14:悪役令嬢は緑の小人とお話しします
目の前の口から発せられた「信じられないことに」という言葉が頭の中を素通りする。
全、属性持ち? 私が? それは――。
「世界に数人しかいない適合者。その一人が新たに判明したんだ。努力を続ければかなり高密度な魔法が使えるはずだ」
それは知ってた!
けどなんで今? ゲームではこのイベントが起こるのはもっと先のはず。正確に言えば二ヶ月後の魔導競技祭でリートと互角に戦ったことによって改めて測定したら分かったっていうストーリーになる。
今回起こるはずのイベントはシェフィーリアによってリートが虐められるってことのみ。先に測定をしたシェフィーリアがリートに「礼儀もなってないのね」って言い捨てて森の探索へと向かう筋書き。
もしかして、私が此処に残ってしまったから……?
「初等部と中等部の頃にはそんな片鱗は欠片も無かった」
それは知らない。……って! いつのまにか先生が近くに来てるっ! 無意識に後ろに下がる。昨日、私が座っていた椅子が真後ろにあった。
「いったい、この休暇で君に何があった?」
肩を押されて思わず座り込む。そして目の前には先生の顔。乙女ゲームの登場人物よろしくイケメンだ。攻略対象じゃないのに。
しかも先生の腕が椅子の背凭れについているから顔が近い。全体的に近い。密着しすぎだと思う。誰かに誤解されるから本当に離れて欲しいです!
「俯かずに目も開けろ」
思わず目をつぶるくらい良いじゃないか! でも何か言わなきゃダメだよね! なんとかしなきゃだよね!
「こ、婚約者でない相手にこれほど近づくのはあまりよろしくないかと思われます……!」
言った! 言ったよ私! さあ先生よこれで退いてぇぇぇ!!
「そんなことはどうでも良い。私は君に興味があるんだ」
……どうしろって言うんだこれは!! 私これでも伯爵令嬢なんですけど!
「わ、たしは……!」
『おー。お前また来てたのか。逢い引きか?』
「逢い引き違うっ!」
目を見開いて怒鳴ったら先生の驚きの顔が見えた。けど今は誤解を解かなくちゃいけないので!
「おい、今のは――」
『じゃあなんでこんな体勢なんだ?』
「不本意だからっ! 私のせいじゃないからっ!」
「だからなにを――」
『一度離れた方が良いんじゃないか?』
「それが出来たらそうしてるよーーっ!!」
『んじゃあ、ほい』
とっても軽いかけ声と一緒に、私の前から影が消えた。光が直接当たって熱い。そういえばまだ昼なんだなと改めて感じた。
そして先生は――。
「どうなっているシェフィーリア・オルセー!」
荊に吊るされていた。
え、あれ? 何がどうしてこうなった? なんか色々とおかしい気がするんだけど。
『ほら! お前がそこまで言うから離してやったぞ!』
「へ?」
目の前には緑色の小人がいる。ふわふわ浮きながら胸を張ってどや顔している。これはまさか……。精霊?
『だからお前が嫌がっていたからあいつを吊るしたぞ!』
「うん助かったけどそこまではしなくて良いかな取り敢えず先生の解放を要求します!」
心遣いは感謝するけどそれはさすがにやり過ぎかな!? 先生の視線が怖いのもあるので早く解放してあげてください。眉尻を下げて「えー」なんて言わないの!
『うー』
ぼてっ。
適当すぎやしないかい? ぼてっ、とか聞こえたんだけど。
音の発生源にはもう荊はなくて先生がうつ伏せに倒れていた。
……怒られるよね、これは。
「おい、それは……なんだ?」
「それ、と言われますと?」
「だから! これだこれ!」
先生が指したのは緑の小人。等の本人は不機嫌そうに頬を膨らませているのたけど。
「小人のように見えますが」
確かにこの小人の正体は私も気になるな。いったい何者なんだろうね。
『これとかそれとか失礼じゃないか?』
「先生。小人が怒ってます」
確かにこれとかそれとか呼ばれるのは私も嫌だな。
「……要するにお前の目の前には精霊がいるということだな?」
「そう、なりますね」
「精霊が人間の前に姿を現した? そんな事例は聞いたことがないな。確かにこの規格外の魔力ならあり得るかも知れないがそれだけで現れるものなのか? 精霊は人嫌いとして有名だ。側にいることを嫌って出てこないことが多く――」
『さっきからこいつは何を言ってるんだ? 俺が出てきた理由なんて血の臭いがしたからなのに』
「え?」
血の臭いってそんなにすぐ分かるものなのかな? 怪我くらい誰でもするだろうに。
なかなか攻略対象の人たちと絡ませてあげられない……。
最近何ヵ所か直しました。ご指摘して下さった方々ありがとうございました。