殿下の婚約が決まった少し後のことです」
あのときのことは今でも鮮明に思い出せる。信じていたのに、裏切られた。あの声も、表情も脳裏にこびりついて消えることはない。
「当時の私は五歳でした。年のわりには大人びていると何度言われたことだったか。ある日、私は一番仲の良い使用人を探して屋敷を走り回っていました。花冠を渡したかったのです」
そしてやっとのことで見つけた。侍女長と話していた彼女の後ろ姿を。青紫の三つ編み。真っ白なエプロンの紐。そして聞こえたその声は。
「お嬢様のことですか? 才女と持て囃されているだけの子供ではないですか。大して顔が良いわけでもない。そこまで頭が良いわけでもない。甘えているだけの子供ですよ。……彼女はそう言ったんです」
そんなの、耐えられるはずもなくて。逃げ出して。
「それから私は顔の整った人や頭の良い人がどうしても駄目で……。あの声が聞こえてくるんです。もう、いつまでも離れなくて。そうしたらいつのまにかいろんな人が私の周りからいなくなっていったのです」
「え、じゃあ私は?」
「……………………………………あれ?」
確かに、どうして桜さんは大丈夫なんでしょう? 桜さんも美形です。とても顔が整っています。
「なんだろう、ちょっと悲しい」
いや、そういうつもりでは無いんですよ!?
皆様にお知らせ。ちょっと更新速度落ちるかもです。それと次も閑話です。